雨の日の三蔵は意地悪だ。
 今も八戒自身を握りこんで後ろから攻め立てている。八戒はこの体位はあまり好きではない。その事を知った上で三蔵は、雨の日にこの体位でする事が多い。
 「……三蔵っ…もう、離し……」
 「だめだ、自分だけ先にイクつもりか?」
 「やあっ…」
 仕置きとばかりに一層激しく攻められて、八戒は快楽と苦しみでシーツを引きちぎらんばかりに握り締めて髪を振り乱した。こんな日の三蔵は容赦がなく、散々焦らされ泣かされ懇願して惑乱するまで抱かれるのだ。
 「…三…ぞ……も…いかせ……て…」
 肩と頭をシーツに落として腰だけを高く上げさせられ、先程までの激しい動きが嘘のようにゆっくりと回す動きに合わせて、八戒も腰を揺らめかせた。
 湧き上がる熱は出口を堰きとめられて、身体の中で渦巻き温度を上げる。感じる処を突かれて八戒は躯を跳ねさせ嬌声を上げた直後、朦朧とした意識の中に扉の音を聞いた気がして薄目を開けた。家の中を確かに人が動く気配がして、三蔵も耳を澄ませて繋がったまま動きを止めた。
 「ちっ…河童か?」
 「みたい…です。三ぞ…だから、も…離し…て」
 「いいのか?声を聞かれても」
 「…あ…」
 確かに今離されたら、抜かれるだけの刺激で達してしまう。八戒は思わず振り返り、見つめる紫暗の瞳と目を合わせた。すると三蔵の瞳に宿った暗い光に八戒は、頭から水を浴びせられたように躯を震わせる。
 「どうせなら見せつけてやるか?こんな風に」
 「ひっ……」
 三蔵は八戒のものを離すと膝裏を掴んで後ろから抱き起こし、両手で足を大きく開かせて深く穿った。八戒は躯を突き抜ける強過ぎる快楽と衝撃に、声にならない悲鳴を上げて理性の欠片で必死に唇を噛んだ。漸く解放された達成感と躯の奥に受け止めた熱い迸りに躯が何度も跳ねる。目を閉じて快楽に浸っていた八戒の瞼がうっすらと開かれる。
 部屋の鍵は掛かっていない。今、声を上げれば悟浄はこの扉を開けるだろう。そこには扉に向けて大きく足を開き、全てを晒して三蔵に抱かれている自分がいるのだ。 霞む頭でそれを思うと、頭を振ってなんとか理性を取り戻そうとした。けれどそれに伴い猛烈な羞恥に襲われて、入ったままの三蔵のものをより感じてしまい、再び躯に火が灯る。自分だけではどうにも出来ない熱を持て余す。
 「八戒、そんなに見られるのは嫌か?」
 耳の下に口付けられながら囁かれて、それだけでも感じてしまう。声すら出せずに何とか首肯したが、耳元で吐息が笑った。
 「俺にはそうは見えねえがな。こんなに感じてやがるくせに」
 三蔵の目が形を変えていく自分のものを注視してるのが判り、八戒は耳まで火照るのが判った。鼓動が早鐘を打ち、見られている事で高まる熱が自分自身と躯の奥に集中していく。三蔵の手がそれを促すように太腿の内側を撫でて戒めを解いているにも関らず、八戒は足を閉じることが出来ない。再び洩れそうな喘ぎ声を殺して強く唇を噛む。すると三蔵の手がそれ以上強い力で八戒の頤を掴んだ。
 「傷つける事は許さん」
 鋭い紫暗の瞳は凄艶なまでに美しく、他の存在を消し去ってしまう。更に近付き唇が塞がれて、八戒は再び三蔵へと意識が墜ちていくのを感じた。噛み切った唇の端を吸われて癒すように舐められて、八戒は自分から唇を開いて三蔵の舌に触れた。そのまま舌で撫で合えば血の味がする。唇を合わせて舌で強請れば三蔵も応えて深いキスに夢中になった。絡めて吸い合い甘噛みされて八戒は、抱きつけない体勢にもどかしくて躯を揺らせる。すると中にある三蔵のものが徐々に怒張していくのが判り、動かない三蔵に焦れて八戒は自から動き出した。中に放たれたものが粘着質な音を立て、その向こうで微かに椅子を動かす音を聞いて、八戒は躯を強張らせ急に動きを止めた。すると今度は三蔵が動いて行為を止めさせてくれない。無意識に噛もうとした八戒の唇に三蔵は再び口付けて傷つけるのを防ぐと、そのまま舌を絡めて喘ぎ声を呑み込んだ。
 「俺のものだ。勝手に傷つけるのは許さんと言っただろう」
 熱を煽る瞳に見つめられてはもう後は戻り出来ない。けれど鋭敏になった自分の躯は悟浄の気配を感知してしまう。見られるかもしれない、というこの状況が快楽を深めている。それが判っても声を上げる事が出来ない。
 「
――― さん蔵」
 もう自分ではどうする事も出来ずに懇願した。助けて欲しい、と。
 三蔵はこれ以上ないくらい美しい紫暗の瞳を瞠目させると、すぐに獰猛な色に変えて、少し骨ばった指を口の中に差し入れてきた。二本の指が舌に触れ嬲られて、八戒は深いキスのように感じて目を閉じた。感度の高くなった躯はそれだけでも感じて腰が揺らめく。やがて指が抜かれ次に強い圧迫感を感じて八戒は、驚いて目を開けた。気付けば口にネクタイを咥えさせられ、後ろできつく縛られている。
 「…っ」
 「お前の要望に応えただけだ。その替わり俺の要望にも応えろよ」
 非難の目を楽しむように笑った三蔵は、八戒の手を取り自分自身の根元を握らせた。
 「今のお前じゃすぐにイっちまうからな。俺がイクまで離すなよ」
 八戒の手の上から三蔵が強く握ると、八戒は押し殺した呻き声を上げる。それでも手を離さずに睨む翠の瞳に三蔵は、褒美とばかりに右眼に口付けた。
 「もっと快くしてやるよ」
 三蔵の片手が足の内側を踝から撫で上げ、もう片方の手は赤く痼った胸の突起を弄ぶ。感じる処に刺激を与えれば、いつも以上に躯が跳ねて仰け反る。だがそこにいつもの艶声はない。自分で足を開き続ける八戒の足はたまに強く痙攣する。刺激で先にいかないように自分で自分を戒めているからだ。いつも以上に感じている八戒の躯とその姿に三蔵も煽られる。八戒が感じるたびに締め付けられて、中はいつもよりずっと熱い。纏わりつく熱は誘うように蠢き三蔵も我慢が効かなくなってくる。八戒の揺らす腰に合わせて上下するだけでは物足りずに、三蔵は再び膝裏を掴むと足を大きく開かせたまま持ち上げた。そして落とすと同時に突き上げると八戒が強く締め付けてきた。けれどまだ吐き出さないのを感じて必死で自分を塞き止め耐えている。いつもなら嬌声を上げて達するところだが、今は躯を前屈みにして声を上げることすら出来ずに震えている。もうこれ以上耐えられないという風に頭を振る八戒の顔を覗き込めば、苦悶の表情で固く目を閉じ、快楽と苦しさにネクタイを噛み締めて、唇の端から唾液を伝わせ泣いていた。声の替わりに涙を流し続ける八戒の目元に口付け唇で拭ってやると、瞼がゆっくり開いた。涙に溺れた二つと無い翠の瞳が声の替わりに言葉を発する。

 と扉の前に人の気配がして八戒の躯が強く緊張して瞳に怯えが走る。どうせなら見せつけてやりたいという気持ちと、自分にしか見せないこの姿を見せたくないという気持ちで三蔵は、動きを止めたまま扉を睨み付けた。
 「…………八戒?」
 小さく名を呼ぶ悟浄の声がした。繋がったままの2人は固唾を呑んで動かずにいたが、八戒の背中には玉のような汗が浮き出て伝い落ちていく。永遠にも感じる短い時間の後、ドアノブは動く事なく悟浄の気配は遠ざかり、やがて扉の音と共に家から気配が消えた。
 ベッドの上の2人は同時に息を吐き出し躯を弛緩させると、顔を見合わせる。八戒が三蔵に躯を預けて凭れると、三蔵も意図を察してネクタイを解いてやった。
 「やはり物足りねぇな」
 「僕もこの方が良いです」
 八戒は一度落ち着いた躯を浮かせて三蔵のものを抜くと、今度は向かい合わせになって座る。そして三蔵の首に腕を絡めて口付けた。舌で応えてやりながら三蔵も、八戒の腰を掴み持ち上げると再び自身をゆっくりと埋め込んだ。
 「……っあ…ん…」
 「好きなだけ啼け」
 そう言って三蔵は八戒を抱き締めてベッドの上に押し倒した。膝裏に手を当て肩に付くくらい折り曲げると大きく開かせる。上からその姿を見下ろしていると、八戒が頬を染めて訊ねてきた。
 「何…ですか?」
 「やはりヤツには見せられねぇな」
 一瞬で全身を赤く染めた八戒に唇の端を吊り上げると、三蔵はすぐに激しく突き始めた。焦らすことなく追い上げられて、八戒はいつも以上に艶声を上げ善がり溶けていく中に、紫暗の瞳を見つける。

 雨の音はもう聞こえない
 聞こえるのは自分と三蔵が動くたびに生まれる濡れた音
 耳を塞ぎたくなるような自分の喘ぎ声
 三蔵の熱い息遣い

 快楽を追って更に求めれば、理性もプライドも粉々に壊されて、その先にあるのは灼熱の紫暗の瞳。このまま、自分だけを映したまま灼き尽くしてくれたらいいのにと思う。過ぎていく時間を永遠に止めてくれたらと。
思いながら背中に爪と立てると、激しく突き抜かれて思考を切られる。そのまま快楽の海に思考を流され、やってきた強すぎる刺激に悲鳴のような啼き声を上げて八戒は意識を手放した。


 泥のように眠る八戒の頬に唇を寄せて、三蔵は涙の跡を舐めた。明日は目が腫上がるくらいに泣いていた。三蔵の胸に額をつけて八戒は寝ている。髪を撫でて腕の中に収めてやれば穏やかな規則正しい寝息が肌に触れる。夢など見なければいいと三蔵は八戒を抱き締めて、やがてやってきた睡魔に目を閉じた。



 雨の日の三蔵は優しい
抱き合った後の髪を撫でる仕草も、触れるだけの口付けも、抱き寄せる腕の中も
悪夢から守るように抱き締める腕の中がどれだけ温かく優しいか
眠りの淵に落ちながらも八戒は、夢心地の中で知っていた





 その後、悟浄に冷やかされながら三蔵が八戒に手渡したのは、就職祝いのネクタイだった。



end
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2005/09/08