パサージュ−75

駐輪場の奥の植え込みの並ぶ湿った土を掘っていたら、鉄の鶏が出てきた.

50cmほどの幅で、厚みがあり、鶏の鶏冠や顎の下の垂れた部分が錆びて土にまみれていたが、しっかりと残っていた.それで鶏だとわかった.

実際の小さな鶏ほどの大きさで、鉄の鶏は冷たく湿っていて、まっ黒で重い.

 

 

部屋に戻り洗ってみると、赤茶け、ところどころ穴が開き、輪郭は崩れ、すると鶏冠と顎の下のたるみは全体の中で一番しっかりと原形をとどめている所だった.

 

とにかく重い.

体重計にのせてみたら12sと少しあった.

二本の足の下に台がついている形なので、置く事ができる.

畳の上に置き、正面から見ると、尖った口先の後ろに小さな丸い目がしっかりと残っている.

それがじっとこちらを見つめている.

 

あまりいい気持ちではない.

今にも目をつつきに飛びかかってきそうだ.

 

横に向ける.

鶏冠から急に首が急カーブを描き15センチほどすとんと落ち、急に今度は急カーブを描き上昇し、尾っぽが幾つにも分かれ伸びていく.だがその部分はかなり錆び落ち、がたがただ.

 

離れて見ると雨に濡れた猫のようにも見え、これは気持ちが悪かった.

一度雨に濡れてふらふら道路を歩いている猫を車の中から見たことがあった.

車に当てられて意識が朦朧としているのか、病気なのか、そんな猫は初めて見たので、今もその姿を思い出すことができる.

 

どうも幸福を運んでくる鳥のようには見えない.

大体なんでこんなものが埋まっていたのだ.

それになんでこんなものを掘り出して洗って部屋に置かなければならないのだ.それにでかくて重いのだ.

けっこう時代物なのかもしれない.

江戸時代のとか室町時代とか.

いやもっと弥生、縄文?

 

実際ここではないが近くのニュータウンでは、縄文の遺跡が発見され、開発前に2年かけて発掘作業が行われた.

だが縄文時代に鶏はいたのか?

 

どうでもいい.

とにかくこんなもの部屋に置いてどうするかだ.

 

 

翌日友だちから電話があった.

最初何の電話かわからなかったが、ひとしきり友だちの近況を話し終えてから、実は龍の置物を掘り出してね、と恥ずかしそうに話し始めた.

友だちは一戸建ての家で、庭の隅を掘っていて見つけたそうだ.

コブラが頭をもたげている感じで、50センチほどの高さでS字型に伸びているらしい.

よく折れてなかったと思うよ.龍の体は直径5センチほど.真っ直ぐ伸ばせば全長6,70センチほどかな.

だいぶ腐っているので泥だらけのホースっていう感じでもあるけどね.

こんなこともあるのだ.

ぼくは鶏を掘り出したことを話した.

 

鶏と龍か.

この二つを合わせると何かが起きるわけだな.

僕らは笑った.

 

こうなると捨てるわけにもいかなくなった.

いやもともと捨てることなどできなかったから、いい言い訳ができたと思った.

この二つを大事にしている限り世界は破滅から免れるのだ.

 

 

それから僕はダイソーに行き、100円で、水入れ、ロウソク立てとロウソク、チ〜ンと鳴らすやつを買い、本棚を一つ空け、最上段に鶏を置き、その横に榊なのかどうかわからないが緑の葉を、その横にロウソクを置いた.

 

そして毎日ロウソクに火をつけ、チ〜ンと鳴らし、鶏に向かって拝んでいる.

仕事のこととか、両親のこととか、世界平和のこととか、そして最後にほんの少し自分の幸せのこともお願いした.

 

まっ黒で重くがたがたの鶏は何のお告げもくれないが、僕はとにかくきちんと拝むことはしようと思うのだ.

 

2006.1.18