6.寅さんの故郷「葛飾柴又」

"花の咲く頃になると、決まって思い出すのは故郷の事・・・"

門前町「柴又」──
寅さんの故郷「葛飾柴又」はご存知の通り東京都葛飾区柴又である。映画の設定ではここが寅さんの 生まれ故郷という事になっている。柴又は江戸川に ほど近い下町の門前町で、最寄りの駅は京成金町線の柴又駅である。 上野方面から行く場合は京成上野駅から京成線に乗り、9つ目の高砂駅で京成金町線に乗り換えてそこから 2つ目の駅である。 柴又駅はちょっと変わっており、上野方面からの電車を下車して改札を出る場合は 線路を歩いて横断しなければならない。要するに連絡橋が ないのである。ここから既に柴又らしくていい雰囲気である。

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東京のオアシス──
映画の舞台となっている帝釈天参道は実際にだんご屋などが建ち並び、こちらは柴又駅から歩いて2、3分のところに ある。柴又駅の改札を出て右側の道を左に曲がって歩いて行くとすぐに帝釈天参道の入り口となる。 「帝釈天参道」の大きな看板が目印である。私の場合はこの参道 に入ると気持ちがほっとし、まるで自分の家に帰ってきた様な気分になる。大変風情のある門前町であり、東京の オアシスと呼べるのではないだろうか。

有名な柴又帝釈天(正式名称「経栄山題経寺」)は その参道をまっすぐ行った突き当たりにある。私は時々ここに足を運び、参道を2、3度往復してから 帝釈天でお参りをする事にしている。帝釈天境内にはおみくじがあるが、ここのおみくじは「凶」の出る確率が非常 に高い。帝釈天の方の話によるとわざと「凶」を多くしているとの事である。つまり、ここで引いた「吉」は 真実味が大変大きいという事らしい。これは実に良いポリシーであり、こういう発想は大好きである。 幸いな事に私はこの数年「凶」は引いていない。これはまめに帝釈様をお参りしているからかもしれない。 近くの江戸川には有名な「矢切の渡し」があり、今でも渡し船で反対岸まで渡る事ができる。

帝釈天参道にはだんご屋をはじめ、民芸品のみやげ屋さん、うなぎ屋さん、煎餅屋さんなどのお店が並んでいる。 だんご屋には「高木屋」さんやその他何軒かのお店がある。 「高木屋」さんは映画の柴又ロケで積極的に協力をし、お店のニ階を俳優さん達の着替えやスタッフの休憩所として 貸してくれたり、奥さんが手料理を振る舞ってくれるなどスタッフにとって柴又ロケにはなくてはならない撮影本部 だったそうである。

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寅さんとだんご屋──
映画の中では寅さんの家は帝釈天参道の一角でだんご屋を営んでいる。叔父の竜造が主人であるが、本来であれば寅さんがこの 店の主人として後を継がなければならない立場である。しかしながら寅さんの性格上そのような商売には向いておらず、 本人も全く後を継ぐ気はないらしい。度々おいちゃんやおばちゃん、妹の櫻からも店の後継ぎ問題について 指摘されるが、これを言われてしまうと寅さんとしては立つ瀬がなく、頭にくるか落ち込むか、いずれにせよ 旅に出る展開となる。寅さんにとってはこれが最も辛い事なのであろう。

このだんご屋の店の名前についてであるが、映画の設定では第1作から39作まで「とらや」となっている。 しかし40作目から突然「くるまや(くるま菓子舗)」に変更されている。名前の変更理由ついては 寅さんの旅/「男はつらいよ」ロケハン覚え書き(日本経済新聞社出版) という本に記されているのでそちらをご覧いただきたい。店の名前に限らず、この本には寅マニアが泣いて喜ぶような内容が 撮影秘話として書かれているので、是非とも読んで欲しい。

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たとえ「朝日印刷工場」がなくとも──
参道の街並みは他の門前町と同様、時代の波に揉まれて変化している。例えば参道らしくないお洒落な街灯が建てられたり、 いつの間にか道に敷石が敷かれているといった具合である。しかし町の雰囲気がどう変わろうとも、たとえタコ社長の 「朝日印刷」が実在しなくとも、そこに寅次郎や「とらや」の面々がいた事だけは私達の記憶から消える事はない。

心のふるさと柴又よ、いつか寅次郎が帰る日まで・・・。



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