パサージュ−21 裏切られたら,どこか燃え上がる砂漠へ旅立とう. 熱く焼け爛れながら,世界に唾をはきかけよう. 涙を流す自分を眺めよう. 誰も殺せなかったからと自分を責めよう. 耳が燃え上がり,鼻が落ち,歯茎が溶けていく. いつも自分を抱きしめていた.いつも自分の鼓動を聞いていた. 誰の声も聞いてはいなかった.血だらけの声を鼻で聞いていた. 血だらけの夢を笑っていた. 遠くではさみを持った子供たちが大勢駈けて来る.白い歯が炎の中輝いている. ピンク色の舌が見える. きっと僕の耳を切り落とし足で踏みにじるのだろう. きっと指の1本1本を切り落とし皆で笑い合うのだろう. でももう僕の耳も指で焼け爛れて赤い砂の中へと染み込んでいった. いい気味だ おまえ達のせいで,僕は裏切られた. おまえ達に裏切られた.おまえ達のためにいつも明け方まで走りつづけた. おまえ達の迷惑も考えずに. 燃え上がりながら砂の上をぼくはかける.追いかける子供たちを引き連れながら,僕は砂を溶かしながら走る. 蹴りあがる砂が陽光に弾け,黒く光る. そこに子供たちの歪んだ微笑がいくつも映る. 体の半分が燃え尽きた. 僕は炎の中で密かに微笑んでいる. これから殺してやる. 子供も大人も殺してやる.きれいさっぱり殺してやる.もう僕には2本の足しかない. 2本の足で走るのだ. ぼくは小さな炎となって,2本の短いろうそくとなって,一人無音の砂漠を走るのだ.
2001.4.25. |