日本の取るべき道。(3) みんなも何回か彼の姿は見たはずだ. やせた背の高い男.推定(すいてい)44歳. 悲しげな目をした男だ. 彼はサウジアラビアのお金持ちの息子として生まれた. 大学では経営学(けいえいがく)を学んだ. ソ連がアフガニスタンを侵略(しんりゃく)した時,彼は同じイスラム教徒としてソ連と戦った. サウジアラビアの建設王(けんせつおう)である父親から3億ドル(日本円で450億円)を相続(そうぞく)した時,そのお金を使ってソ連を攻撃するための新しい道路を使り,戦いを有利(ゆうり)に導(みちび)いた. ソ連のヘリコプターからの攻撃に誰もが尻込(しりご)みした時,彼は自(みずか)らブルドーザーに乗り込み,突進したという. このソ連との戦いでは,今は敵をなっているアメリカは彼は助けた. オサマにアメリカは武器援助をしている. 敵の敵は味方だということだ. 10年後ソ連はアフガニスタンから撤退(てったい)した. 負けたのだ. オサマは英雄として故国(ここく),サウジアラビアに帰った. 1991年,イラクがクエートに侵攻(しんこう)し,湾岸戦争(わんがんせんそう)が始まった. アメリカを中心とした多国籍軍(たこくせきぐん)が圧倒的(あっとうてき)に勝った. しかしアメリカは自分たちの力を中東に残すため,サウジアラビアに軍を置いた. サウジアラビアはイスラムの聖地(せいち)だ. 「聖地を異教徒,キリスト教徒が汚している」 オサマはそう感じた. 今から3年前,98年に彼はインタビューを受けている. そこで彼はアメリカのイスラム教徒への虐殺(ぎゃくさつ)を盛(さか)んに口にする. 「多くのパレスチナの子供たちがイスラエルの攻撃で殺されている. 崩(くず)れる建物(たてもの)の下で多くの子供が死んでいる. イスラエルの後ろにはアメリカがいる. 兵士も民間人(みんかんじん),女,子供も関係なくアメリカはイスラムを攻撃する. しかしそれは報道(ほうどう)されず,イスラムの攻撃ばかりがメディアに載(の)る. 広島,長崎でもそうだった. 大勢の非戦闘員(ひせんとういん)が殺された. アフガン空爆直後に公開されたビデオでも,彼は広島,長崎の名を口にして,アメリカこそがテロ国家であると言った.. 我々はアメリカの広島,長崎への原爆投下をあまり非難(ひなん)する事はない. だがこれはおかしな話だ. 東京大空襲(とうきょうだいくうしゅう)も,広島,長崎への原爆投下(げんばくとうか)も,民間人(みんかんじん)の虐殺(ぎゃくさつ)という点では,問題がある. してはいけない戦争をしたのだからしょうがない,という感覚があるのだろうか. それとも新たな報復(ほうふく)が生む憎悪(ぞうお)の連鎖(れんさ)を断(た)つために,日本人はアメリカを許(ゆる)したのだろうか. この事はまた別の機会(きかい)に考えたい. それにしても関係の無い乗客といっしょに自爆するという行為(こうい)は,狂っている. 明らかに狂っている. これはどのような思想,哲学(てつがく),宗教をもってしても正しいとはされない. この自爆テロを正しいとする事はできないのだ. ではなぜオサマ・ビンラディン氏はそのような事を行ったのか. 実際に彼が実行犯(じっこうはん)だという証拠(しょうこ)は無いが,ビデオで見る限り彼は自爆テロを非難(ひなん)はしていない. 中東(ちゅうとう)アラブの国々の石油をアメリカ,ヨーロッパ(日本もだ)が奪(うば)った. そして自分たちの国だけはぜいたくな暮らしをし,石油の国の貧しさなど考えなかった. 今もアフガニスタンでは難民(なんみん)として死に瀕(ひん)している人は何百万人といる. イスラム教は誇(ほこ)り高き宗教だ. しかし他の宗教との共存(きょうぞん)は認めている. 「コーランか,それとも剣(けん)か.」 これはイスラム教に宗教を変えるか,そうでなければ剣を持って攻撃する. という意味だ. しかし実際は過去の歴史で,イスラム教を信じなかったからといって異教徒(いきょうと)を殺したということは,あまりないという. 政治的に従う,税(ぜい)を納(おさ)めるという形で従(したが)うという事で,信仰(しんこう)の自由は認(みと)めていたのだ. 他の宗教には寛容(かんよう)であることがイスラム教の特徴(とくちょう)でもある. ではなぜオサマはここまで突っ走ってしまったのか? 何がここまで彼を変えて行ったのか? 何が彼を追いつめていったのか? 確かにテレビで見る限り,アラブの普通の人々の暮らしは貧しい. 緑のない岩場(いわば)ばかりの国,小さな朽(く)ちかけた家,多くの家を,暮らす場所を,国を失った人々たち,難民(なんみん). といってだから彼らが不幸せだともいえない. 外見(がいけん)から人の心を判断(はんだん)する事はできない. しかし衣食住(いしょくじゅう)が十分でない事が貧しさに通じる事は否定できないだろう. オサマ・ビンラディン氏. 繊細(せんさい)で悲しげな目をした男だ. ブッシュ大統領. 深みのない目. 見せかけの強さ. そして繊細で澄(す)んだ瞳(ひとみ)を持った男を,なにが悪魔にしてしまったのかを,考えなければならない. そのためににも彼は話し合いの場に出る. それがイスラムの場でも構(かま)わないだろう. なぜ自分が狂ってしまったのかを彼は冷静(れいせい)に説明する責任(せきにん)がある. その時彼を狂わせたものの姿も,明らかになるだろう. そしてそれを第一歩として,世界がこれまでの憎しみと戦争と嘘(うそ)の長い歴史を反省し,殺し合いのない世界を作ることへの努力を確認する. そのきっかけとなりはしないか. そしてその時,日本の「戦争放棄」(せんそうほうき)という思想(しそう)は力になりはしないか. 「憲法」で「戦争放棄」があるから,日本のできる事は限られている. 限られた中で何ができるかを考える. 小泉さんはさかんに言う. 違うだろう. 「憲法」で「戦争放棄」があるから,新しい世界を作る可能性(かのうせい)が見えてくる. もしも日本に「戦争放棄」の「憲法」がなければ,世界から希望が消えるのだ. 日本は戦後56年間戦争をしていない. これは誇(ほこ)るべき事だ. アメリカもロシアもイギリスも中国もフランスもドイツもみんなしている. 湾岸戦争(わんがんせんそう)で戦争に参加しなかったのは日本だ. 日本は金しか出さなかった. 血を流す事から逃げた. 違う. 「戦争放棄」をギリギリ守ったのだ. これからは違う. もっと積極的に「戦争放棄」を言う. これからの新しい世界の仕組みを「戦争放棄」の立場から言う. 戦争はかんたんなのだ. こらえることがどれほどむずかしい事か. やられたからやり返す. 物のわからぬ子供のやる事だ. 人類は大人にならなければならない。 戦争以外でどう問題を解決するのか. それを考える. 実践(じっせん)する. それが日本の世界での役割だ. 大事な役割だ. たしかに日本にはあまりに荷が重い. どれほどの外交努力(がいこうどりょく)をこれまで日本はしてきたか. してはいない.十分にはしていない. そんな日本にできることとは. |