張り詰めるような夜の気配に、明智はマフラーを肩に掛け直した。
浮かれたようなイルミネーションや喧騒も、この時間になるとさすがに薄れ、その余韻だけが残っていた。
静けさを取り戻した夜に吐く息は白く、明智は予感を持って暗闇を見上げる。
期待に応えて夜は優しく、雪の華を届けた。
「このくらいはあっても良いですよね」
仕事の疲れを癒してくれるこの贈り物を気に入って、明智はもう少し受け取ろうと夜を歩く。
街灯に照らしだされて、羽根のような雪が舞い落ちてくる
次から次へと終わりのないように
振り仰いだ高遠の顔に触れて、ひやりとした感触を残しては消えていく。
まだ幼かった頃、サンタの来ないChristmas
を思い出した。
「神様なんか信じない」
窓辺に両肘を付いて、世界が白くなっていくのをいつまでも眺めていた。
雪は今も降り続き、誰にも等しく美しい氷の芸術品を届けている。
「Merry Christmas 」
憶えのある声に高遠が振り向くと、闇の中にivoryのトレンチコートを着た明智が少し距離を置いて立っていた。
「Merry Xmas 明智さん。これも神サマからの贈り物ですかね?」
「そうですね。でもこんな日は1人で過してはいけない、という戒めかもしれませんよ」
悪戯っぽく目を細めた明智に、高遠は一瞬見開いた瞳を柔和にしてくすりと笑った。
「警視の貴方がそんな風に言うのですか?」
「その仕事を終えて帰ってきたところなんです。ですから一番近いBarで一緒にいかがですか?」
そう言って明智は近くに建つマンションを指差した。
「良いですね。ではご一緒させていただきます」
笑いあった2人は街灯のスポットライトの下、更にfarce
を演じる。
明智は自分のしていた白いカシミヤのマフラーを外し
「Here is a little present for you.」
と言って高遠にふわりと巻くと、高遠は
「Me too.」
と言って指をパチンと鳴らし、明智のコートの飾りボタン穴に、血の様に紅い薔薇を鮮やかに咲かせた。
やがてスポットライトから登場人物達は消え、後には紙吹雪きの代りに本物の雪が舞い散る。
明智がマンションの扉を開けると、部屋は血の様に紅い薔薇で埋め尽くされていた
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