青い金魚,そして繰りぬかれた体. −2

 

朝6時、教室。

ストーブの石油を入れたペットボトルを持ち、ぼくは教室に立っている。

寒かった。教室には明るい朝の光が斜めに差し込んでいる。小さなほこりがきらりと光り、ゆっくりと光の層を昇っていく。床のほこりが暖かな日の光にふっと舞い上げられていく。ぼくはそれをしばらく見つめていた。

知らぬ間に涙が流れ、汚れた床に小さくしみが広がっていく。

自分のいすに石油をかけ火をつけた。ぼっと火が上がり、人の形に見え、ぼくが燃え、黒く焦げていく。

 

ぼくは差し込む光の中に手を入れた。

  

 *                  *                    *

 

「じゃぁ、今度は赤と黄色と青にしようぜ。」

実は真面目な顔で行った。

「で、床に横断歩道描くのか?」

幸一が苦笑いしながら言った。ぼくも笑いそうになって事態の深刻さを考え、こらえた。3色のスプレーを持って教室に忍び込むのはぼくなのだ。

「いいよ、机で。リュウ、机燃やせ。教卓だ。」

実が言った。

「火は勘弁してくれないかな。怖いよ。」

「リュウ。」

「えっ?」

「おまえさっきピザ食ったよな。」

「うん。」

「ピザには色んな種類がある。だよな。」

「ああ。」

「たとえば、どんな種類だ?」

「いいよ。わかった。」

「言ってみな。」

「わかったよ。やるよ。教卓を燃やすんだよね。わかった。やるよ、やるさ。」

 

「おまえら何言ってんだ?」

実が目を点にして二人を交互に見ながら言った。

 

    *                   *                  *

 

朝の光の差し込む教室。いつかと同じだ。

ぼくは赤のスプレーを壁に向けた。シューという音と共に壁が真っ赤になっていく。ぼくは円を描く。

日の出だ。ぼくはそう小さく声に出した。いや血だ。おまえの血だ。すぐにそう声が跳ね返った。

壁が真っ赤になっていく。

ぼくの血が吹き出て行く。教室の前後左右の壁が真っ赤になる。

残りを天井に向けた時、シューという音がスーと音に変わり赤が消えた。

机の上にいすを置きスプレーを天井に向けていたぼくは、意味も無く、天井から落ちようとする赤い小さなしたたりを人差し指で受け止めようと指を伸ばした。

1cmほどの赤い滴りはなかなか落ちず、ぼくは背伸びをし、滴りを指ですくおうとした。

しばらくの間、ぼくは誰もいない朝の真っ赤な教室の机の上のいすの上で、必死になって指を全身を伸ばし続けた。

 

    *                   *                  *

 

「ピザがどしたんだよ?」

実が声を荒げた。

「リュウ、あとで教えてやんな。覚えてるよな。実、帰ろう。」

「リュウ、明日だ。明日話せ。」

実はそう言うと、残ったピザを口に放り込み立ち上がった。

 

覚えてるよ。覚えてるさ。あれからぼくは変わった。小6の冬だった。