塾日記    2007.11.1-30     

白い月の魔法使いの年倍音の月

1125日

 

3男子。体は大きく、柔道も一時やっていたが、恥かしがり屋で人と話すのが苦手で声も小さく、俺何やってもだめだからとうつむいて言うのが口癖の生徒。

小学生の時友達からお金を貸してくれと言われては貸し、返してもらえず、それが何回も何回も続き人が信じられなくなり、不登校気味になったという。中学になると、友達関係がうまく行かず、勉強も分からなくなり、毎日何も言わず、じっと教室のいすに座っているのに疲れ果て、不登校に。

 

去年入塾した時は、九九ができず、youhesheも読めなかった。

そこから勉強は始めたけど、なかなか覚えられない。計算は徐々にできるようになったがいまだに方程式は難しい。英語はあまり進展は無い。

学校にはテストの時にだけ行っていた。

 

8月の終わり頃遅刻が目立つようになり話を聞くが、なかなか理由を言ってくれない。

なんかあるのなら言えよな、と言ってしばらく待っていると、理由を言ってくれた。振られたらしい。

告白したのか言うと、だから振られたんだと言う。

 

そんな勇気がどこにあったのかと驚き、偉いぞ立派だとほめたけど本人は以前にも増してグタ〜〜と机にうつ伏せになり勉強にならない。ときどきハァーとため息をつく。

やっぱ何してもダメなんすよ俺。

 

勉強はさらに進まず何とか元気付けようと、色々と話を聞き話しをし、人生も語ったがまるでダメで、ぼくはいい加減めんどくさくもなり、もういいからこの単語10こ覚えろ、この計算10問解け、漢字覚えろと方向転換。しかしもう一人の先生は心優しく粘り強く、勉強が終わっても話し相手になっている。

そのおかげで2ヶ月ほどで元に戻った。

 

今作文と面接の練習をしている。

作文は稚拙そのものだが彼の素直な心が真っ直ぐに出ていて、読める。問題は時間内に文章になるかどうかだがかなり絶望的だ。

面接の練習の時も最初はかなりきつかった。

中学時代の楽しい思い出もないし、将来の夢も無い。趣味も特技も好きな本も言葉も大事にしていることも長所もない。テレビは見ないし、ゲームもしない。

尊敬する人はいるはずも無いなと思いながら聞くと、焼き鳥屋のおばあちゃんと即答した。

親戚に自分で店を持ちそこで今も元気に働いている80歳近くのおばあちゃんでもいるのかと聞くと、近くの小学校の門の前でミニバンで小学生相手に焼き鳥を1本ずつ売っているおばあちゃんのことだった。

 

昔の一之江のことやおばあちゃんの若かったころの話を聞くのが面白いと言う。おばあちゃんの友達のおじいちゃんも尊敬していると言う。今も野菜を作っていて品種改良を考えているらしい。

 

おじいちゃんやおばあちゃんとのなら話せるのかと聞くと、平気だと言う。

嘘つかないからいいらしい。

なるほどと思いさらに聞くと、けっこう暇な時は日向ぼっこしている老人に話しかけたりしているという。

 

これで趣味はお年寄りと話すことになった。長所は人の話が聞ける、高校に入ってやりたい事、将来の夢はお年より相手のボランティア活動。

意外な展開に驚き感心した。

 

それにしても何とか合格できないものだろうか。

とてもいい子だが、作文も心配だし面接もどうなるか。

 

結局今の時代、こんな子が泣きを見るのだろう。

いや、ぼくがそう思ってしまってはどうにもならない。

だが、日の目を見れるかどうか、ひたすら心配になる。

 

ただ心配するしかないのだ。

無力な自分が情けない。

 

でもいつだって、生徒は先生を越えていく。

できる限りのことをしたい。