塾日記    2008.1

白い月の魔法使いの年律動の月25

 

16

 

小学校3年生、男の子。

 

入塾してから半年ほどは教室でもとにかくじっとしてない、教室内を走り回る、座っていても落ち着かない。すぐ隣の子に話しかけ、やがて言い合いになり、喧嘩になる。

体も大きく、パワーもあり、腕相撲をしても顔を真っ赤にして必死になり、負けるともう1回、もう1回ときりがない。

そんな時は急に顔が引き締まる。

 

実際学校でも問題児だと、面談でほかの複数のお母さんから聞いていた。

だがけっこう頭の回転は速く、クイズやパズルは大好きで、一緒に来ている妹の面倒も良く見ている。

 

面倒見と言えば、塾に来る時も必ず友達を誘い、遅れたり、むずがっていたりする時は無理やりにでもつれてくる。

自分もやっていないのだが、相手が宿題をやっていない時は自分を棚に上げて怒る。

それがいやで曜日を変えた子もいる。

 

学校のドッジボールの選手に選ばれて、毎日放課後上級生と一緒に練習を始めるようになって、落ち着き始めた。

でも最初の頃は教室に着くや否やウトウトすることが何回もあった。

 

夏も集中ゼミに参加した。

元々負けず嫌いなので、テキストの問題が解けなかったり、間違えたりすると、目の色を変えて、やり直しをする。

国語の読解問題では問題ができないと悔しがり、どうすれば答えが出せるかを真剣に聞いてくる。

ポイントを説明しだすと、唇をかんで視線をぼくの鉛筆の先に集中し、小さくうなずきながら聞く。

そんな姿はかなり意外だったので、驚き、感心した。

 

11月の面談で母親から、受験をしたいとの話を聞いた。

彼にしてみればハイレベルの中学だ。

算数も国語も今のところは下のやや上。

普通に考えればまだ時間はあるとはいえ、ちょっときつい。

だが負けず嫌いの性格と、集中する時の一瞬で変わる顔つきから可能性はあると思った。

であれば本人の中に勉強への好奇心と興味とやる気の火をつけ、可能性をどんどん引き出していくのがぼくの勤めとなる。塾の先生の仕事だ。

 

今も冬のゼミでがんばっている。

週2回を3回に変えた。

ゼミの8日間と週3回の通常授業。ゼミと授業がダブる時は彼にとってはかなりハードなはずだが、嫌がる風もなく頑張っている。

 

偉いなと思う。

しっかり手伝わなくてはと思う。

白い月の魔法使いの年共振の月

114

 

6の男子。

算数も国語も大嫌い。口数も少ない。静かだ。

教室に入ってくる時の顔は、だからいつも暗くうつむいている。

この顔を何とかしないと、と面談で母親といつも話していた。

 

分数の通分、約分が全く理解できない。

Znet、ノート作り、クリアス、そして何度も目の前で繰り返し、手本、見本を見せる。

でももともと計算が嫌い。九九はできるが、時間がかかる。

だから通分も約分も時間がものすごくかかる。じっと待たなくてはならない。

分からないわけではないが、時間がかかる。

彼なりに一生懸命、真面目に考えているのだ。

 

彼はサッカーではバック。第2キーパー。

コーチからは彼は信頼できるバックで、守りの要だと言われたと母親からは聞いていた。

実際彼はたとえ敵に抜かれても必死に追いかけ、プレッシャーをかけ、最後にはボールを取り返して

いるという。

彼に聞くと、抜かれたのはぼくの責任だから、取り返さなくてはならないのだと言った。

とにかく真面目なのだ。

いい加減はしない。手を抜かない。じっとこらえる。

だから、勉強でも分からないのは自分の責任だと考え、悩む。

だから勉強は先生と生徒の共同作業だから、分からない半分の責任は先生にもあるから、先生も頑張ると言った。

 

風邪で休んだので土曜日に振り替えた。3時半と言ったのに、2時に来てしまった。

これから掃除をしようと思っていた所だったので、困った。

トイレに入って出てくると彼がほうきとちりとりを持って掃除をしている。

 

丁寧に掃き、ちりとりにそっとごみを入れる。

こんな子は絶対日の目を見なければならないと思う。

その手助けをしなくてはならない。

しっかりとしなくてはならないと思う。

 

白い月の魔法使いの年共振の月

1月20日

 

小学6年生男子。

入会当時は喘息とアトピー。

見てても可哀想になるくらいやせて辛そうだった。

静かで殆どしゃべらない。

季節の変わり目には喘息がひどくなり教室も休んだ。

勉強は大嫌いで、学校にもついていけてない。

教室では九九から初めて、漢字も2年から始めた。

20分ほどやって10分休み、また20分ほど勉強する。

それ以上はもたない。

手本を見せ、1問やらせ、ちょっと休んでまた手本を見せ、1問やらせる。

それを何回か繰り返す。

 

その時点で、学校では勉強は見放されていた。

授業が始まってわからなくなってじっとしていられなかったら、教室を出てもいいのだ。

あとはフリー。

外に出てはいけないので、保健室や空いている先生に相手をしてもらう。

 

去年の春ごろから体調がよくなった。

野球のリトルに入っていて、夏からは野球ができるようになった。ポジションはキャッチャー。

秋の大会ではピッチャーもやった。写真をみせてくれた。投げた直後の写真、右足が見事に跳ね上がり、しかし体全体のバランスはよく

目は真っ直ぐにキャッチャーに向けられ、体のばねを感じさせる実にいい写真で、これは意外だった。

本人も自慢の写真で、誉めると恥ずかしそうにしかしうれしそうにニコニコし続ける。

亀田三兄弟の一番上の兄貴に似ていて、笑う顔は無邪気で可愛い。

 

だがそのころから教室を休むようになった。

遊び中心になり、学校から帰るとすぐ外に出て帰ってこない。

勉強はもう殆ど分からない。約分も通分も全く理解不能。

しょうがないので、家庭教師に行くことにした。教室の生徒の人数の少ないコマの時、上木場先生に任し、自転車を飛ばす。

自転車でも20分近くかかる。

だが7月8月は夏休み。9月に入っても遊び癖は抜けず、一度も約束した時間に会えたことはなかった。週に3回行ったことが

あったがいつも逃げられた。嫌われているのだと思った。

しょうがないので、ノートに100マス計算や、分数足し算、引き算、約分や通分のやり方を書いて、教室に戻る。

そんな事が3ヶ月ほど続いた。学校では見放されているし、母親に聞くと誰か身近で教えてくれる人がいる訳でもなく、

姉が障害を持っていて、仕事も忙しく、彼を見ることもできない。

 

来られるのがいやならあとは通信添削しかなく、10月からは手紙になった。

できるだけ簡単な計算問題と漢字。

返信したら500円の図書カードがもらえる!

でも戻ってこない。

 

週に1度送る。あまり早めに送るとプレッシャーになると思ったので、週1回かなと思った。

でも戻ってこない。

簡単な計算が簡単になっていないのではと思い、九九の計算、それも10問ほどにした。

それも帰ってこない。

簡単すぎて馬鹿馬鹿しいと思っているのか、その辺も色々手紙に書いてきいてみたが、返事はない。

しょうがないので試しに500円のカードを入れた。やればこれがもらえるのだぞ。

 

でも戻ってこない。

母親に聞くと野球の本を買っているとのことで、それはそれでほっとした。開封はしているのだ。

国語の勉強にはなっている。

 

結局年内に返信される事はなかった。

学校も12月に入ってからは休むこともあるとのことだった。

今年1月に面談をした。通塾、家庭教師、通信添削。

どれもうまくいかなかったので、どうするかを話し合うためだ。

 

勉強はもういいと彼が言った。

学校に来なくていいと副校長に言われたと言った。

それはないだろと思った。

 

野球は続いている。リトルからシニアへ。いまは走り込みをしている。15キロ走ることもあると言った。

顔色はいいし、顔もふっくらとしている。

でも言うことは、いい、いい、勉強はいい。

イライラしながら続ける。

学校行かなくていいんだから。

 

2月からまた家庭教師に行くことになった。

実際行ってみて彼が待っていてくれるかどうか。

彼にとってはいらぬおせっかいに違いなのだが、このままではあの無邪気な笑顔が消えていってしまうに違いないのだ。

といって、何ができるわけではない。こっちだって大した先生ではない。

だが学校来なくていいと言われたのだ。

誰かがどっかでそれを償わなければならないと思うのだ。

 

白い月の魔法使いの年共振の月22

131

 

4女の子。

見た目は完璧な子ギャル(孫ギャル?)。茶髪に黒の編み上げのブーツ。赤のミニスカートに黒のタイツ。

シルバーのジャンパー。

入会当時からファッションは原宿の高校生以上、たぶん。金とか銀とか真っ赤とか真っ白とか。

ちょっとビックリした.

特に靴がすごい。厚底ブーツ、サンダル、スニーカー、それがみんなカラフル。

右と左の色が違う、靴紐がまだら。

「それって、ママがそろえてくれるの?」

意外と母親の趣味というのが多いのだ。

「…ううん。」

「自分で選ぶんだ。」

「…うん。」

「どうやって?」

「…本。」

「アンアン?」

「…何それ。」

「ノンノ?」

「…?」

昔からある小学館の「小学4年生」らしい。人気の小4モデルがいて、毎号可愛いファッション特集がある。

それを参考にして、自分なりに変えているという。

「……おんなじゃヘンでしょ?」

実際似合っていて可愛い。感心する。だがそれにしても目立つ。派手だ。

ところがこの子、とても恥ずかしがり屋で、声も小さい。そして真面目。

 

去年10月、家族でグアムに5泊6日で行った。

帰った翌日の日曜日、教室で漢検を受けた。そのあと海の写真や泳いでいる写真を見せてくれた。チョコレートもくれた。

翌日月曜日、塾で勉強に入ったが座ったままじっと固まって動かない。一点をじっと見つめている。1分ほどたった。

何を見てるのかとその先を見たが特に何もない。よく見ると何かを見ているわけでもない。焦点が定まっていない。

3分近くたった。固まったまま。まだじっとしている。

「どした?」

「………」

「どしたの?」

「…、…、」

「ん?」

「…何するんだっけ…、」

「ん?」

「カルテだ!」

そう言うと恥ずかしそうにカルテを出し、席を立ち、コンピュータに向かった。

 

後で聞くと、グアムボケで教室での勉強の順番が思い出せなかったらしい。

一生懸命思い出そうとしたが、なかなか出てこない。でも一生懸命思い出そうとしたらしい。

 

この子は教室の中で一番きっちりと勉強を進めていく。宿題を忘れたこともない。ノート作りも丁寧に進める。

計画ノートにも今日したこと、宿題をきっちり書いていく。一度終わりの挨拶をして教室から出て行った後、ハァハァ言いながら戻ってきたことがあった。

忘れ物かと思ったが、急いでバックを肩から下ろすと計画ノートを出し、宿題を書いて、恥ずかしそうにまた出て行った。

 

漢字が苦手だ。へんとつくりを逆に書く。新しく字を作る。

去年8級をぎりぎり合格。今回は7級。ちょっと厳しい。

次回へ向けてもう漢字の勉強を始めている。真面目なのだ。

 

とても恥ずかしがり屋で真面目な超派手な子。

実は計算も危ない。割り算の筆算の仕方をよく忘れる。

2月は児童数検。

何とかしなければ。