日本はどうする?(5) ●タリバンとは? ソ連(それん)はやっつけたが,国内(こくない)に平和はこない。 アフガニスタンでは裏切り(うらぎり)と憎(にく)しみ,絶望(ぜつぼう)が続いた。 最初,アメリカとソ連はアフガニスタンを狙(ねら)っている事は隠(かく)しながら,助けた。 嘘(うそ)の援助(えんじょ)だ。 しかしソ連がついに正体をあらわし,戦車(せんしゃ)で自分達に都合(つごう)のいい政権(せいけん)を作ろうとした。 アフガニスタンは1つになり,ソ連が作ったあやつり政権と戦い,勝った。 しかし勝ったグループ内で政権争(せいけんあらそ)いが始まった。 民族(みんぞく)と宗教(しゅうきょう)が違ったのだ。 内戦(ないせん)が続く。 さらに今度は隣(となり)の国,パキスタンがアフガニスタンを引き込もうと,アフガニスタンからパキスタンに逃げてきた人々を受け入れた。 そしてその人々の子供たちが通うイスラムの神学校(しんがっこう)を援助した。 さらに銃(じゅう)の使い方も教えた。 その神学校で学んだ青年達は,アフガニスタンに戻(もど)り,今度こそ平和な国を取り戻そうと願った。 ●その神学校がタリバンであり,その学校の一番の先生がオマル師だったのだ。 だからタリバンはパキスタンが作ったとも言える。 さらにそのパキスタンの後ろにはアメリカがいた。 イラン,ソ連に対抗するためだった。 世界のもめごとの裏にはいつもアメリカがいるといってもいい。(もちろんアメリカの良い面もたくさんある。) 今回アメリカはパキスタンに,タリバンにつくかアメリカにつくか,せまった。 結局パキスタンはアメリカにつき,空爆(くうばく)をするための基地(きち)を貸した。 ●アメリカはいつも単純に物事を割り切る。 アメリカの味方か,敵か? 善か悪か? 資本主義(しほんしゅぎ)か共産主義(きょうさんしゅぎ)か? 自由主義か全体主義(ぜんたいしゅぎ)か? だが世の中とは,世界とは簡単に割り切れるものではない。 多くの民族,宗教,言葉がある。 黒い人,黄色い人,白い人。 混ざった人。 イスラム教,キリスト教,仏教,神道,ユダヤ教,儒教,ヒンズー教,ブ−ズー教,ラマ教,道教, そこから分かれた幾(いく)つもの宗教。 暑い所,寒い所,一年中雨の降らない所がある。氷だらけの所,雪ばかり降る所,砂だらけの所,緑のない所がある。 季節のある所,いつも太陽の輝いている所,日の沈まない所がある。 住む場所も色々だ。 歴史のある国,若い国,伝統のある国,特別な習慣,慣習のある国,混乱する国。 同じ民族でも住む場所や食べるもの,国の歴史が違えば,ものの見方も考え方も,感じ方も違ってくる。 それぞれみんな,それぞれの事情(じじょう)を持っているのだ。 それを一つにまとめようとするのが無理だしおかしい。 違うものは違う理由を持っている。 違う理由があるから違うのだ。 それを無理に1つにする事が無理な話だ。理の無い事なのだ。 話をタリバンに戻そう。 ソ連を撃退(げきたい)したグループはアフガニスタンに平和をもたらさなかった。 アフガニスタンは戦国時代(せんごくじだい)になった。 同じ国の人同士が戦った。 裏切(うらぎ)りが続く。 軍事力(ぐんじりょく)が全(すべ)てになった。 軍人たちは好き勝手を始めた。 勝手に自分達が支配している地域(ちいき)の道路に税(ぜい)をかけ,高い通行税(つうこうぜい)を住民から取った。 住民に暴力を働く。 この時ついに立ち上がった男がいた。 タリバンのオマル師だ。 30人の弟子を連れ,自動小銃(じどうしょうじゅう)16丁で戦いに身を投(とう)じた。 勝った。 その後もオマル師とタリバンは戦いを続ける。 軍事力がすべての裏切りの国に,イスラムの教えを守る事で平和をもたらそうとした。 タリバンは国民に支持(しじ)された。 タリバンの力でアフガニスタンに平和が戻ってくる,と国民は思った。 タリバンに国の未来を任(まか)せようとした。 国の80%近くをタリバンは押さえた。 だがこの頃から,タリバンの弱点が見え始める。 タリバンの弱点とは,実際的な政治能力(せいじのうりょく)がなかったということだ。 具体的(ぐたいてき)な,毎日の細々(こまごま)とした,政治。 国の予算(よさん)を立てる,立てた予算で,例えばどのように食糧(しょくりょう)を作り,保管(ほかん)し,運び,配(くば)るのか。 どこにどんな道路を作るのか。 どのような手順(てじゅん)で作るのか。 病院やみんなが使う建物をどこに,いつまでに,どう作るのか。 飢餓(きが 食べる物がなく,死にそうなこと)に対しどのような対策(たいさく)を講(こう)ずるのか。 何年も続い戦いで住む家のなくなった人々,仕事のなくなった人々をどうすればいいのか。 彼らにはその力がなかった。 彼らは神学校の学生だったのだ。 コーランの勉強と銃の撃ち方しか習わなかった。 彼らには現実の世界を日々動かしていく,処理能力(しょりのうりょく)がなかったのだ。 さらにこの時すでにテロの黒幕(くろまく 本当の犯人)の疑惑(ぎわく うたがい)のあったオサマ・ビンラディン氏をかくまった事で, 世界からタリバンは孤立(こりつ ひとりぼっちになること)した。 この時外国の援助があればタリバンは現実感覚(げんじつかんかく)を失わなかったかもしれない。 タリバンは自分達だけで,した事もない国の経営(けいえい)をしなければならなくなった。 そんな彼らが考えた事は,イスラムの教えを勝手に解釈(かいしゃく)し,国民に押し付け,自分たちの政治の未熟(みじゅく 力の足りないこと)さをカバーする事だった。 世界遺産(いさん)のバーミアンの大仏を破壊した。 してはいけないことをあえてして,国民に緊張(きんちょう)を強(し)いた。 厳しい戒律(かいりつ きまり)を国民に課(か)し,不満(ふまん)に耐(た)えさせようとした。 また飢餓(きが)と難民(なんみん)に悩む自分たちの国に世界の目を向けさせようとする目的もあった。 公開処刑,女性差別,麻薬栽培,男はあごひげを切ってはいけない,女は靴音を立てて歩いてはいけない。 無茶苦茶だ。 だがタリバンの指導者(しどうしゃ)たちも,それに従(したが)う若者たちも,最初は平和と正義を求めていたのだ。 タリバンは最初アフガニスタンに奇跡(きせき)を起こしたが,今は悲劇(ひげき)を起こしている。 |