2003/05/18/NHK

― テレビ体操 ―

 5月18日 日曜日の朝、大佐は朝早く目覚めていた。
梅雨入り宣言はされていないものの、五月晴れとは程遠いここ数日の天気。
この日もそんな寒い朝で、起きたは良いがなかなかすっきりとは目覚めない。
大佐はふらふらと起き上がるとTVをつけた。すると画面では都合よくストレッチを行っていた。

 「これは良い!流石は教育テレビだ」

 普段から教育テレビをよく活用している大佐は、レオタードのお姉さん達を見ながらストレッチを始めた。
最初は安易な首の部分、続いてそれなりに負荷のかかる全身を使うようなストレッチ。


 「足は結構効くなぁ」

 下半身が痩せる事を祈りつつ真面目にこなす大佐。
やがてストレッチは終了し、かつては体操のお兄さんが現れコメントする。



 「さぁ、体が温まり充分にほぐれましたか?」


 「いつもありがとう教育テレビ。充分にほぐれたよ。さて体も目覚めた事だしそろそろ原稿を…」


 大佐がそう思いTVのスイッチに手を伸ばそうとしたその時だった。
聞き慣れたピアノの音楽が流れてくる。


 「さて、充分にほぐれたところでラジオ体操第一です!」

 !!


 今までのストレッチは、ラジオ体操第一を行うための前準備だった事に気付いた大佐。
しかし時は既に遅かった。
幼少の頃から学校教育で徹底的にしこまれたパブロフの犬よろしく、この音楽には逆らえない。



 「ハイ!ここは弾みを付けて柔らかく」
 「ここは体を捻って大きく!」

 などとかつては体操のお兄さんのアドバイスに従うまま、マリオネットのようにラジオ体操第一を
遂行してしまう大佐。
 
 そして音楽終了と共に


 「では日曜日を元気にお過ごしください」

 の言葉とは裏腹に、大佐は頭から汗をかいて今日1日の体力を使い果たしたようにぐったりとしてしまった。


 

 翌日 ―
 
当然の如く大佐は筋肉痛となり
 
 「翌日の筋肉痛は大丈夫!まだまだイケる!!」

 という強がりな言葉とは別に腰痛と膝痛で顔をしかめていると、小人赤中佐からメールが

 「もう若くないんだから…」


 駄目押しだった…
 


― サンデースポーツ ―

 
 大佐がサンデースポーツを見ていると「スポーツ塾」(←だったと思う)というコーナーになった。

 「ふーん、こんなコーナー作ったんだ。メジャーをより良く理解してもらい楽しもうって事か…」

 と大佐が思っていると、今日のお題が出た。

 『松井のセカンドゴロは不調のバロメーター』


 大島塾長によると、松井は「メジャーではヒットを打てるバッティングを心がける」とコメントしたが
彼は日本ではホームランバッターだった。
つまり体に残るホームランを打つためのフォームから、ヒットを狙うバッティングをしてもセカンドゴロに
なるケースが多い。という解説だった。

 成る程と大佐が思っていると、「NHKアナウンサー像」を変える男として奮闘中の堀尾キャスターが
力のこもった声で質問した。


 「先生!では心と体とどっちに合わせたら良いんですか?」


 この言葉に大佐は、もんどり打ってソファから転げ落ちて大爆笑した。
 しかし流石は大島塾長である。彼は毅然として答えた。

 「体ですメジャーでもホームランを狙っていって欲しいです!」


 「そうか…

 違うところで妙に納得した大佐だった。

 
 大学在学中に劇団文学座研究生や俳優座映画放送部に所属したキャスターは違うな、
と思いつつ『週刊こどもニュース』のお父さん事池上彰さんにはまだまだ、と思ってしまう大佐だった。
(首都圏ニュースキャスターをしていた頃からこっそりファン)
 
2003/08/末日/夏休みの宿題U

〜 Y家とSENJU 〜

 「ねぇ、SENJUさん。確か電子辞書持ってたよね?」


 夏休みも終わりが近付いた頃、Yさんから斜め45度のおねだり角度と視線で見上げられる。



 「うん、持ってるよ。どうしたの?」
 「実は上の子が高校合格した時、『買ってあげる』て言ってた電子辞書まだ買ってなくて、
『誰か持ってるなら借りてきて』って言われて…」 


 今年無事希望の高校に入学した上の息子さんは、どうやら中学時使用辞書のままらしい。
それはさぞかし困るだろう。



 「うん、いいよ。貸したげるよ」


 どこでも原稿が出来るようになった、この便利な電子辞書をSENJUは大抵携帯している。
困った時はお互い様だ。当然快諾する。


 「今持ってるから、ちょっと待ってて」


 すぐにロッカールームに行きバッグから辞書を取り出し、いざ貸しに戻ろうとしたその動きが止まる。
それはヒストリーボタンの存在だった。
これは引いた単語をある程度記憶しておく機能で、『さっきの何だっけ?』と思った時、
もう一度引く手間を省く便利なボタンである。
 SENJUは電源を入れると、ヒストリーボタンを押した。



 「ヤバイ(滝汗)」



 それまでは騎士の肖像〜第二章〜を執筆していたのだが、〆切り期日が迫ってきたため
(息子さん達と同じ〆切り日)R指定の企画参加作品を書いている真っ最中だったのだ!
 テニプリに嵌っていれば活きネタ満載の現在高一(当然未成年)のテニス少年に、

この腐女子単語羅列オンパレードは相当にヤバかった(冷汗)
 話によると英和しか使わないようではあるが、何かの拍子に広辞苑を使わないとも限らない。
しかも今ある、と明言してしまったではないか!



 「ああ!せめて騎士〜の執筆中だったらよかったのに!」


 と心の中で叫びながら適当な単語を幾つか打ってみるが、優秀な電子辞書はそんな短時間では
消えないメモリーを保有している事が判明(号泣)
 SENJUは自分のうっかり八兵衛さを呪いつつ、電源をoffり電子辞書を畳む。



 「今更ちょっと待ってとも言えないし、このままでは絶対に貸せない!!
一体どうしたら……」



 絶望的な気持ちで電子辞書を見つめるSENJU。その時一条の光が差し込んだ。
その瞳に燦然と輝く魔法のリセットボタンが映ったのだ!
SENJUは突如として起死回生の光に包まれる。
そして笑顔のまま、シャーペンの先でその素晴らしいボタンを押した。



 「ポチッとな」



 するとデンジャーな単語達は魔法のように一瞬にして消え去り、そこにはウブな姿に戻った電子辞書の姿があった。


 「はい!Yさん」
 「どうもありがとーvvv」


 こうして危機を脱したSENJUは白日の下、晴れやかな笑顔で電子辞書を貸す事に成功した。
 
 後に夕張メロンキャラメルをお礼にいただき、それを食べながら
トップシークレットが暴かれなかった事に安堵するSENJUの姿があった。

 因みに返ってきた電子辞書のヒストリーボタンを押してみると、本当に英和しか使用していず、

更になんとも真っ当な単語の並びを見て『大人ってこういう事だな』と呟いてみた。


つづく