朝鮮宝物古蹟名勝天然記念物保存令
明治四十四年法律第三十号第一条及第二条ニ依リ勅裁ヲ得テ茲ニ之ヲ公布ス
昭和八年八月九日　　　　朝鮮総督　宇垣一成

制令第六号
朝鮮宝物古蹟名勝天然記念物保存令

第一条　建造物、典籍、書蹟、絵画、彫刻、工芸品其ノ他ノ物件ニシテ特ニ歴史ノ証徴又ハ美術ノ模範ト為ルベキモノハ朝鮮総督之ヲ宝物トシテ指定スルコトヲ得
貝塚古墳寺址城址窯址其ノ他ノ遺蹟、景勝ノ地又ハ動物植物地質鉱物其ノ他学術研究ノ資料卜為ルベキ物ニシテ保存ノ必要アリト認ムルモノハ朝鮮総督之ヲ古蹟、名勝又ハ天然記念物トシテ指定スルコトヲ得

第二条　朝鮮総督前条ノ指定ヲ為サントスルトキハ朝鮮総督府宝物古蹟名勝天然記念物保存会（以下単ニ保存会ト称ス）ニ諮問スベシ
前条ノ指定以前ニ於テ急施ヲ要シ保存会ニ諮問スル暇ナシト認ムルトキハ朝鮮総督ハ仮ニ指定スルコトヲ得

第三条　朝鮮総督ハ宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ニ関スル調査ヲ為ス為必要アリト認ムルトキハ当該官吏ヲシテ必要ナル場所ニ立入リ、調査ニ必要ナル物件ノ提供ヲ求メ、測量調査ヲ為シ又ハ土地ノ発掘、障碍物ノ変更除却其ノ他調査ニ必要ナル行為ヲ為サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ当該官吏ハ其ノ身分ヲ証明スベキ証票ヲ携帯スベシ

第四条　宝物ハ之ヲ輸出又ハ移出スルコトヲ得ズ但シ朝鮮総督ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
朝鮮総督前項ノ許可ヲ為サントスルトキハ保存会ニ諮問スベシ

第五条　宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ニ関シ其ノ現状ヲ変更シ又ハ其ノ保存ニ影響ヲ及ボスベキ行為ヲ為サントスルトキハ朝鮮総督ノ許可ヲ受クベシ

第六条　朝鮮総督ハ宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ノ保存ニ関シ必要アリト認ムルトキハ一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限シ又ハ必要ナル施設ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ施設ニ要スル費用ニ対シテハ国庫ヨリ予算ノ範囲内ニ於テ其ノ一部ヲ補助スルコトヲ得

第七条　朝鮮総督第五条ノ規定ニ依ル許可又ハ前条第一項ノ規定ニ依ル命令ヲ為サントスルトキハ保存会ニ諮問スベシ但シ軽易ナル事項ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ

第八条　宝物ノ所有者ニ付変更アリタルトキハ朝鮮総督ノ定ムル所ニ依リ所有者ヨリ之ヲ朝鮮総督ニ届出ヅベシ宝物滅失又ハ毀損シタルトキ亦同ジ

第九条　宝物ノ所有者ハ朝鮮総督ノ命令ニ依リ一年内ノ期間ヲ限リ季王家、官立又ハ公立ノ博物館又ハ美術館ニ其ノ宝物ヲ出陳スル義務アルモノトス但シ祭祀法用又ハ公務執行ノ為必要アルトキ其ノ他巳ムコトヲ得ザル事由アルトキハ此ノ限ニ在ラズ

第十条　前条ノ規定ニ依リ宝物ヲ出陳シタル者ニ対シテハ朝鮮総督ノ定ムル所ニ依リ国庫ヨリ補給金ヲ交付スルコトヲ得

第十一条　第三条ノ規定ニ依ル行為若ハ第六条第一項ノ認定ニ依ル命令ノ為損害ヲ被リタル者アルトキ又ハ第九条ノ規定ニ依リテ出陳シタル宝物其ノ出陳中不可抗力ニ因ルニ非ズシテ滅失若ハ毀損シタルトキハ朝鮮総督ハ其ノ定ムル所ニ依リ損害ヲ補償スルニトヲ得

第十二条　第九条ノ規定ニ依リテ出陳シタル宝物ニ付其ノ出陳中所有者ノ変更アリタルトキハ新所有者ハ当該宝物ニ関シ本令ニ規定スル旧所有者ノ権利義務ヲ承継ス

第十三条　朝鮮総督ハ地方公共団体ヲ指定シテ宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ノ管理ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ管理ニ要スル費用ハ当該公共団体ノ負担トス
前項ノ費用ニ対シテハ国庫ヨリ予算ノ範囲内ニ於テ其ソ一部ヲ補助スルコトヲ得

第十四条　公益上其ノ他特殊ノ事由ニ依リ必要アリト認ムルトキハ朝鮮総督ハ保存会ニ諮問シ宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ノ指定ノ解除ヲ為スコトヲ得

第十五条　朝鮮総督第一条若ハ第二条第二項ノ規定ニ依リ指定ヲ為シ又ハ前条ノ規定ニ依リ指定ノ解除ヲ為シタルトキハ其ノ定ムル所ニ依リ之ヲ告示シ且当該物件又ハ土地ノ所有者、管理者又ハ占有者ニ通知スベシ但シ指定セラレタル物ノ保存上必要ト認ムルトキハ告示セザルコトヲ得

第十六条　朝鮮総督ハ国ノ所有ニ属スル宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ニ関シ別段ノ定ヲ為スコトヲ得

第十七条　寺刹ノ所有ニ属スル宝物ハ之ヲ差押フルコトヲ得ズ
前項ノ宝物ノ管理ニ関スル事項ハ朝鮮総督之ヲ定ム

第十八条　貝塚、古墳、寺址、城址、窯址其ノ他ノ遺蹟ト認ムベキモノハ朝鮮総督ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ発掘其ノ他現状ヲ変更スルコトヲ得ズ
前項ノ遺蹟卜認ムベキモノヲ発見シタル者ハ直ニ其ノ旨ヲ朝鮮総督ニ届出ヅベシ

第十九条　朝鮮総督ハ本令二規定スル其ノ職権ノ一部ヲ道知事ニ委任スルニトヲ得

第二十条　朝鮮総督ノ許可ナクシテ宝物ヲ輸出又ハ移出シタル者ハ五年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス

第二十一条　宝物ヲ損壊、毀棄又ハ隠匿シタル者ハ五年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ宝物自己ノ所有ニ係ルトキハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮又ハ二百円以下ノ罰金若ハ科料ニ処ス

第二十二条　左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百円以下ノ罰金若ハ科料ニ処ス
一　許可ヲ受ケズシテ宝物、古蹟、名勝又ハ天然記念物ニ関シ其ノ現状ヲ変更シ又ハ其ノ保存ニ影響ヲ及ボスベキ行為ヲ為シタル者
二　第六条第一項ノ規定ニ違反シタル者
三　第十八条第一項ノ規定ニ違反シタル者
四　第五条若ハ第十八条第一項ノ規定ニ違反シ又ハ第六条第一項ノ規定ニ依ル命令ニ違反シテ得タル物件ヲ譲受ケタル者

第二十三条　第三条ノ規定ニ依ル当該官吏ノ職務執行ヲ拒ミ妨ゲ若ハ忌避シ、調査ニ必要ナル物件ノ提供ヲ為サズ又ハ調査ニ必要ナル物件ニシテ虚偽ナルモノヲ提供シタル者ハニ百円以下ノ罰金ニ処ス

第二十四条　第八条又ハ第十八条第二項ノ規定ニ違反シ届出ヲ為サザル者ハ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス

　　附則
本令施行ノ期日ハ朝鮮総督之ヲ定ム
（昭和八年総督府令第百三十七号で昭和八年十二月十一日から施行）