文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約

1970年(昭和45)11月14日 パリで採択
1972年(昭和47)4月24日 効力発生
2002年(平成14)6月12日 国会承認
2002年(平成14)9月9日 受諾書寄託(条約第14号及び外務省告示第384号)
2007年(平成14)12月9日 日本について効力発生


 国際連合教育科学文化機関の総会は、1970年10月12日から11月14日までパリにおいてその第16回会期として会合し、
 総会の第14回会期において採択した文化に関する国際協力の原則に関する宣言の重要性を想起し、
科学的、文化的及び教育的目的のために行われる文化財の諸国間の交流により、人類の文明に関する知識が増大し、すべての人民の文化的な生活が豊かになり並びに諸国間が相互に尊重し及び評価するようになることを考慮し、
 文化財が文明及び国の文化の基本的要素の一であること並びに文化財の真価はその起源、歴史及び仏統についてのできる限り十分な情報に基づいてのみ評価することができるものであることを考慮し、
 自国の領域内に存在する文化財を盗難、盗掘及び不法な輸出の危険から保護することが各国の義務であることを考慮し、
 これらの危険を回避するため、各国が自国及び他のすべての国の文化遺産を尊重する道義的責任を一層認識することが重要であることを考慮し、
 文化施設としての博物館、図書館及び公文書館が世界的に認められた道義上の原則に従って収集を行うことを確保すべきであることを考慮し、
 国際連合教育科学文化機関は国際条約を関係諸国に勧告することにより諸国間の理解の促進を図ることをその任務の一としているが、文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転はこの諸国間の理解の障害となることを考慮し、
 文化遺産の保護は、各国の国内において、かつ、諸国間で緊密に協力して行われる場合にのみ効果的に行われ得るものであることを考慮し、
 国際連合教育科学文化機関の総会が1964年にこの趣旨の勧告を採択したことを考慮し、
 総会の第16回会期の議事日程の第19議題である文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する新たな提案を受け、
 総会の第15回会期において、この問題が国際条約の対象となるべきことを決定して、
 この条約を1970年11月14日に採択する。

第1条
 この条約の適用上、「文化財」とは、宗教的理由によるか否かを問わず、各国が考古学上、先史学上、史学上、文学上、美術上又は科学上重要なものとして特に指定した物件であって、次の分類に属するものをいう。
 (a) 動物学上、植物学上、鉱物学上又は解剖学上希少な収集品及び標本並びに古生物学上関心の対象となる物件
 (b) 科学技術史、軍事史、社会史その他の歴史、各国の指導者、思想家、科学者又は芸術家の生涯及び各国の重大な事件に関する物件
 (c) 正規の発掘、盗掘その他の考古学上の発掘又は考古学上の発見によって得られた物件
 (d) 美術的若しくは歴史的記念工作物又は分断された考古学的遺跡の部分
 (e) 製作後百年を超える古代遺物(例えば、金石文、貨幣、刻印)
 (f) 民族学的関心の対象となる物件
 (g) 美術的関心の対象となる物件であって、例えば、次の(i)から(iv)までに掲げるもの
   (i) 肉筆の書画(画布及び材料を問わないものとし、意匠及び手作業で装飾した加工物を除く。)
   (ii) 彫刻、塑像、鋳像その他これらに類する美術品(材料を問わない。)
   (iii) 銅版画、木版画、石版画その他の版画
   (iv) 美術的に構成し又は合成した物件(材料を問わない。)
 (h) 単独で又は一括されることにより特別な関心(歴史的、美術的、科学的、文学的その他の関心)の対象となる希少な手書き文書、インキュナブラ、古い書籍、文書及び出版物
 (i) 単独の又は一括された郵便切手、収入印紙その他これらに類する物件
 (j) 音声、写真又は映画による記録その他の記録
 (k) 古い楽器及び製作後百年を超える家具

第2条
 1 締約国は、文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転が当該文化財の原産国の文化遺産を貧困化させる主要な原因の一であること並びに国際協力がこれらの不法な行為によって生ずるあらゆる危険から各国の文化財を保護するための最も効果的な手段の一であることを認める。
 2 締約国は、このため、自国のとり得る手段、特に、不法な輸入、輸出及び所有権移転の原因を除去し、現在行われている行為を停止させ並びに必要な回復を行うために援助することにより、不法な輸入、輸出及び所有権移転を阻止することを約束する。

第3条
 締約国がこの条約に基づいてとる措置に反して行われた文化財の輸入、輸出又は所有権移転は、不法とする。

第4条
 この条約の適用上、締約国は、次の種類の文化財が各国の文化遺産を成すものであることを認める。
 (a) 各国の国民(個人であるか集団であるかを問わない。)の才能によって創造された文化財、及び各国の領域内に居住する外国人又は無国籍者によりその領域内で創造された文化財であって当該国にとって重要なもの
 (b) 各国の領域内で発見された文化財
 (c) 考古学、民族学又は自然科学の調査団がその原産国の権限のある当局の同意を得て取得した文化財
 (d) 自由な合意に基づいて交換された文化財
 (e) その原産国の権限のある当局の同意を得て、贈与され又は合法的に購入した文化財

第5条
 締約国は、次の任務を効果的に実施するために十分な数の適格な職員を有する一又は二以上の文化遺産の保護のための国内機関がまだ存在しない場合において、自国にとって適当なときは、不法な輸入、輸出及び所有権移転から文化財を保護することを確保するため、そのような国内機関を自国の領域内に設置することを約束する。
 (a) 文化遺産の保護、特に、重要な文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転の防止を確保するための法令案の作成に貢献すること。
 (b) 自国の保護物件目録に基づき、重要な公私の文化財であってその輸出により自国の文化遺産を著しく貧困化させるおそれのあるものの一覧表を作成し及び常時最新のものとすること。
 (c) 文化財の保存及び展示を確保するために必要な科学技術に係る施設(博物館、図書館、公文書館、研究所、作業場等)の発展又は設置を促進すること。
 (d) 考占学上の発掘の管理を組織的に行い、ある種の文化財の現地保存を確保し、及び将来の考門学的研究のために保存された地区を保護すること。
 (e) 関係者(博物館の管理者、収集家、古物商等)のために、この条約に定める倫理上の原則に従って規則を定め、その規則の遵守を確保するための措置をとること。
 (f) すべての国の文化遺産に対する尊重を促し及び育成するための教育的措置をとり、並びにこの条約の規定に関する知識を普及させること。
 (g) 文化財のいずれかが亡失した場合には、適切に公表すること。

第6条
 締約国は、次のことを約束する。
 (a) 当該文化財の輸出が許可されたものであることを輪出国が明記する適当な証明書を導入すること。この証明書は、規則に従って輸出される文化財のすべての物件に添付されるべきである。
 (b) (a)に規定する輸出許可についての証明書が添付されない限り、文化財が自国の領域から輸出されることを禁止すること。
 (c) (b)に規定する禁止を適当な手段により、特に、文化財を輸出し又は輸入する可能性のある者に対して公表すること。

第7条
 締約国は、次のことを約束する。
 (a) 自国の領域内に所在する博物館その他これに類する施設が他の締約国を原産国とする文化財であってこの条約が関係国について効力を生じた後に不法に輸出されたものを取得することを防止するため、国内法に従って必要な惜置をとること。この条約がこれらの国について効力を生じた後に当該文化財の原産国である締約国から不法に持ち出された文化財の提供の申出があった場合には、当該原産国に対し、できる限りその旨を通報すること。
 (b)(i) 他の締約国の領域内に所在する博物館、公共の記念工作物(宗教的なものであるかないかを問わない。)その他これらに類する施設からこの条約が関係国について効力を生じた後に盗取された文化財(当該施設の所蔵品目録に属することが証明されたものに限る。)の輸入を禁止すること。
   (ii) 原産国である締約国が要請する場合には、(i)に規定する文化財であってこの条約が関係国について効力を生じた後に輸入されたものを回復し及び返還するため適当な措置をとること。ただし、要請を行う締約国が当該文化財の善意の購入者又は当該文化財に対して正当な権原を有する者に対し適正な補償金を支払うことを条件とする。回復及び返還の要請は、外交機関を通じて行う。要請を行う締約国は、回復及び返還についての権利を確立するために必要な書類その他の証拠資料を同国の負担で提出する。締約国は、この条の規定に従って返還される文化財に対し関税その他の課徴金を課してはならない。文化財の返還及び引渡しに係るすべての経費は、要請を行う締約国が負担する。

第8条
 締約間は、第6条(b)及び前条(b)に定める禁止に関する規定に違反したことについて責任を有する者に対し、刑罰又は行政罰を科することを約束する。

第9条
 考古学上又は民族学上の物件の略奪により自国の文化遺産が危険にさらされている締約国は、影響を受ける他の締約国に要請を行うことができる。この場合において、締約国は、国際的に協調して行われる努力であって、必要な具体的措置(個別の物件の輸出、輸入及び国際取引の規制等)を決定し及び実施するためのものに参加することを約束する。各関係国は、合意に達するまでの間、要請を行う国の文化遺産が回復し難い損傷を受けることを防止するため、実行可能な範囲内で暫定措置をとる。

第10条
 締約国は、次のことを約束する。
 (a) 教育、情報提供及び監視を行うことにより、締約国から不法に持ち出された文化財の移動を制限すること。また、自国にとって適当な場合には、文化財の各物件ごとの出所、供給者の氏名及び住所並びに売却した各物件の特徴及び価格を記録した台帳を常備すること並びに文化財の買手に対し当該文化財について輸出禁止の措置がとられることがある旨を知らせることを古物商に義務付けること。この義務に違反した者には、刑罰又は行政罰を科する。
 (b) 文化財の価値並びに盗取、盗掘及び不法な輸出が文化遺産にもたらす脅威につき教育を通じて国民に認識させ及びそのような認識を高めるよう努めること。

第11条
 外国による国土占領に直接又は間接に起因する強制的な文化財の輸出及び所有権移転は、不法であるとみなす。

第12条
 締約国は、自国が国際関係について責任を有する領域内に存在する文化遺産を尊重するものとし、当該領域における文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止するためすべての適当な措置をとる。

第13条
 締約国は、また、自国の法令に従い、次のことを約束する。
 (a) 文化財の不法な輸入又は輸出を促すおそれのある所有権移転をすべての適当な手段によって防止すること。
 (b) 不法に輸出された文化財がその正当な所有者にできる限り速やかに返還されることを容易にするために自国の権限のある機関が協力することを確保すること。
 (c) 亡失し若しくは盗取された文化財の物件の正当な所有者又はその代理人が提起する当該物件の回復の訴えを認めること。
 (d) 各締約国が特定の文化財について譲渡を禁止し、その結果当然に輸出も禁止するものとして分類し及び宣言することは当該締約国の奪い得ない権利であることを認め、並びに当該文化財が輸出された場合には当該締約国がそれを回復することを容易にすること。

第14条
 締約国は、不法な輸出を防止し及びこの条約の実施によって生ずる義務を履行するため、文化遺産の保護について責任を有する国内機関に対しできる限り十分な予算を配分するものとし、必要があるときは、このための基金を設立すべきである。

第15条
 この条約のいかなる規定も、この条約が関係国について効力を生ずる前にその理由のいかんを問わず原産国の領域から持ち出された文化財の返還に関し、締約国の間で特別の協定を締結すること又は既に締結した協定の実施を継続することを妨げるものではない。

第16条
 締約国は、国際連合教育科学文化機関の総会が決定する期限及び様式で同総会に提出する定期報告において、この条約を適用するために自国がとった立法措置、行政措置その他の措置及びこの分野で得た経験の詳細に関する情報を提供する。

第17条
 1 締約国は、特に次の事項について、国際連合教育科学文化機関の技術援助を要請することができる。
 (a) 情報提供及び教育
 (b) 協議及び専門家の助言
 (c) 調整及びあっせん
 2 国際連合教育科学文化機関は、文化財の不法な移動に関する問題につき、自発的に調査研究を行い及び研究結果を公表することができる。
 3 国際連合教育科学文化機関は、このため、権限のある非政府機関の協力を要請することができる。
 4 国際連合教育科学文化機関は、この条約の実施に関し、締約国に対し自発的に提案を行うことができる。
 5 この条約の実施に関して現に係争中の少なくとも二の締約国から要請があった場合には、国際連合教育科学文化機関は、当該締約国間の紛争を解決するためあっせんを行うことができる。

第18条
 この条約は、ひとしく正文である英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成する。

第19条
 1 この条約は、国際連合教育科学文化機関の加盟国により、それぞれ自国の憲法上の手続に従って批准され又は受諾されなければならない。
 2 批准書又は受諾書は、国際連合教育科学文化機関事務局長に寄託する。

第20条
 1 この条約は、国際連合教育科学文化機関の非加盟国で同機関の執行委員会が招請するすべての国による加入のために開放しておく。
 2 加入は、国際連合教育科学文化機関事務局長に加入書を寄託することによって行う。

第21条
 この条約は、3番目の批准書、受諾書又は加入書が寄託された日の後3箇月で、その寄託の日以前に批准書、受諾書又は加入書を寄託した国についてのみ効力を生ずる。この条約は、その他の国については、その批准書、受諾書又は加入書の寄託の日の後3箇月で効力を生ずる。

第22条
 締約国は、自国の本土領域のみでなく、自国が国際関係について責任を有するすべての領域についてもこの条約を適用することを認める。締約国は、これらの領域についてのこの条約の適用を確保するため、批准、受諾又は加入の時までにこれらの領域の政府又は他の権限のある当局と必要に応じて協議することを約束し、また、この条約を適用する領域を国際連合教育科学文化機関事務局長に通告することを約束する。この通告は、その受領の日の後3箇月で効力を生ずる。

第23条
 1 締約国は、自国について又は自国が国際関係について責任を有する領域について、この条約を廃棄することができる。
 2 廃棄は、国際連合教育科学文化機関事務局長に寄託する文書により通告する。
 3 廃棄は、廃棄書の受領の後12箇月で効力を生ずる。

第24条
 国際連合教育科学文化機関事務局長は、同機関の加盟国及び第20条に規定する同機関の非加盟国並びに国際連合に対し、第19条及び第20条に規定するすべての批准書、受諾書及び加入書の寄託並びに前2条にそれぞれ規定する通告及び廃棄を通報する。

第25条
 1 この条約は、国際連合教育科学文化機関の総会において改正することができる。その改正は、改正条約の当事国となる国のみを拘束する。
 2 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、批准、受諾又は加入のためのこの条約の開放は、その改正条約が効力を生ずる日に終止す

第26条
 この条約は、国際連合教育科学文化機関事務局長の要請により、国際連合憲章第102条の規定に従って、国際連合事務局に登録する。


 1970年11月17日にパリで、総会の第16回会期の議長及び国際連合教育科学文化機関事務局長の署名を有する本書2通を作成した。これらの本書は、同機関に寄託するものとし、その認証謄本は、第19条及び第20条に規定するすべての国並びに国際連合に送付する。

 以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、パリで開催されて1970年11月14日に閉会を宣言されたその第16回会期において、正当に採択した条約の真正な本文である。


 以止の証拠として、我々は、1970年11月17日に署名した。


 総会議長
    アティリオ・デロロ・マイニ
 事務局長
    ルネ・マウ



外務省:文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約
UNESCO:Convention on the Means of Prohibiting and Preventing the Illicit Import, Export and Transfer of Ownership of Cultural Property