「何だこれは?」 「食後のコーヒーです」 いつもより随分と小さなカップに三蔵は新聞を畳みつつ片眉を上げる。しかし八戒はにこにこといつもの笑みを浮かべて、自分用のやはり小さなカップをテーブルの上に置いた。 「どうぞ」 「…………」 微笑みの圧迫感に耐え切れず三蔵は、その小さなカップを持ちにくそうに手に取るとそっと口をつける。 「いかがですか?」 「………濃いな」 「美味しくありませんか?ではこれをどうぞ」 待ってましたと言わんばかりに八戒は小さな白い皿を出した。そこにはこげ茶色と白い粉のかかったチョコレートが乗っている。どうやらミルクと砂糖は出してもらえないと踏んだ三蔵は、こげ茶色したチョコを1つ摘んで口の中に入れた。少しごつごつとした表面からは想像出来なかったが、噛めば柔らかく溶けてブランデーの味と香りが広がる。そこでもう一度コーヒーを飲むと、苦味と甘さが程よいバランスで舌の上を通っていった。 「いかがですか?」 自分も一口飲んで、八戒はたおやかな笑みを浮かべる。 「悪くない、な」 「良かったです」 三蔵にしてみれば最大の賛辞を八戒は正しく受け止めて、更に笑みを深める。 「お前は食べないのか?」 「えぇ、今日は三蔵に食べてもらいたいんです」 「?」 三蔵は訝しげに眉を動かしたが、結局何も言わずにもう1つのチョコに手を伸ばした。八戒はそれを嬉しそうに見つめて又微笑む。 Today is St.Valentine’s day |
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2006/03/08