駅伝。伝えるという事。     13日。

 

駅伝は良い。伝えるものがあるのは良い。

今も走っているが,ゴールには誰もいない。

いつも一人で走りだし,一人で頑張り,一人でゴールに倒れこむ。

そして一人で家路につくのだ。

淋しいぜ! (+_+)

 

選手の胸に揺れるたすきには,アナウンサーではないが,思いがこもっている。

夏の日の地獄の合宿,仲間との励まし合った思い出がある。

共に見た夕日の思いがけない美しさがある。

最後まで聞いた互いの荒い息づかいがある。

 

たすきには様々な思いがある。重いが,それが思いだ。

 

中学の時だ。野球部でレフトを守っていた。

7回の裏,最終回,31.ツーアウトランナー2塁。勝っていた。

 

5番のドデカイ奴が,センターへ低いライナー。

ライナーは打った瞬間体が前に出る。そして玉は伸び頭上を越えていく。一番恥ずかしく腹立たしい場面だ。

 

センターがそれをやった。一気にボールは転がっていく。

センターはチビで肩が弱い。しかし実は不良でケンカ早く,パンチは弱いのだが,先手必勝,一気にたたみ掛け,勝ってしまう。不良仲間のリーダーだ。

そいつが真っ青になってボールを追いかけていく。

 

僕もすぐにそいつを追った。その球場のセンターは深く,ボールは転々と転がっていく。僕は彼が肩が弱いことを知っていたので,どんどんと追った。振り返るとショートがセカンドベースを20mほど後ろにし,カットに入っている。その向こうにセカンド,その向こうにホームベースが見え,さらにその後ろにピッチャーがカバーへと走っている。

見事な一直線だ。

日の光にグランドは白く輝いている。

音が消えていた。

その直線にボールを乗せる。

 

セカンドランナ−は既にホームイン。打ったランナーはセカンドベースを蹴っていた。

 

センターが追いつき振り向きざま僕に投げた。

力んでいてボールは地面にすぐに叩きつけられたが,いい具合に跳ね僕に届いた。

 

僕は肩が強かった。ショートは前に出たいのをこらえ両手を上げた。僕は体を前に投げ出しながら,ノーバンでショートをめがけた。中指が良い具合に引っ掛かり,まっすぐショートのグラブに入る。

ショートはくるりと振り返り小さく手を振った。

セカンドがマウンドの前でカットに入っている。

セカンドは受ける姿勢を瞬間半回転させ,ボールを通した。

低い弾道で小さな白い点が移動し,同じように小さな茶色い点に吸い込まれ,砂埃が上がった。

審判の右手が上がっている。

 

ショートはキャプテンで何かと僕をかばってくれた。

セカンドはひょうきん者でいつも僕を笑わせた。

キャッチャーは無口でどっしりしていた。

 

遠い夏の日,遠いグランドの果てから遥かなホームベースへ白いボールを伝えた。

 

伝えるものがあるのは良い。