どら平太。 何と淋しい映画だったろう。 ストーリーに工夫があるわけでもない。抜け荷の仕組みも藩ぐるみで行っていることは,すぐ語られるし,一番重要なやくざと藩とを結ぶ人物が,どら平太を藩に呼んだ人物であることもすぐにわかる。話を盛り上げようとか謎を見る者に解かせようという意志もない。 良い絵,良いショット,良いカメラの動きがあるわけでもない。 だいたいその意志もない。一番の見せ場,宇崎竜童の切腹シーンも間延びして何の緊張感もない。 同じ役所広司であれば,テレビの「3匹が行く」の方がまだカットも,構図もいい。 人物の設定に面白さもない。 よくあるパターンだ。 せめて菅原文太のやくざの親分に期待したが,そこそこ役に収まっただけの存在感しかない。 一体なんなのだろう。 けっこう鳴り物入りの映画だったはずだ。 どのシーンにも寂しさだけがある。 詰まった感じがない。スカスカだ。溢れるものがない。輝くものがない。空虚だ。 どの役者にも,役を演じる喜びのようなものがない。役にそっと体を入れて動かせして,時間がくればそっと脱いでおしまい。そんな感じだ。鶴太郎や石倉三郎,浅野裕子にも期待した。江戸家猫八にも期待した。しかし退屈でしかなかった。 どうしてだろう。 市川昆(字がない)だぜ。 もっと面白くなったはずだ。 今この時代の時代劇を見たかった。 新しい様式美の時代劇を見たかった。 なんとも寂しい限りの映画だった。 |