明智がふと目覚めると、目の前に開かれた本があった。
それは高遠が読んでいる本で、自分は彼の膝枕でうたた寝をしていた。
「お目覚めですか?明智さん」
そう言って高遠は本を閉じると、さらりと明智の髪を撫でた。
そして無意識に眼鏡を探す明智の手を取ると、その甲に口付ける。
「もう少し休んでいた方が良いですよ。寝不足でしょう?」
目元を覆われると柔らかい力で、明智は再び高遠の膝の上に引き戻された。
「でも貴方が大変でしょう?」
「そうですね。では雪垂の意味を教えて下さい」
「雪が枝から崩れ落ちること。またその雪も意味したと思いますが、それが?」
「辞書が手に取れないので、それで結構ですよ」
そう言って高遠は、明智の髪を梳くようにして撫でると微笑んだ。
彼の仕草はひどく優しく、その心地よさに再び眠りに誘われる。
明智が高遠の頬に手を伸ばすと、高遠は引かれるように頭を垂れて、2人の唇が触れ合う。
「ありがとう。ではせめて貴方がその本を読み終わるまで」
「又判らない単語があったらお訊きしますよ。おやすみなさい、健悟」
もう一度高遠が髪を撫でると、明智は素直に目を閉じた。
昼下がりの部屋で、高遠がページを捲る音と明智の寝息が静かに時を刻んでいく。
やがて空は黄昏へと変わっていった
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