F−29 リプレイ 「ある日の蒼い空」


 その日も、空は青く晴れていた。雲が青い空を流れていく……。
 高度10000mの空は愚かな人間の戦いなど知らぬがごとく、静かであった。私は青空の美しさに目を奪われていた。が、それが一瞬の隙となった。真正面を敵機がすり抜けたのだ。おそらく、アクティヴ・レーダーを殺していたに違いない。私の全周警戒レーダーには、何も写っていなかったのだから。次の瞬間ミサイル警告灯が点り、機内は警告音で満たされた。呆然としている時間は、私には与えられなかったのだ。しかし、身体は反射的に対応行動を取っていた。私は即座にチャフ・フレアの射出スイッチを押し、操縦桿を倒すとズーム上昇に移ったのだ。
 いた!敵は私の真正面にいた。ロック・オン、ファイア!だが、私の方が一瞬遅れた。敵はチャフ・フレアを散布すると、ハイGヨーヨーでミサイル回避に移っていたのだ。次の瞬間、震動が機体を揺るがした。火災警告灯が点る。私は機体を反転させると、敵機を探した。HUDの表示が死んでいるにもかかわらず、私はファイア・レリーズを立て続けに押し続けた。だが、電子兵装が死んだ私の愛機が、ミサイルを誘導することは不可能だった。敵は易々とこれを回避していた。さらに攻撃を続行しようとしたとき、警告音が一段と高くなった。アーマメント・コントロールの警告灯が点る。まだだ!私は次第に動きの鈍くなっていく愛機を必死に操り、敵機に進路を向けた。残された手段は体当たりしかない。しかし、ここまでが限界だった。すべてのディスプレイがブラック・アウトしたのだ。合成音声が脱出勧告を行う中、機体は加速力を喪い、急降下して行った。目の前が強烈なGで真っ暗になる。薄れていく意識の中で私が最後にみたものは、美しい青い空ではなく、迫り来るアリゾナの茶色い大地だった……。


「チッ、だが、まだまだだな……」

 そう、まだ終わったわけではない。私の持ち機は、あと3機。対するに、奴の機体はあと1機だけだ。オッズは3:1で、確実に私が勝っている。



 空はよく晴れていた。滑走路が照りつける太陽で熱せられ、陽炎が立ち昇っている。もっとも、雲の上はいつも快晴なのだが……しかし、雲の上に駆け昇る前にやることがある。私は愛機のコクピットで目覚めると、電子兵装のスイッチを入れた。兵装パネルをモード1、長距離対空戦闘に切り替える。全システム正常。レーダー・レンジを全周警戒から、前方集中監視モードへ。それから、機体のギア・ブレーキを解除。そこまで終わって、私は初めてイグニッションに手を触れた。メイン・エンジンに点火する。エンジン・ランプに火が点ると同時に、機体はゆっくりと加速しはじめた。A/Bには点火しない。急加速での離陸は、機体のギアに損傷を与える可能性が高いからだ。私が、これから駆け昇る大空に思いを馳せたとき、メイン・パネルの1つのランプに火が点った。
『被ロックオンされています』

 人工音声が無情にそれを告げた瞬間、ミサイル警告灯が点る間もあらばこそ、上空から放たれたAMRAAMが私の機体を粉々に打ち砕いた……。


「……ぉぃ」
  私は、嫌な予感がした。そして、次の瞬間、それは現実のものとなった。


 私が愛機のコクピットで目覚めたとき、そこは、すさまじい警告音で満たされていた。次の瞬間、私は何が自分の身に起こったのか、理解する間もなく、地獄の業火の中で第7の門をくぐっていた。私の愛機が空に浮かぶことは、ついになかったのだ。


「……ぉぃ」

 まさか。奴にもプライドがあるはずだ。まさか……。



 私は警告音で満たされたコクピットで目覚めると同時にギア・ブレーキを解除すると、MAX・A/Bスイッチをオンにした。ギアが損傷する、どうこう言っている場合ではないのだ。しかし、私の身体がすさまじい加速Gでシートにたたきつけられる間もあらばこそ、滑走路の前方で爆発が起こり、私の愛機が爆炎の中に突っ込んだ瞬間、第2弾が私の愛機を貫いていた。私の機体はそのままもんどりうって主翼をもがれながらも宙に浮かび上がろうとした……が、次の瞬間エンジンが轟音と共に爆発し、機体は粉々に砕け散っていった……。



 その日も、空は青く晴れていた。



P.S

 この物語は(たぶん)フィクションです。

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