黄色のひまわり


 乾いた白っぽい地面の上には申し訳程度の黒い影。その上を歩く2人の足取りはあまりの暑さにてれてれとしてしまう。ただ強い日差しの中にも風があるのが救いで、時折金髪とこげ茶色の髪がさらさらとなびく。くっきりとした緑の壁を作るとうもろこし畑の隣を歩いて角を曲がると、黄色の群生が見えてくる。
 「あれ、こんな所にひまわり畑なんてありましたっけ?」
 「さぁな」
 「うわぁ、結構な数ですねぇ」
 徐々に近付けば2人よりも背丈のある茎には大振りの緑の葉が幾重にもなり、大輪の華が圧倒的な黄色を太陽に向けて咲き誇っている。
 「綺麗というより圧巻ですね」
 「あちぃ…」
 夏真っ盛りの風景にそれぞれの感想を洩らしながら2人はひまわり畑の横を歩いていく。真上から注ぐ強い日差しはあまり日陰を作ってはくれなかったが、それでも高いひまわりの横は少しだけ涼しく感じる。
 「これだけあると食用でしょうかね?」
 「食えるのか?これが」
 「ええ、観賞用と食用と大別すると二種類あって、食用は種から良質な油が取れるそうですよ。それから炒った種も食べられるって聞いた事あります」
 「食べられるのか」
 「食べてみたいですか?」
 「いや、それ程は」
 「りすの気持ちになれますかね」
 そんな事を話しながら歩いて、ひまわり畑を通り過ぎる。少し遠ざかった黄色を眺めやりながら八戒は続けた。
 「明るい色のせいでしょうかね。あの花笑ってるように見えません?」
 言われて三蔵もちらと振り返る。がすぐに向き直って額の汗を手の甲で拭う。
 「あれだけの数で笑われたら、さぞや煩せぇだろうな」
 「あはは、確かにそうですね。どちらかと言えば大笑いって感じですもんね」
 笑う、という言葉に三蔵は隣を歩く八戒を見つめる。
 基本的に八戒は笑みを浮かべた表情でいる事が多い。笑みを模った表情を作ることで本当の顔を隠しているように見える。けれどその笑みは千差万別で、表面に笑みを張り付かせたまま怒る事もあれば、唇に笑みを浮かべたまま目を伏せる事もある。そんな風に感情の透ける笑みを全部、とはいかないまでも随分と読み取れるようになってきたと思う。その中でいつか心の底からの笑顔に摩り替わればいいと思う。あのひまわりのように全開に大きな声で笑えればいいと。
 「どうしました、三蔵。途中どこかで休みますか?」
 じっと見つめてくる三蔵に、八戒は疲れているのかと小首を傾げた。三蔵は懐から煙草を取り出し自然と視線を外す。
 「そうだな、先ずはビールだ」
 「いいですね、でも僕は気分的にラムネも捨てがたいです。色もそうですけど、あの真中のビー玉が涼しそうじゃありません?」
 「ラムネにしろ」
 「じゃあ三蔵も一緒に飲みません?あの音を聞くと少しは気分が変わるかもしれませんよ。ここにあせもが出来たら大変ですよ」
 そう言って自分の眉間に指を置いた八戒に、三蔵は出来るかといって紫煙を吐き出す。けれど
 「ま、悪くねぇな」
 そう呟くと、八戒は綺麗な翠の瞳を丸くしてから笑った。
 ひまわりみたいな笑顔ではないがこれも良い、と三蔵は煙草を咥える唇の端を上げた。




原作設定:旅に出る前の2人
太陽を追って咲いているんじゃないそうで

2006/08/14