「それ、貰えませんか?」 煙草を咥えたまま新聞の活字を追っていた三蔵は、視線をあげて窓際に立つ八戒を見た。逆光線を浴びてにこやかに微笑む八戒の目線を辿り僅かに目を見開く。 サイドテーブルの上には飲みかけのコーヒーと、吸殻の入った灰皿に、口の開いたマルボロ赤ソフト。 「……好きにしろ」 「ありがとうございます」 語尾に盛大なハートマークを付けた八戒は、マルボロを手に取ると開いてない端をトンと軽く叩き、一本取り出し口に咥えた。その淀みない動きに三蔵は目を眇める。 「火、ありますか?」 問われた三蔵は無言で袂からマッチを取り出しテーブルの上に置く。そして短くなった自分の煙草を灰皿に潰すと、再び新聞に目を戻した。 置かれたマッチを手に取った八戒は、新聞に目を落とす三蔵に咎める視線を送った。 「入ってませんけど」 「先刻俺が使ったのが最後だ。残念だったな」 「だから良いって言ったんですか?意地が悪いですね、三蔵」 「……おまえにだけは言われたくねぇな」 咥えていた煙草を唇から離すと、八戒は未練がましく灰皿へと置いた。と、テーブルの上に置いた手を急に引かれて三蔵へと倒れかかる。 「ちょっ…危ないじゃないですか!?」 素晴らしい反射神経で三蔵の肩に手を置いて、倒れ込むのを防いだ八戒の顎に指がかかる。 目の前には紫電の瞳 「口さみしいならこっちにしろ」 引き寄せられる緩やかな力に抗わず、光る金の髪が、深紅のチャクラが近付き、鋭利な紫暗の瞳が閉じるのを眺めて、唇が触れあう。 眩しさに瞼を閉じれば合わさる唇の角度が変わり、緩く結ばれた唇を舌がなぞる。 絡みあう舌から口中に広がる苦い味 「………ん」 鼻から抜ける吐息が甘くなり、掴まれたままの手首から熱を伝えられ、深まるマルボロに軽い陶酔感を味わう。 煙草にして一本分 ようやく離れた唇は、名残を惜しむようにまだ糸が繋がっている。もう一度舐め取るように軽く口付けを交わすと、至近距離で紫暗の瞳に見つめられて、躰に火が灯されたのが判る。 いたたまれずに瞼を伏せれば、掴まれたままの手首に力が込められ、また熱が一度上がる。 「………貴方に言ったのが間違いでした」 「間違いじゃねぇだろ、ねだればいい」 煙草を、とは言わない三蔵にもう一度視線を合わせれば、距離がなくなる。 習慣性になったら困ると思いながら、肩に置いた手を項に回し髪に指を絡める。 本当はもう手遅れだと知っている |
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2003/12/29