暗闇の中、月華を浴びた白い肌は匂い立つような光を放った。
寒さのために固くなっていた胸の飾りを弄び、八戒自身へと手を伸ばせばゆるく形を変えていた。指先で形をなぞるように撫でるだけで、八戒は甘い吐息を洩らして俯く。晒された項から背中のラインは艶めかしく、三蔵は舌と唇とで触れていき、反応の良いところは強く吸い上げ朱印を刻んでいく。日の光りの下では肌は白く透けて、熱によりほんのりと赤味をさしていき、翠の瞳が溶けて、涙も傷痕も、欲望も、受け入れる処も全て晒され、羞恥を快感に変えていく様が見られるのだが、夜には、特に月下の八戒には独特の艶がある。翠の瞳は深みを増して、どこまでも沈んでいきそうな暗い影と同時に、澄んだ光を映し出す。快楽に浸り、貪り、享楽する姿は妖艶で、その姿はひどく美しい。
 「あっ……」
 自身の先を掻かれて八戒は、耐えられないというように頭を振る。手の中の欲望は脈打ち、先走りの滴が零れ落ちて指先を濡らし、唇で触れる肌は熱を持っている。もう寒さは感じないだろう。野外で抱いている開放感からか、羞恥のためか八戒は、躯のラインを撫で上げるだけでもひどく感じているようで声を上げる。吐く息も荒く早くなり、高まる熱を持て余すように躯で呼吸し始めた。そしてゆうるりと首を捻ると、三蔵を見つめる。
 「月は見なくていいのか?」
 揶揄するように呟きながら頬を舐めてやると、舌をのぞかせて八戒は唇を開いた。
 「貴方、が…いるから」
 自分だけを映す翠の瞳。三蔵が舌を差し入れてやると、貪欲に求めてくる。応えて長く深く口付けを交わすと、八戒の身体が揺らめき出す。唇が離れて三蔵がジーンズに手を掛けると、八戒も腰を浮かせて足を抜き、月明かりの下、肌を全て晒した。冷気に晒されて、もしくは自身の高まりのせいか八戒は肌を震わせる。キスが好きな八戒のために対面にしようと腰を抱いた手の上に、八戒の手が重なる。
 「貴方の服が…汚れます、から…」
 「それならお前が月に見せてやれ」
 三蔵は膝裏を掴むと八戒の両足を大きく開かせながら曲げてやり、手を伸ばして傷痕を撫でてやる。と八戒の肌が羞恥に染まり艶が増す。
 「…ん…三ぞう…」
 「寒いんだろう。お前も手伝えば早く終わる」
 そう言って三蔵は八戒の手を取ると、自分の口へと入れて指を咥えさせる。
 「しっかり舐めろよ。お前はキスが好きだろう?」
 耳を甘噛みしながら囁くと、八戒は目を閉じてしゃぶり始める。三蔵はそのまま耳の中に舌を入れて嬲りながら八戒の片足を折り曲げて抱き込み、もう片方の手で八戒自身を扱き始めた。八戒は強く感じるたびに小さく跳ね、三蔵の手によって育てあげられる。唇の端から滴が落ちて、三蔵が舌で舐めとり指が先端を引っ掻くと、八戒は堪らず達してしまった。
 「…ぁ……うっ…ぅ…」
 自分の指を咥えたままくぐもった呻き声を上げて、八戒は四肢を突っ張り躯を震わせる。迸りを受けとめた手を八戒の手に重ねて口から外してやると、八戒は肩口に頭を乗せてぐったりと弛緩した。
天を仰ぐ八戒の瞳は空ろでぼんやりと月を見ている。熱い息を吐き出す唇に誘われて、三蔵は口付けた。舌で撫でてやれば八戒もそろそろと応えて絡めてくる。キスに没頭し始めた八戒の手を取ると、重ねたまま自分の蕾へと触れさせる。と躯がまた小さく跳ねる。
 「…は…ぁ…さ、ん…ぞ…」
 「手伝えと言っただろう。お前がどんな風に欲しがるか見せてやれ。全部な」
 そう言って三蔵は八戒の足を胸に付くほどに曲げ上げて、息づくように待ち侘びている蕾を月明かりに晒す。そして重ねた2人分の指でゆっくりと縁をなぞり、自分の唾液で濡れた八戒の指だけを入れる。
 「ぁ…ん……や…」
 「どこが良いか判るだろう?」
 三蔵が甘噛みしながら耳を舌で犯すと、八戒は目を閉じて自分の指を根元まで入れて動かし始める。三蔵が手を重ねたまま、ひくつく蕾の周りを撫で続けると八戒は自ら指を増やして挿入していく。目を閉じて唇を舐めて自らを犯す八戒は淫猥で嗜虐をそそる。三蔵は空いた手で胸の飾りに刺激を与えてやると、躯が大きく跳ねた。
 「あっ…ぁ…ん……ぞ…」
 「どうだ、解れたか?」
 そう言って三蔵も、八戒の迸りを纏わせた指を蕾へと挿入した。
 「ああ……ぁ…や…ん…」
 更に広げられる感覚に八戒の嬌声が上がるが、三蔵は構わず奥まで入れていく。中はひどく熱く三蔵の指を締め付けてくる。既にあった八戒の指を押しのけるようにして、感じる処を掻いてやると八戒の躯がびくびくと跳ねる。そのまま刺激を与え続けると、もっと欲しがるように腰をくねらせた。八戒の唇は閉じる事も適わなくなり、熱い息と共に時折嬌声を吐き出し、端から滴をしたたらせる。その姿に煽られて更に指を一緒に動かし、舌先だけ入れると唇を合わせてくる。喘ぎ声も舌で絡めて吸い上げてやると、八戒の空いた手が動き、三蔵の腰紐を片手で器用に解いて、ジーンズのボタンへと指が動いた。1つづつ外していくのを好きにさせてやりながら、三蔵は唇の端を上げる。
 「もう我慢出来ないか?」
 「んぅ…もっ…と……奥…」
 「奥まで、何だ?」
 「……欲し……ぃ」
 熱に浮かされ欲に塗れた翠の瞳はうっすらと泪の膜を張り、自分だけを映している。惹かれずにはいられない美しい瞳にキスをすると、八戒は腰をずらして三蔵の固くなったものを取り出し、後ろ手で愛撫し始めた。八戒の姿と手管によって、すぐに先走りの滴が落ち始めると三蔵も我慢出来なくなり、八戒の指もろとも引き抜く。そして膝裏に手を当て大きく足を開かせ持ち上げると、八戒の指は待ち侘びるように三蔵のものを撫で上げる。
 「ひっ……」
 いきなり八戒の躯を落として突き上げると、奥まで達して八戒は躯を強張らせる。しかし三蔵は休む事なく突き上げを繰り返し、八戒は強すぎる刺激で悲鳴に近い声を上げる。が、やがて三蔵の動きに合わせて腰を使い始め、自分で探った快楽の場所へと当てていく。自分の体重で奥まで貫かれ、八戒は痛みにも似た快楽を否定するように首を振り、中の三蔵を締め付け躯をしならせる。唇からは絶え間なく喘ぎ声が漏れ、三蔵が躯を落とす度に高い声で啼く。八戒の中は熱く、突き上げれば奥まで誘うように蠢き、躯を引き上げれば離れるのを嫌がるように締め付けてくる。普段は見せない欲と執着を見せつけられて、三蔵も煽られ快楽が高まってくる。見れば八戒のものも再び起ち上がり、天を仰いで滴を零している。そして目を閉じて三蔵の突き上げによがり、繰り返し何度も名前を呼んでいる。ふと、閉じていた瞼が開いて目が合う。泪が一筋落ちて、月明かりがさし、これ以上ないくらい透明な翠は、ただ自分だけを欲していた。
 「あぁっ…さ…んぞ……も…ぅ…」
 三蔵もこれ以上猛りを押さえられず、八戒をぎりぎりまで引き上げ落とすと同時に激しく最奥を突き上げる。と八戒は月に向かって悲鳴のような甘い啼き声を上げて達した。きつい締め付けに三蔵も八戒の中に迸りを放った。
 2人は繋がったまま暫らく荒い息を吐き出していたが、やがて三蔵が袖を抜いて裸体の八戒を法衣で包み、抱き締める。と三蔵の匂いと体温に安心したように八戒は、されるがまま躯を預ける。しかし俯いたきり何も言わない。長い沈黙を破ったのは珍しくも三蔵の方だった。
 「見なくていいのか?」
 「……どんな顔して見ればいいんですか?」
 怒っている、というより拗ねた口調で八戒は答え、顔を上げずに腕の中に収まっている。
 「もしかして照れてるのか?」
 「貴方って人は……面と向かってそんな事訊きますか?普通」
 あまりにもしれっと言われて八戒は頬を染めて振り返る。とその拍子に、まだ中に収めたままの三蔵のものを軽く締め付けてしまう。
 「何だ、誘ってんのか」
 「知りません」
 揶揄する口調に八戒は向きを変えて三蔵自身を抜くと、肩に顔を押し付けるようにして抱きついた。落ちた法衣を肩に掛け直してやりながら三蔵は、久し振りの行為を八戒も望んでいたのが判った。お互い肩に頭を乗せて抱き締めあい、温もりと鼓動を伝え合う。

 今夜に限って自ら触れてくる理由は判らない
 だから抱き締めてやる
 たとえ一時でも不安が消えればいいと思いながら
 忘れる事など出来なくても、こうして傍にいればいいと思いながら

 「八戒」
 耳元に囁けば、八戒の躯は小さく震えて強い鼓動を刻む。そして怯えるように腕を首へと絡めて、子供のようにしがみついてきた。胸の内、奥のほうから想いが溢れてきて八戒の躯を深く抱き締める。誰にも代われない存在を確かめる。この温もりを失いたくないと思う。
 すると八戒が項に唇で触れ、強く吸い上げてきた。三蔵は唇の端を上げると、同じ場所に朱印を刻み、更に軽く歯を立てる。顔を上げてキスするために躯が離れると、背後に月を従えた八戒は影を伴い、人ならざる気を湛え、扇情的な笑みを浮かべた。官能の瞳に思わず喉が鳴る。髪に差し入れられた手を捕らえて口付ければ、八戒はもう片方の手をタンクトップの下に忍ばせてきた。それを手伝って脱ぎ落とせば八戒は安心したように身を寄せてくる。
 「もう月見は終いか?」
 「星空も良いものですよ」
 唇が触れ合う寸前で囁けば、八戒が微笑み返してくる。
2人は再び求め合い行為に夢中になっていく。その頭上にあった月は照れたようにいつの間にか姿を消していて、代わりに星が瞬いていた。


 「あ、また流れましたね」
 森の中の帰り道、八戒の声に三蔵も夜空を仰ぐとそこには無数の星が輝いていた。暫らく見ていると、光がすぅっと線を引いてあっという間に消えていった。
 「月はこれを教えてくれたのかもしれませんね」
 「流れ星をか?」
 「流星群ですよ。これだけたくさんあったら、1つくらい叶えてくれるかもしれませんね」
 空を見上げたまま歩き出した八戒は、木の葉に隠れていた突起に躓いてよろけてしまう。と三蔵の手が伸びた。
 「ったく、歩くか願うかどっちかにしろ」
 「…はい。じゃあ帰りましょう」
 手首を掴まれて、八戒は嬉しそうに微笑み歩き出す。三蔵は片手で煙草を取り出し無言で歩き出す。星影の下に紫煙は伸びて、繋がった手は帰り着くまで離れなかった。



 この恋は行方も知れず果ても無い


fin.

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2006/02/02