塾日記 2007.12.1-31 白い月の魔法使いの年倍音の月 12月1日 小6の男子。 10月、漢検7級を受験して落ちた。 1月にまた漢検があることを言うとその場で申込書を見て、今申し込んでもいい?と聞く。もちろん良いよと言うとその場で書いて提出した。お金は今度ね。 元々サッカー少年で、週に4回練習している。 それでいつも教室ではぐったりしていて、Z‐netもノート作りもめんどくさい、めんどくさいと言ってだらだらとやる。 その度に集中集中と言いながら、体を引っ張り起こし姿勢を正してやる。 それが突然その場で漢検を申し込んだのだ。へぇ〜と思った。 授業後申込書を整理していると5級に丸がついているのに気がつき、家に電話し確認してみると、5級でいい、さっき5級の問題集買った、と言った。またへぇ〜と思った。 次の週、授業が終わると英語やりたいと突然言った。 3回目のへぇ〜だ。 どしたの急に。やる気300%じゃん。 いいの、暇になったから。 どして? サッカーやめたから。 どして? いいの。 妹もそばでニコニコしている。 週末親と面談をした。 漢検や英語のことを言うと将来獣医になると言い出したんですと言った。 どして獣医なんでしょうと聞くと、飼ってる犬を長生きさしたいらしい。 最近犬を飼いだしたことは聞いていた。まだ生後何ヶ月かだ。兄妹で可愛がっている。 サッカーは中学で部活でやるからいいらしい。 飼ってる犬を長生きさせるために獣医になる。 最初は子供らしい考えと思ったが、犬が10歳の時彼は22歳。15の時は27. 考えてみれば現実的で切実な話しなのだ。妹も獣医になると言う。 獣医になるには勉強ができなくてはならず、漢字も英語もどんどんやっていくと言っているらしい。 12月からは週2通塾を週3回にすることも自分から言ったという。 ヨチヨチ歩く子犬を見て、よぼよぼになった老犬を想像し、何とかしなくちゃと思ったのだ。 なんか偉く立派だなと思った。 かなり立派な事だなと思った。 しっかり受け止め引き受けなければならないと思った。 白い月の魔法使いの年倍音の月 12月7日 小6の男の子。 6月下旬、先生ちょっと、と突然言われ、教室の隅に連れて行かれた。 「昨日さ、お父さんが死んだの、病気で。」 えっ 「お葬式は身内っていうの?それでやるの。別に塾は休まないから。」 それほど悲しそうな顔でもなく言うので、ぴんとこない。冗談でもないようなので、何か言わなくてはならないと思うが何も言葉が出てこない。 人は死んでも魂は残るし,魂はいつもそばにいてあなたを守っていてくれる。お父さんはいなくなったわけじゃない。そんな事を言っているうちにウン、ウンと言って席に戻っていってしまった。 授業が終わりお母さんが迎えに来たので、何か言わねばと思い、この度はご愁傷様で…、だが母親もいつもと変わらぬ様子で、「先生、月謝が父親名義で落ちなくなるので、新しい申込書欲しいんですけど。」 親も子もいつもと変わらない様子なので、ぴんとこない。今時こんなものなのだろうか。 いやまだ急なことなので、二人とも実感がわかないのだろう、いやそれにしても…、 次の週、彼が青いグローブを持ってきた。お父さんが買ってくれたものだと言う。 「小学校の二年生の時。そのあと入院したの。」 2年の時からだったのだ。5年間。 「何の病気?」 言ってくれたが、何かややこしい名前で今覚えていない。 しかしかかると殆ど治らない病気らしい。 「痛いんだって。それで色んな薬を試したの。手術も何回もしたの。何回も。アメリカにこの病気の専門の人がいて、その先生に手術をしてもらうと、10人に6人は助かるんだって。でもダメだったの。」 そう言うとコンピュータの検索機能でその先生を探し出し、見せてくれた。 「でもダメだったんだ。」 次の週。いつもより教室に早く来ると、カバンから携帯を取り出し、これお父さんといって、携帯を差し出した。 見ると、そこにはベッドに横になっている彼の父親が映っていた。 まだ若い。痩せてひげを生やし、かすかに笑っている。だがそれは弱々しく、死相という言葉が瞬間浮かんだ。 いつか国語の授業で父親とよく荒川でザリガニを釣ったことを言っていたことを思い出した。 お父さんはザリガニ釣りの名人なんだよ。 5年間、父親はベッドにいたのだ。 5年間、彼は父親の死と向かい合っていたのだ。 母と子は5年間できることの全てをしたのだろう。全ての悲しみや一瞬の喜びを経験しつくしたのだろう。 彼に何ができるのかはわからないが、ハリーポッターの最新刊に興味を持っていて、先生、来年まで待てないよ、何とかならない、という事で、今原書を買って毎週「死の秘宝」を訳し、彼に話している。 幸いなことにネットで訳が出ているので何とかしのいでいるが、こんなに長く原書と付き合ったことは無い。 小さな子供が5年間親の死と向き合う。 想像のできないことだ。 少なくともハリーポッターは来年の7月までには訳さなくてはならないと思っている。 白い月の魔法使いの年律動の月 12月16日 小6の女の子。 小2の時、アスレチッククラブにお姉さんに付いていって以来ダンスを始める。 明るく、元気で、いつも笑い顔だ。 今もヒップホップダンスを習っている。 週1回で算数から始めた。 分数の割り算、掛け算、通分、約分がなかなかできなかったが、いつも自分で一生懸命考える。 教えようとすると、「待って、もうちょと待って」と言って、クリアスにグッと体を寄せる。そして「待って、言っちゃダメ。Z‐net見る。」と言って、PCに向かったり、「前のとこ見る。」と言って、要点シートを見返す。 そして、「わかった!」と言って、問題を解き始める。 といって、そばにいないと前には進まない。 まだまだ一人では進められない。 ダンスで英語がたくさん出てくるので、9月から週2回にして英語を始めた。来年2月、英検5級を取ろうと今頑張っている。 学校の授業がうまくいっていない。 先生がちょっとおかしく、教室では全面戦争らしい。悲しい事だがよくある話だ。卒業まで我慢しろと言っている。しょうがない。教室でフォローするしかないのだ。 11月初旬、えらく不機嫌だった。 ダンスの発表会のあった月だ。聞くと、自分では最高に踊れたのに2位になったと言う。しかも1位の子が大嫌いの子だと言うのだ。 振り付けは自分の方が絶対カッコ良かったのに、と悔しがる。 「どんな感じ?」と聞くと、「こんな感じ。」とステップを踏んでくれる。カッコいい。 「これからもずっと踊る?」 「わかんない。才能ないから。」 ちょっと寂しそうに言った。 11月15日、NHKの「きよしのこの夜」という番組に出た。 頑張っている子供たち、というテーマで、踊りは殆どなかった。 その中で「将来の夢は?」という司会者の質問に、「ダンサー。」と答えていた。 「やっぱ、ダンサーね。」 と聞くと、 「まあね。」 と答えた。 恥ずかしそうにでも真剣にうつむきながら答えた。 踊っている時のキラキラ感を勉強にもと思う。 どこまでできるか自信はないが、全力を尽くしたいと思った。 |