1999年3月26日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する1954年のハーグ条約の第二議定書

第1章 序
  第1条 定義
  第2条 条約との関係
  第3条 適用範囲
  第4条 第3章の規定と条約及びこの議定書の他の規定との関係
第2章 保護に関する一般規定
  第5条 文化財の保全
  第6条 文化財の尊重
  第7条 攻撃の際の予防措置
  第8条 敵対行為の影響に対する予防措置
  第9条 占領地域における文化財の保護
第3章 強化された保護
  第10条 強化された保護
  第11条 強化された保護の付与
  第12条 強化された保護の下にある文化財に関する特別な取扱い
  第13条 強化された保護の喪失
  第14条 強化された保護の停止及び取消し
第4章 刑事上の責任及び裁判権
  第15条 この議定書の著しい違反
  第16条 裁判権
  第17条 訴追
  第18条 犯罪人引渡し
  第19条 法律上の相互援助
  第20条 拒否の理由
  第21条 他の違反に関する措置
第5章 国際的性質を有しない武力紛争における文化財の保護
  第22条 国際的性質を有しない武力紛争
第6章 組織に関する事項
  第23条 締約国会議
  第24条 武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会
  第25条 任期
  第26条 手続規則
  第27条 任務
  第28条 事務局
  第29条 武力紛争の際の文化財の保護に関する基金
第7章 情報の周知及び国際的援助
  第30条 周知
  第31条 国際協力
  第32条 国際的援助
第8章 議定書の実施
  第34条 利益保護国
  第35条 調停手続
  第36条 利益保護国がない場合の調停
  第37条 訳文及び報告
  第38条 国家責任
第9章 最終規定
  第39条 用語
  第40条 署名
  第41条 批准、受諾又は承認
  第42条 加入
  第43条 効力発生
  第44条 武力紛争の事態における効力発生
  第45条 廃棄
  第46条 通報
  第47条 国際連合への登録



締約国は、

武力紛争の際の文化財の保護について改善し、及び特に指定された文化財の保護について強化された体制を確立する必要があることを認め、
1954年5月14日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の重要性を再確認し、また、その実施を強化するための措置を通じて同条約の規定を補足することの必要性を強調し、
適当な手続を定めることにより、同条約の締約国に対し、武力紛争の際の文化財の保護に一層密接に関与するための手段を提供することを希望し、
武力紛争の際の文化財の保護について規律する規則が国際法の発展を反映すべきであることを考慮し、
この議定書により規律されない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則により規律されることを確認して、
次のとおり協定した。

第1章 序

第1条 定義
この議定書の適用上、
(a) 「締約国」とは、この議定書の締約国をいう。
(b) 「文化財」とは、条約第一条に定義する文化財をいう。
(c) 「条約」とは、1954年5月14日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する条約をいう。
(d) 「条約締約国」とは、条約の締約国をいう。
(e) 「強化された保護」とは、第10条及び第11条に定める強化された保護の制度をいう。
(f) 「軍事目標」とは、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に資する物であって、その全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況において明確な軍事的利益をもたらすものをいう。
(g) 「不法な」とは、強制的な手段又はその他の手段により、被占領国の国内法又は国際法の適用可能な規則に違反することをいう。
(h) 「一覧表」とは、第27条1(b)の規定に従って作成される強化された保護の下にある文化財の国際的な一覧表をいう。
(i) 「事務局長」とは、国際連合教育科学文化機関事務局長をいう。
(j) 「ユネスコ」とは、国際連合教育科学文化機関をいう。
(k) 「第一議定書」とは、1954年5月14日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する議定書をいう。

第2条 条約との関係
この議定書は、締約国間の関係において、条約を補足する。

第3条 適用範囲
1 この議定書は、平時に適用する規定を除くほか、条約第18条1及び2並びにこの議定書の第22条1に規定する事態について適用する。
2 紛争当事国の一がこの議定書によって拘束されない場合にも、締約国は、その相互の関係においては、この議定書によって引き続き拘束される。さらに、締約国は、この議定書によって拘束されない紛争当事国がこの議定書の規定を受諾し、かつ、適用する限り、当該紛争当事国との関係においても、この議定書によって拘束される。

第4条 第3章の規定と条約及びこの議定書の他の規定との関係
第3章の規定の適用は、次の(a)及び(b)の規定の適用を妨げるものではない。
(a) 条約第1章の規定及びこの議定書の第2章の規定
(b) 条約第2章の規定。ただし、この議定書の締約国間又はこの議定書の締約国と前条2の規定に従ってこの議定書を受諾し、かつ、適用する国との間においては、文化財に特別の保護及び強化された保護の双方が与えられている場合には、強化された保護に関する規定のみを適用する。

第2章 保護に関する一般規定

第5条 文化財の保全
条約第3条の規定に従い武力紛争による予見可能な影響から文化財を保全するために平時にとる準備措置には、適当な場合には、目録の作成、火災又は構造的崩壊から保護するための緊急措置の立案、動産の文化財を移動するため又は当該動産の文化財に対しその所在地において適当な保護を与えるための準備及び文化財の保全について責任を有する権限のある当局の指定を含める。

第6条 文化財の尊重
条約第4条の規定に従い文化財の尊重を確保することを目的として、
(a) 同条2の規定による絶対的な軍事上の必要に基づく免除は、文化財に対する敵対行為については、次の(i)及び(ii)の条件が満たされる場合に限り、主張することができる。
 (i) 当該文化財が、その機能により軍事目標となっていること。
 (ii) (i)の軍事目標に対して敵対行為を行うことによって得られる軍事的利益と同様の軍事的利益を得るために利用し得る実行可能な代替的手段がないこと。
(b) 同条2の規定による絶対的な軍事上の必要に基づく免除は、破壊又は損傷の危険にさらすおそれがある目的のための文化財の利用については、当該文化財のこのような利用と、当該利用によって得られる軍事的利益と同様の軍事的利益を得るための他の実行可能な方法との間の選択が不可能である場合に限り、主張することができる。
(c) 絶対的な軍事上の必要を主張することについての決定は、大隊に相当する規模の兵力若しくは大隊よりも大きい規模の兵力の指揮官又は状況によりやむを得ない場合には、大隊よりも小さい規模の兵力の指揮官のみが行う。
(d) (a)の規定により行われた決定に基づき攻撃を行う場合には、事情が許すときはいつでも、効果的な事前の警告を与える。

第7条 攻撃の際の予防措置
紛争当事国たる締約国は、軍事行動を行うに際して国際人道法によって要請される他の予防措置を妨げることなく、次のことを行う。
(a) 攻撃の目標が条約第四条の規定により保護される文化財でないことを確認するためのすべての実行可能なこと。
(b) 攻撃の手段及び方法の選択に当たっては、巻き添えによる条約第四条の規定により保護される文化財の損傷を防止し、又は少なくとも最小限にとどめるため、すべての実行可能な予防措置をとること。
(c) 予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、巻き添えによる条約第四条の規定により保護される文化財の損傷を過度に引き起こすことが予測される攻撃を行う決定を差し控えること。
(d) 次のことが明白となった場合には、攻撃を中止し、又は停止すること。
 (i) 攻撃の目標が、条約第四条の規定により保護される文化財であること。
 (ii) 攻撃が、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、巻き添えによる条約第四条の規定により保護される文化財の損傷を過度に引き起こすことが予測されること。

第8条 敵対行為の影響に対する予防措置
紛争当事国たる締約国は、実行可能な最大限度まで、次のことを行う。
(a) 動産の文化財を軍事目標の付近から移動させ、又は当該動産の文化財に対しその所在地において適当な保護を与えること。
(b) 文化財の付近に軍事目標を設けることを避けること。

第9条 占領地域における文化財の保護
1 条約第四条及び第五条の規定の適用を妨げることなく、他の締約国の領域の全部又は一部を占領している締約国は、占領地域について、次の事項を禁止し、及び防止する。
(a) 文化財のあらゆる不法な輸出、その他の移動又は所有権の移転
(b) あらゆる考古学上の発掘(文化財を保全し、記録し、又は保存するために真に必要とされる場合を除く。)
(c) 文化上、歴史上又は学術上の証拠資料を隠匿し、又は破壊することを意図する文化財のあらゆる改造又は利用の変更
2 占領地域内の文化財のいかなる考古学上の発掘、改造又は利用の変更も、状況によりやむを得ない場合を除くほか、当該占領地域の権限のある当局との緊密な協力の下に行う。

第3章 強化された保護

第10条 強化された保護
文化財は、次のすべての条件を満たす場合には、強化された保護の下に置くことができる。
(a) 当該文化財が、人類にとって最も重要な文化遺産であること。
(b) 当該文化財の文化上及び歴史上の特別の価値を認め、並びに最も高い水準の保護を確保する適当な立法上及び行政上の国内措置により当該文化財が保護されていること。
(c) 当該文化財が軍事的目的で又は軍事施設を掩(えん)護するために利用されておらず、かつ、当該文化財を管理する締約国がそのような利用を行わないことを確認する旨の宣言を行っていること。

第11条 強化された保護の付与
1 締約国は、強化された保護の付与を要請しようとする文化財を記載した表を第24条に規定する委員会に提出するものとする。
2 1に規定する文化財に対して管轄権を有し、又はこれを管理する締約国は、当該文化財を第27条1(b)の規定に従って作成される一覧表に記載することを要請することができる。この要請には、前条に定める基準に関連するすべての必要な情報を含める。第24条に規定する委員会は、締約国に対し、当該文化財が一覧表に記載されることを要請するよう促すことができる。
3 関連する専門的知識を有する他の締約国、ブルーシールド国際委員会及びその他の非政府機関は、特定の文化財を第二十四条に規定する委員会に推薦することができる。このような場合には、当該委員会は、締約国に対し、一覧表への当該文化財の記載を要請するよう促すことを決定することができる。
4 二以上の国が主権若しくは管轄権を主張している領域内に所在する文化財を一覧表に記載することを要請すること又は当該文化財を一覧表に記載することは、そのような紛争の当事者の権利にいかなる影響も及ぼすものではない。
5 第24条に規定する委員会は、一覧表への記載の要請を受領したときは、当該要請をすべての締約国に通報する。締約国は、60日以内に当該委員会に対して当該要請に関する意見を提出することができる。これらの意見は、前条に定める基準に基づくものに限る。これらの意見は、具体的なものであり、かつ、事実に関するものでなければならない。当該委員会は、これらの意見について審議するものとし、当該委員会としての決定を行う前に、一覧表への記載を要請している締約国に対し、当該意見に対する見解を表明するための適当な機会を与える。当該委員会は、これらの意見について審議するに際しては、第26条の規定にかかわらず、出席し、かつ、投票する当該委員会の構成国の五分の四以上の多数による議決により、一覧表への記載を決定する。
6 第24条に規定する委員会は、一覧表への記載の要請について決定を行うに当たり、政府機関及び非政府機関並びに個人の専門家の助言を求めるものとする。
7 強化された保護を付与し、又は付与しない旨の決定は、前条に定める基準に基づいてのみ行うことができる。
8 例外的な場合には、第24条に規定する委員会は、一覧表への文化財の記載を要請している締約国が前条(b)の基準を満たしていないと判断したときであっても、その要請を行った締約国が第32条の規定に基づいて国際的援助の要請を提出することを条件として、強化された保護を付与することを決定することができる。
9 紛争当事国たる締約国は、敵対行為の開始に際し、自国が管轄権を有し、又は管理する文化財について強化された保護の付与を要請することを第二十四条に規定する委員会に通報することにより、強化された保護の付与を緊急に要請することができる。当該委員会は、その要請をすべての紛争当事国たる締約国に直ちに送付する。このような場合には、当該委員会は、関係締約国からの意見について迅速に審議する。暫定的な強化された保護を付与する旨の決定は、第26条の規定にかかわらず、出席し、かつ、投票する当該委員会の構成国の5分の4以上の多数による議決により、できる限り速やかに行う。当該委員会は、前条(a)及び(c)の基準が満たされているときは、強化された保護を付与するための正規の手続による結果が出るまでの間、暫定的な強化された保護を付与することができる。
10 強化された保護は、一覧表に文化財が記載された時から、第24条に規定する委員会により付与される。
11 事務局長は、国際連合事務総長及びすべての締約国に対し、第24条に規定する委員会による一覧表に文化財を記載する旨の決定の通報を遅滞なく送付する。

第12条 強化された保護の下にある文化財に関する特別な取扱い
紛争当事国たる締約国は、強化された保護の下にある文化財を攻撃の対象とすることを差し控えること及び軍事活動を支援するための当該文化財又はその隣接する周囲のいかなる利用も差し控えることにより、当該文化財に関する特別な取扱いを確保する。

第13条 強化された保護の喪失
1 強化された保護の下にある文化財は、次のいずれかの場合に限り、強化された保護を喪失する。
(a) 強化された保護が、次条の規定に基づいて停止され、又は取り消される場合
(b) 当該文化財が、その利用により軍事目標となっている場合
2 1(b)の状況においては、1の文化財は、次のすべての条件を満たす場合に限り、攻撃の対象とすることができる。
(a) 当該攻撃が、1(b)に規定する利用を終了させるための唯一の実行可能な手段であること。
(b) 攻撃の手段及び方法の選択に当たっては、1(b)に規定する利用を終了させるため、及び当該文化財の損傷を防止し、又は少なくとも最小限にとどめるため、すべての実行可能な予防措置をとること。
(c) 緊急の自衛上の必要のため状況によりやむを得ない場合を除くほか、
 (i) 当該攻撃が、最も上級の作戦上の指揮機関により命令されること。
 (ii) 1(b)に規定する利用を終了することを要請する効果的な事前の警告が、敵対する兵力に対して発出されること。
 (iii) 事態を是正するための合理的な期間が、敵対する兵力に与えられること。

第14条 強化された保護の停止及び取消し
1 第24条に規定する委員会は、文化財が第10条に定める基準のいずれかを満たさなくなった場合には、強化された保護を停止し、又は当該文化財を一覧表から削除することによりこれを取り消すことができる。
2 第24条に規定する委員会は、強化された保護の下にある文化財に関し、軍事活動を支援するための当該文化財の利用により第12条の規定に対する著しい違反が生じている場合には、強化された保護を停止することができる。当該委員会は、当該違反が継続する場合には、例外的に、当該文化財を一覧表から削除することにより強化された保護を取り消すことができる。
3 事務局長は、国際連合事務総長及びすべての締約国に対し、第24条に規定する委員会による強化された保護を停止し、又は取り消す旨の決定の通報を遅滞なく送付する。
4 第24条に規定する委員会は、3に規定する決定を行う前に、締約国に対し、その意見を表明するための機会を与える。

第4章 刑事上の責任及び裁判権

第15条 この議定書の著しい違反
1 故意に、かつ、条約又はこの議定書に違反して行われる次のいずれの行為も、この議定書上の犯罪とする。
(a) 強化された保護の下にある文化財を攻撃の対象とすること。
(b) 強化された保護の下にある文化財又はその隣接する周囲を軍事活動を支援するために利用すること。
(c) 条約及びこの議定書により保護される文化財の広範な破壊又は徴発を行うこと。
(d) 条約及びこの議定書により保護される文化財を攻撃の対象とすること。
(e) 条約により保護される文化財を盗取し、略奪し若しくは横領し、又は損壊すること。
2 締約国は、この条に規定する犯罪を自国の国内法上の犯罪とするため、及びこのような犯罪について適当な刑罰を科することができるようにするため、必要な措置をとる。締約国は、そのような措置をとるに当たり、法の一般原則及び国際法(行為を直接に行う者以外の者に対しても個人の刑事上の責任を課する規則を含む。)に従う。

第16条 裁判権
1 2の規定の適用を妨げることなく、締約国は、次の場合において前条に規定する犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な立法上の措置をとる。
(a) 犯罪が自国の領域内で行われる場合
(b) 容疑者が自国の国民である場合
(c) 同条1(a)から(c)までに規定する犯罪については、容疑者が自国の領域内に所在する場合
2 裁判権の行使に関し、条約第28条の規定の適用を妨げることなく、
(a) この議定書は、適用可能な国内法及び国際法に基づき個人が刑事上の責任を負うこと又は裁判権が行使されることを妨げるものではなく、また、国際慣習法に基づく裁判権の行使に影響を及ぼすものでもない。
(b) 締約国でない国が第3条2の規定に従ってこの議定書の規定を受諾し、かつ、適用する場合を除くほか、締約国でない国の軍隊の構成員及び国民(締約国の軍隊において勤務する者を除く。)は、この議定書に基づき個人の刑事上の責任を負うことはなく、また、この議定書は、当該軍隊の構成員及び国民に対する裁判権を設定し、又は当該軍隊の構成員及び国民を引き渡す義務を課するものではない。

第17条 訴追
1 締約国は、第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪の容疑者が自国の領域内に所在することが判明した場合において、当該容疑者を引き渡さないときは、いかなる例外もなしに、かつ、不当に遅滞することなく、国内法による手続又は適用可能な国際法の関連規則による手続を通じて、訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する。
2 適用可能な国際法の関連規則の適用を妨げることなく、自己につき条約又はこの議定書に関連して訴訟手続がとられているいずれの者も、当該訴訟手続のすべての段階において国内法及び国際法に従って公正な取扱い及び公正な裁判を保障され、かつ、いかなる場合においても、国際法に定める保障よりも不利な保障が与えられることはない。

第18条 犯罪人引渡し
1 第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪は、この議定書が効力を生ずる前に締約国間に存在する犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間でその後締結されるすべての犯罪人引渡条約にこれらの犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
2 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、随意にこの議定書を第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。
3 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、犯罪人引渡しの請求を受けた締約国の法令に定める条件に従い、相互間で、第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪を引渡犯罪と認める。
4 第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪は、締約国間の犯罪人引渡しに関しては、必要な場合には、当該犯罪が発生した場所においてのみでなく、第16条1の規定に従って裁判権を設定した締約国の領域内においても行われたものとみなされる。

第19条 法律上の相互援助
1 締約国は、第十五条に規定する犯罪について行われる捜査、刑事訴訟又は犯罪人引渡しに関する手続について、相互に最大限の援助(これらの手続に必要であり、かつ、自国が提供することのできる証拠の収集に係る援助を含む。)を与える。
2 締約国は、相互間に法律上の相互援助に関する条約又は他の取極が存在する場合には、当該条約又は他の取極に合致するように、1に定める義務を履行する。締約国は、そのような条約又は取極が存在しない場合には、国内法に従って相互に援助を与える。

第20条 拒否の理由
1 第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪については、犯罪人引渡しに関し、また、同条に規定する犯罪については、法律上の相互援助に関し、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪とみなしてはならない。したがって、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪に関係することのみを理由として、同条1(a)から(c)までに規定する犯罪を根拠とする犯罪人引渡しの請求又は同条に規定する犯罪に関する法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
2 この議定書のいかなる規定も、第15条1(a)から(c)までに規定する犯罪を根拠とする犯罪人引渡しの請求又は同条に規定する犯罪に関する法律上の相互援助の要請を受けた締約国が、これらの請求若しくは要請が人種、宗教、国籍、民族的出身若しくは政治的意見を理由としてこれらの請求若しくは要請の対象となる者を訴追し若しくは処罰するために行われたと信じ、又はこれらの請求若しくは要請に応ずることによりその者の地位がこれらの理由によって害されると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合には、引渡しを行い、又は法律上の相互援助を与える義務を課するものと解してはならない。

第21条 他の違反に関する措置
条約第28条の規定の適用を妨げることなく、締約国は、故意に行われる次の行為を抑止するために必要な立法上、行政上又は懲戒上の措置をとる。
(a) 条約又はこの議定書に違反する文化財の利用
(b) 条約又はこの議定書に違反して行われる占領地域からの文化財の不法な輸出、その他の移動又は所有権の移転

第5章 国際的性質を有しない武力紛争における文化財の保護

第22条 国際的性質を有しない武力紛争
1 この議定書は、締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合について適用する。
2 この議定書は、暴動、独立の又は散発的な暴力行為その他これらに類する性質の行為等国内における騒乱及び緊張の事態については、適用しない。
3 この議定書のいかなる規定も、国の主権又は、あらゆる正当な手段によって、国の法及び秩序を維持し若しくは回復し若しくは国の統一を維持し及び領土を保全するための政府の責任に影響を及ぼすことを目的として援用してはならない。
4 この議定書のいかなる規定も、国際的性質を有しない武力紛争が領域内で生ずる締約国の第十五条に規定する違反行為に対する第一次の裁判権を害するものではない。
5 この議定書のいかなる規定も、武力紛争が生じている締約国の領域における当該武力紛争又は武力紛争が生じている締約国の国内問題若しくは対外的な問題に直接又は間接に介入することを、その介入の理由のいかんを問わず、正当化するために援用してはならない。
6 1に規定する事態へのこの議定書の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。
7 ユネスコは、その役務を紛争当事者に提供することができる。

第6章 組織に関する事項

第23条 締約国会議
1 締約国会議は、ユネスコの総会と同時に、かつ、条約締約国の会合が事務局長により招集された場合には当該条約締約国の会合と調整の上、開催される。
2 締約国会議は、その手続規則を採択する。
3 締約国会議は、次の任務を有する。
(a) 次条に規定する委員会の構成国を同条1の規定に従って選出すること。
(b) 次条に規定する委員会が第27条1(a)の規定に従って作成する指針を承認すること。
(c) 次条に規定する委員会による第29条に規定する基金の利用について、指針を提供し、及び監督すること。
(d) 次条に規定する委員会が第27条1(d)の規定に従って提出する報告書を審議すること。
(e) この議定書の適用に関連するあらゆる問題を討議し、及び適当な場合には勧告を行うこと。
4 事務局長は、締約国の少なくとも5分の1の要請により、特別の締約国会議を招集する。

第24条 武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会
1 この議定書により、武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、締約国会議により選出される12の締約国によって構成される。
2 委員会は、毎年1回、通常会期として会合するものとし、必要があると認めるときはいつでも、臨時会期として会合する。
3 締約国は、委員会の構成を決定するに当たり、世界の異なる地域及び文化が衡平に代表されることを確保するよう努める。
4 委員会の構成国は、自国の代表として文化遺産、国防又は国際法の分野において資格を有する者を選定するものとし、また、相互に協議の上、委員会が全体としてこれらのすべての分野における十分な専門的知識を有することを確保するよう努める。

第25条 任期
1 締約国は、4年の任期で委員会に選出されるものとし、引き続いて1回のみ再選される資格を有する。
2 1の規定にかかわらず、最初の選挙において選出された構成国の2分の1の任期は、当該選挙が行われた締約国会議の通常会期の後に開催される最初の締約国会議の通常会期の終わりに終了する。これらの構成国は、最初の選挙の後に締約国会議の議長によりくじ引で選ばれる。

第26条 手続規則
1 委員会は、その手続規則を採択する。
2 委員会の会合の定足数は、構成国の過半数とする。委員会の決定は、投票する構成国の1分の2以上の多数による議決で行う。
3 委員会の構成国は、自国が当事者である武力紛争の影響を受ける文化財に関するいかなる決定についても、投票に参加してはならない。

第27条 任務
1 委員会は、次の任務を有する。
(a) この議定書の実施に関する指針を作成すること。
(b) 文化財に対して強化された保護を付与し、停止し、又は取り消すこと並びに強化された保護の下にある文化財の一覧表を作成し、維持し、及び周知させること。
(c) この議定書の実施を監視し、及び監督すること並びに強化された保護の下に置かれる文化財の認定を促進すること。
(d) 締約国の報告について検討し、意見を述べ、及び必要に応じて説明を求め、並びに締約国会議に提出するためにこの議定書の実施に関する報告書を作成すること。
(e) 第32条に規定する国際的援助の要請を受領し、及び検討すること。
(f) 第29条に規定する基金の利用について決定を行うこと。
(g) 締約国会議により与えられるその他の任務を遂行すること。
2 委員会の任務は、事務局長と協力して遂行する。
3 委員会は、条約、第一議定書及びこの議定書の目的と同様の目的を有する政府間国際機関及び国際的な非政府機関並びに国内の政府機関及び非政府機関と協力する。委員会は、その任務の遂行について支援を受けるため、ユネスコと公式の関係を有する専門的機関等の著名な専門的機関(ブルーシールド国際委員会(ICBS)及びその構成機関を含む。)を顧問の資格で委員会の会合に招請することができる。また、委員会は、文化財の保存及び修復の研究のための国際センター(ローマ・センター)(ICCROM)及び赤十字国際委員会(ICRC)の代表についても、顧問の資格で出席するよう招請することができる。

第28条 事務局
委員会は、ユネスコ事務局の補佐を受けるものとし、同事務局は、委員会の書類及び会合の議事日程を作成し、並びに委員会の決定の実施について責任を有する。

第29条 武力紛争の際の文化財の保護に関する基金
1 この議定書により、次の目的のため、武力紛争の際の文化財の保護に関する基金(以下この条において「基金」という。)を設立する。
(a) 特に第5条、第10条(b)及び次条の規定に従って平時にとられる準備措置その他の措置を支援するための財政上その他の援助を提供すること。
(b) 武力紛争の期間中又は敵対行為の終了後の当面の復旧の間において特に第8条(a)の規定に従って文化財を保護するためにとられる緊急の措置、暫定的な措置その他の措置に関し、財政上その他の援助を提供すること。
2 基金は、ユネスコの財政規則に基づく信託基金とする。
3 基金から支出された資金は、委員会が第23条3(c)に規定する指針に従って決定する目的のためにのみ使用する。委員会は、特定の計画又は事業に用途を限った拠出を受けることができる。ただし、委員会が当該計画又は事業の実施を決定している場合に限る。
4 基金の資金は、次のものから成る。
(a) 締約国からの任意拠出金
(b) 次の者からの拠出金、贈与又は遺贈
 (i) 締約国以外の国
 (ii) ユネスコ又は国際連合の他の機関
 (iii) 他の政府間機関又は非政府機関
 (iv) 公私の機関又は個人
(c) 基金から生ずる利子
(d) 募金によって調達された資金及び基金のために企画された行事による収入
(e) 基金に適用される指針によって認められるその他のあらゆる資金

第7章 情報の周知及び国際的援助

第30条 周知
1 締約国は、適当な手段を用いて、特に教育及び広報に関する事業計画を通じて、自国のすべての住民が文化財を評価し、及び尊重することを強化するよう努める。
2 締約国は、平時及び武力紛争の際の双方において、できる限り広い範囲においてこの議定書の周知を図る。
3 武力紛争の際にこの議定書の適用について責任を有する軍当局及び軍当局以外の当局は、この議定書の内容を熟知していなければならない。このため、締約国は、適当な場合には、次のことを行う。
(a) 文化財の保護についての指針及び命令を自国の軍事上の規則に含めること。
(b) ユネスコ並びに関連の政府機関及び非政府機関と協力して、平時の訓練及び教育に関する事業計画を作成し、及び実施すること。
(c) 事務局長を通じて、(a)及び(b)の規定を実施するために制定された法律及び行政規則並びに当該規定を実施するためにとられた措置に関する情報を相互に通報すること。
(d) 事務局長を通じて、できる限り速やかに、この議定書の適用を確保するために自国が制定する法律及び行政規則を相互に通報すること。

第31条 国際協力
締約国は、この議定書に対する著しい違反がある場合には、ユネスコ及び国際連合と協力して、かつ、国際連合憲章に従って、単独で又は委員会を通じて共同して行動することを約束する。

第32条 国際的援助
1 締約国は、委員会に対し、強化された保護の下にある文化財に関する国際的援助並びに第10条の規定による法律、行政規則及び措置の立案、制定又は実施に関する援助を要請することができる。
2 この議定書の締約国でない紛争当事国であって、第3条2の規定に従ってこの議定書の規定を受諾し、かつ、適用するものは、委員会に対し、適当な国際的援助を要請することができる。
3 委員会は、国際的援助の要請の提出に関する規則を採択し、及び国際的援助の形態について定める。
4 締約国は、要請を行う締約国又は紛争当事国に対し、委員会を通じて、あらゆる種類の技術上の援助を与えることを奨励される。

第33条 ユネスコによる援助
1 締約国は、自国の文化財の保護に関する業務の遂行(文化財の保全のための準備活動、緊急事態に対する予防措置及び制度上の措置の実施、自国の文化財の目録の作成等)について、又はこの議定書の適用から生ずるその他のあらゆる問題について、ユネスコに技術上の援助を要請することができる。ユネスコは、その計画及び資力の範囲内で当該援助を与える。
2 締約国は、二国間又は多数国間で技術上の援助を与えることを奨励される。
3 ユネスコは、その発意により、締約国に対し1及び2の事項に関する提案を行うことができる。

第8章 議定書の実施

第34条 利益保護国
この議定書は、紛争当事国たる締約国の利益の保護について責任を有する利益保護国の協力を得て適用する。

第35条 調停手続
1 利益保護国は、文化財の保護のために有益と認めるすべての場合、特に、この議定書の適用又は解釈に関して紛争当事国たる締約国の間で意見の相違がある場合には、あっせんを行う。
2 このため、各利益保護国は、一の締約国若しくは事務局長からの要請により又は自己の発意により、紛争当事国たる締約国に対し、それぞれの代表者、特に文化財の保護について責任を有する当局が、適当と認められる場合には紛争当事国でない国の領域において、会合するよう提案することができる。紛争当事国たる締約国は、自国に対してなされた会合の提案に従わなければならない。利益保護国は、紛争当事国たる締約国に対し、その承認を求めるため、紛争当事国でない国に属する者又は事務局長から提示された者であって当該会合に議長の資格で参加するよう招請されるものを提案する。

第36条 利益保護国がない場合の調停
1 事務局長は、利益保護国が任命されていない場合の紛争において、意見の相違を解決するため、あっせんを行い、又はその他調停若しくは仲介の手段を用いて行動することができる。
2 委員会の議長は、一の締約国又は事務局長からの要請により、紛争当事国たる締約国に対し、それぞれの代表者、特に文化財の保護について責任を有する当局が、適当と認められる場合には紛争当事国でない国の領域において、会合するよう提案することができる。

第37条 訳文及び報告
1 締約国は、この議定書を自国の公用語に翻訳するものとし、その公定訳文を事務局長に送付する。
2 締約国は、この議定書の実施に関する報告を4年に1回委員会に提出する。

第38条 国家責任
個人の刑事上の責任に関するこの議定書の規定は、国際法に基づく国家責任(賠償を支払う義務を含む。)に影響を及ぼすものではない。

第9章 最終規定

第39条 用語
この議定書は、ひとしく正文であるアラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成する。

第40条 署名
この議定書は、1999年3月26日の日付を有するものとし、1999年5月17日から12月31日までハーグにおいてすべての条約締約国による署名のために開放しておく。

第41条 批准、受諾又は承認
1 この議定書は、この議定書に署名した条約締約国により、それぞれ自国の憲法上の手続に従って批准され、受諾され、又は承認されなければならない。
2 批准書、受諾書又は承認書は、事務局長に寄託する。

第42条 加入
1 この議定書は、2000年1月1日以後は、他の条約締約国による加入のために開放しておく。
2 加入は、事務局長に加入書を寄託することによって行う。

第43条 効力発生
1 この議定書は、20の国の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された後3箇月で効力を生ずる。
2 この議定書は、その後は、各締約国について、その批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後3箇月で効力を生ずる。
〔平成一九年九月外務告五二四号により、平成19・12・10から日本国について発効〕

第44条 武力紛争の事態における効力発生
条約第18条又は第19条に規定する事態において、紛争当事国が敵対行為又は占領の開始前又は開始後に行った批准、受諾、承認又は加入は、直ちに効力を生ずる。この場合には、事務局長は、第46条に規定する通報を最も速やかな方法で送付する。

第45条 廃棄
1 締約国は、この議定書を廃棄することができる。
2 廃棄は、事務局長に寄託する文書により通告する。
3 廃棄は、廃棄書の受領の後1年で効力を生ずる。ただし、廃棄を行う締約国がこの期間の満了の時において武力紛争に巻き込まれている場合には、廃棄は、敵対行為の終了の時又は文化財の返還に関する業務が完了する時のいずれか遅い時まで効力を生じない。

第46条 通報
事務局長は、すべての条約締約国及び国際連合に対し、第41条及び第42条に規定するすべての批准書、受諾書、承認書及び加入書の寄託並びに前条に規定する廃棄を通報する。

第47条 国際連合への登録
この議定書は、事務局長からの要請により、国際連合憲章第102条の規定に従って、国際連合事務局に登録する。

以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの議定書に署名した。

1999年3月26日にハーグで、本書一通を作成した。本書は、国際連合教育科学文化機関に寄託するものとし、その認証謄本は、すべての条約締約国に送付する。



外務省:千九百九十九年三月二十六日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する千九百五十四年のハーグ条約の第二議定書
UNESCO:Second Protocol to the Hague Convention of 1954 for the Protection of Cultural Property in the Event of Armed Conflict