塾日記    2008.3

 

白い月の魔法使いの年共振の月

3月1日

 

◎小学3年生の女の子。

とても真面目で、無口で静か。何でもきちっとする。

netでの進め方もすぐにマスターし、ノート作りもしっかりできる。

たくさん色を使い字もきれいで、姿勢も正しい。

成績も問題ない。

 

だが2回躓いたことがあった。3ケタの引き算と時刻。

説明をし、理解もしてくれたと思った。

だがそこから泣き出した。ちょっとそのままにしたが、なかなか泣き止まない。

「どした?わかんない?」

首を振る。

もう一度ゆっくり計算をして見せた。

泣きながら鉛筆の先を見ている。

「どう?」

うんうんとうなずく。目を見る。

わかっている。

悔しいのだろう。きっと。

 

あまり色々なことを表情には出さない。グッとこらえて自分の中でためてしまう。

どんどん一人で進めていけるので、時々十分な声がけができないことがあった。

気をつけていたが、反省した。

できない子が多い中、できる子は任せてしまいがちになってしまう。

勉強に関してはいいが色々と話を聞いて、話しをさせて、いつも心をすっきり軽くしておかなくてはならない。

家でも突然泣き出すことがあるらしい。

母親が面談で言った。

原因は随分前のことで、それがたまり、ある日堰を切って流れ出してしまうらしい。

 

兄ちゃんがバレーをやっている。

お母さんもお父さんもやっている。バレー一家だ。

全国レベルの大会にいつも参加している。

区の大会から東京、関東、全国と進んでいる。だから年中試合がある。

兄ちゃんは一時期教室でいつもうとうとしていた。疲れているのだ。

コーチもいて監督もいて合宿もある。実に本格的なのだ。頭も坊主だ。

 

妹も3年生ではあるが、試合は多い。

初めて試合に出た時ボールを顔に当ててしまい、「怒りに火がついた」らしい。

「それからこいつうまくなり始めたんだ。」と兄が言うと、ちがうよ、と妹が怒る。

 

素直で真面目で、負けず嫌い。

バレーのことを聞くとニコニコと話してくれる。

もっともっと気をつけてみていかなければならないと思う。

 

 

◎小学生2年の女の子。

入会当時はポカ〜〜ンとしていた。

突然座り込んでニコニコしている。

首をぐるりと回して、壁や天井を見回す。

珍しいのだ。今度は首を反対に回す。う〜〜と言ってまた壁や天井を見回す。

それから、ぼちぼちと勉強が始まる。

 

数字を書いてみせる。

文章を読んでみせる。

計算をしてみせる。

漢字を書いてみせる。

喜んでまねをする。

でも自分ひとりではなかなかできない。

これとこれとこれ。ここまでやろう。ヨ〜〜〜〜イ、ドン。

喜んで始める。

 

netを見て聞いて、ノート作りをして、ためしてみよう、やってみようを宿題に。

コンピュータを触るのは好きで、時々ヘンな所に行ってしまう。

ノート作りは時間がかかった。

なかなか字がうまく書けない。点が多かったり線が足りなかったり、へんとつくりが逆だったり全く新しい字だったり。

 

一年上に元気の良いお兄ちゃんがいて、その兄ちゃんのあとをとことこついてくる。

教室にも知り合いがいて話しかけられるがニコニコするだけ。

ちょっと心配だった。

 

それが去年の夏ごろから様子が変わってきた。

兄ちゃんがちょっとやんちゃで、家でも学校でも色々とあるらしい。

またドッチボールのクラブに入り、高学年の子と一緒に練習をし疲れ、教室でグタっと寝てしまう。

そんな時、妹がドンと兄ちゃんの背中を叩き、寝るな、と言ったのだ。

兄ちゃんはビックリし目をまん丸にして、しばらく何が起きたのかわからない。

「おまえか?」

妹を見て兄ちゃんが言う。

「死ぬかと思った。」

「勉強しろ。」

「うるせぇ。」

 

夏を過ぎて急に顔がはっきりしてきた。視線も真っ直ぐ揺るがない。

そして誰かに似ているのだ。

誰だろうと思っているとお母さんそっくりになっているのに気付いた。

 

親子だから当たり前だが、実に良く似ているのだ。

他の生徒がぼうっとしていると、「○○、勉強。」とスパッと兄を呼び捨てで注意する。

自分もてきぱきと進めていく。

色々あったのだろう。きっと。

変わるのだ。

今では2年生、3年生を合わせた中でも一番しっかりとしているのだ。

 

 

 

◎中学1年生の男子。

母親はフィリピン人。父親は大工の棟梁。妹がいる。

夏の面談ではお父さんは、半ズボンにサンダル、アポロキャップにサングラスで来る。

スキューバダイビングが趣味で、あちこちに潜りに行っているらしい。60才を越えているが、かなりかっこいい。

面談ではお父さんがいつも来て、成績が悪いときは大声でガンガン怒りまくる。

 

本人は気弱で大人しく、入会当時はわからないとうつむいて固まったままじっとしてしまう子だった。

妹は逆に元気いっぱいで、いつもそんな時、「しっかりしろ、○○!」と言って、兄の背中をドンと叩く。

そしてそんな時彼の右手はノートの隅でずっと動いて、次々とマンガが描かれていく。

 

聞くと、マンガが大好きで、特に4コママンガが好きだといった。マンガノートがあると言う。

「見る?先生。」

「うん、持って来て。」

 

持った来たノートにはびっしりと4コママンガが書かれている。

一コマ目−稲光の空。

二コマ目−コワ〜イとしゃがみこむ男の子。

三コマ目−雷様が怒っている。

四コマ目−しゃがんでいるのは雷様の子供だった。

 

なるほどお父さんとの関係が出ているな、思った。

それにしても大学ノートにぎっしり、全ページに4コママンガが描かれている。

「いつから描いてるの?」

「このノートは、えっと、今年の3月からかな。」恥ずかしそうに言った。

半年ほどの間に描かれたものだった。

「考えるの大変なんだ。それに絵、ヘタだから、時間がかかるし。」

「○○!そんなの見せんな!下手くそなんだから。」

妹が言う。

 

サッとノートを引っ込めるのを止めて、1週間貸してもらった。

ダメなスーパーマンもの、4コマ目でそれまでのストーリーと関係なく、突然主人公が切れまくり終わる切れキャラ物、かっこよく予言をして最後に予言がはずれるダメ予言者もの、昆虫がじゃんけんをしようとしたり、歯を磨こうとしたり、シャンプーをしようとしたり、DSをしようとしたりして、できない、できない物といくつかパターンもできていて、面白い。

 

「絵、下手でしょ。」

1週間後返す時ちょっと悲しそうに言った。

「アイデアはいいよ。面白い。笑ったよ先生、夜中一人で。それに絵は練習すればいくらでも上手くなるし。好きな絵を選んで何回も描く。何回もね。

それって漫画家ってみんなやってるってよ。若いころは。」

「ほんと?」

ポツンとでもうれしそうに言う。

「絵のトレーニングね。真似ね。」

「そう、最初は真似。アイデアはもうあるんだから。それ強みよ。」

 

中学になる前彼はマンガをやめた。

「俺、才能ないのね。絵、ヘタだもの。」

うつむいたまま彼は言った。

「練習してもうまくならないよ。ほら」

 

彼は別のノートを見せてくれた。

ドラゴンボールの中から、空を飛ぶ絵、戦う絵、笑う絵、怒る絵、泣く絵、ずっこける絵、大爆発する絵、海の絵、山の絵、と分けてありそれが何回も繰り返されている。

たいしたもんだ。

ちゃんとやっている。

 

「やるね。大したもんだ。ここまでちゃんとやるのはもう才能だね。才能あるよ。

大したもんだ。」

心底感心したので言った。

 

「でもうまくなってないよ。」

どんどんうまくなっている。さーと一気に線が書かれている。これは大したもんだ。

 

「なってるよ。だって、見てみ、最初の絵と最後の絵、全然ちがうじゃ。お前、偉いね。

大したもんだね。ちょっと驚き。」

へぇ〜〜〜と何回も言いながら見た。

やるよな。大したもんだ。

 

英語ができない。

来週がテスト。

繰り返し繰り返し、ハイパーをやる。

単語の練習をやる。netを聞く。要点チェックを書く。暗記する。教科書を写す、訳す。読む。

でもなかなか覚えられない。20点、30点が目標だ。

数学も厳しい。正の数負の数の計算をすっかり忘れているのだ。

何とかしなくては