塾日記 2002.8.1−31 8月6日。火曜日。 中3の女の子。 ここで気合が入った。 渡されたテキスト5科目すでに半分を終えた。 こちらのスケジュールを無視してだ。突っ走ってる。 1学期の順位が下がったのが原因。 もともと生真面目な子だった。絵で県で金賞を何度ももらっている。ただ目標がないとぼんやりしてしまう。 これまではぼんやりしてた。 ここにきて行きたい高校がはっきりしたので、スイッチが入った。やはり美術関係にいきたいのだ。実際の目標高校は総合学科の高校で、直接美術とは関係がないが本人の頭の中では回路が仕上がったのだろう。目標設定が完了したのだ。突っ走っている。 ただ7月は飛ばしすぎて空回りの部分があった。分からない問題があっても構わず進んで行く。まず量をやって安心したいのだろう。 現在一つ一つやったというところを確認する作業をしている。 本人的にはじれったいところなのだが、そこを押さえて土台を固めている。 ただいつも授業を終えてから家でやった問題でわからなかったところの質問が始まるので、これには最初の1週間は参った。 終わったと思ってからまた1時間やるのだ。 それも予習していない数学の証明問題や、理科や社会とどんどん出てくる。 疲れきった頭に止めを刺される。 帰してくれよ、今日は。 (-_-メ) しかしこれは感謝すべきことなのだ。 本人のやる気に応えてあげられる有り難い機会をもらっているのだ。 役に立てる機会をもらっているのだ。 それを有り難いと思いたい。 それがこの仕事なのだ。 もしこういう機会がない毎日だとしたら、とても寂しい毎日だろう。 今日もえらく疲れたが、満足して帰っていく姿を見ると彼女以上に嬉しい。 8月16日。金曜日。 今日は集中豪雨の中を走った。 分厚い雨で10m先も見えない。 雨は路上を跳ね上がり舞い、その中から突然車がぬっと出てきてあせる。車も最徐行しているので危険は無いが、おおっと身構える。 道路はあっという間に10cm、15cmと雨で溢れ出し、じゃぷじゃぷとももを上げながら流れを踏みつけ進む。 大きな雨粒が肩に痛い。 雨の中を突っ込んでいく。 「きもっち良いんだぞ〜〜」 と子供たちに言う。 「先生、へん。」 「危ないよ。」 「でもな、もっと楽しいのは、台風の時。 風がビュ〜ビュ〜吹いてて、もっと楽しい。 風で飛ばされて、真っ直ぐ走ってるのに、右に左に着地点が30cmも40cmもずれる。 まっすぐ走れない。 それに看板なんか飛んできたりする。 すごい怖くて楽しい。」 「やっぱ先生、絶対おかしい。」 「絶対そんな時走っちゃダメ。」 子供たちはみんなこう言う。 だがあえて言う。 そんな馬鹿げたこと、ちょっとおかしな事。少し危ないこと。 そんな事への経験が少ないのだ。 だから大きな馬鹿げた事や危ない事が分からなくなる。 そんな思いでことさら言うのだが、しかしそれよりも台風の中走るのがとにかく好きなのだ。 8月20日。火曜日。 卒業生が来た。 アメリカに留学した子だ。 今高2. 来年はイギリスに行くと言う。空間デザインの勉強をする。 あまり家族からは理解されて無いらしい。 元気がなくなると来る。 しかしいいよな。 まだ17だ。 17だぜ。 そういえばぼくが17の時、考えた事。 「純粋と誠実とを守るという考えを50になっても持つこと。」 きっとそれはそれでこの30年間やってきて、やれてきた事だ。 だがそれでどんな結果を得る事ができたのだろうか。 ふと思う。 純粋と誠実とはつまり子供の心だ。それを守る。 だから塾の先生をやっている。 まちがってはいない。 純粋と誠実とを守る為には、不純と不誠実を飼いならす事が何よりも必要だ。 それも30年やってきたのだから、ある程度コントロールも出来るようになった。 子供たちに人間の強さと素晴らしさをいう時にも人間の弱さと愚かさとを言うことも出来る。 だがどれほどの事が彼らにできたのだろう。 小学、中学と過ごしてみんな何かを得る事ができたのだろうか。 高校や大学、社会に出て何かそこで役に立つ何かをぼくは彼らにしたのだろうか。 彼らに対ししたこと。 彼らの「ごみ箱」と「鏡」になること。 これは最低限考えた。 彼らのストレスを減らす。 不必要なごみを落とす。 そのごみを受ける。 彼らの話をひたすら聞く。 そしてその後彼らがそのままの自分自身に気づく為の鏡となる。 これが自分なのだと彼らが気づき、自分の道を進めるよう手助けする。 それがぼくの仕事だと思ってやってきた。 もっとあるのだろうが、まずはいらぬものを落とし、自分の姿に気づかせれば、あとは自分で動いていくのだ。 そして今ほど要らぬ余分な汚く致命的なものが多く、自分自身に気付けぬ時代は無い。 そんな事を思ってこの18年やってきたが、なんか、少しでも役に立ったのかね。役に立つということからして傲慢か。 傲慢だよな。 なんもしてないよ。 時間だけが膨大に過ぎていった。 |