「男はつらいよ」独尊論/第2作「続・男はつらいよ」
第2作の名ゼリフ | 前の独尊論へ | 次の独尊論へ

作品データ
監督/助監督山田洋次/大嶺俊順
脚本山田洋次、小林俊一、宮崎晃
ロケ地京都
公開日1969年(昭和44年)11月15日
上映時間93分
動員数48万9000人
配収1億1000万円
主な世相プロ野球「黒い霧」事件
キャスト
マドンナ佐藤オリエ(坪内散歩の娘/夏子)
主な出演 ・ミヤコ蝶々(寅次郎の実母)
・東野英治郎(坪内散歩先生)
・山崎 務(市民病院の医師藤村)


寅次郎を巡る主な出来事

・ 寅次郎が20数年ぶりに中学時代の英語の先生坪内散歩に再会する。
・ 坪内先生の家でうまい物を食べて胃ケイレンを起こし、市民病院に入院する。
・ 38年ぶりに実母のお菊と京都で再会する。
・ 坪内先生の娘夏子への恋愛に失敗し、また旅に出る。
・ 舎弟の登が堅気となる。

◇ ◇ ◇

ストーリー

とらやに帰ってきた寅次郎だが、まだ旅の途中だからすぐに出て行くと言う。 引き止めるさくら達を振り切り、寅次郎はみんなに顔だけ見せてすぐに出て行ってしまった。 柴又をぶらりと歩いている寅次郎の耳に子供達の歌声が聞こえてきた。思い出した様に歌声のする 家を覗いてみると、中学校時代の懐かしい恩師、坪内散歩先生(東野英次郎)が目に入った。懐かしさのあまり 思わず坪内先生に声を掛ける寅次郎。子供の頃寅次郎によくいじめられた坪内先生の娘・夏子(佐藤オリエ)も 寅次郎を暖かく迎えてくれ、先生の家でいっしょに夕食をする事となった。 ところが普段からあまり良い物を食べつけていない寅次郎は、久しぶりにおいしい料理を食べた せいで胃ケイレンを起こし、市民病院に入院する羽目になってしまった。入院先の病院では、 同室の患者相手に得意の啖呵売を披露するなどハチャメチャな入院生活ぶりとなり、挙句の果て には病院を抜け出して舎弟の登と二人で焼肉を食べに行く始末。担当医の藤村医師(山崎務)は カンカンになって怒り、入院する時に付き添ってくれた夏子が寅次郎の代わりに怒られてしまった。 その頃、焼肉屋でたらふく焼肉を食べた寅次郎と登は二人共お金を持っていない事に気がついたが、 時すでに遅し。店主に110番され無銭飲食の罪で警察に御用の身となったのである。さくらが身元 引き受け人として警察まで行ったが、店主を小突いた罪で寅次郎は一晩ブタ箱に泊まる事になって しまった。さすがの寅次郎もこれには反省し、坪内先生に詫びを入れてその足で旅に出てしまった。

一ヵ月後、坪内先生と娘の夏子が京都に旅行に出かけた時に、京都でバイをしている寅次郎に ばったり会った。この時点で既に寅次郎は夏子に気がある様な気配である。坪内先生に 「なぜ職に就かずにこんな所にいるのか」と聞かれ、「京都には実母がいますので」と答える 寅次郎。「ならばすぐに会いに行け」という事で、寅次郎は夏子といっしょに実母が働いている グランドホテルを探しに行く事になった。 ようやくホテルを見つけ出したものの、そのホテルは「グランドホテル」とは名ばかりの単なる連れ込み宿 だった。しかも寅次郎の実母はそのホテルで働いているのではなく、グランドホテルの経営者 だったのである。38年ぶりに実母のお菊(ミヤコ蝶々)と再会した寅次郎だが、関西弁のお菊に 「金なら無い」などと頭から言われてしまい、優しい母親をイメージしていた寅次郎は愕然とした。 さらにお菊の言葉で寅次郎の怒りが爆発し、その場で親子の大喧嘩が始まった。

坪内先生達といっしょに柴又に帰ってきた寅次郎は、しばらくの間ハンカチを顔に当てる などしてショックを隠し切れない様子だった。気を取り直した頃、寅次郎は坪内先生に呼び 出された。先生の家まで行ってみると、「江戸川で釣ったうなぎがどうしても食べたい」などと 先生に言われ、釣れる訳がないと怒りだす寅次郎。しかし先生の頼みを断る訳にはいかず、 源公を連れて江戸川でうなぎを釣る事となった。 釣りの最中にタコ社長にチャチャを入れられながらも粘ってはみたが、やはりうなぎは釣れ ない。夏子の案で店で買ったうなぎを持って帰ろうという事になり、急いで帰り支度 をしようとしてるところに遂に一匹のうなぎが引っ掛かってきたのである。うなぎを竿にぶら下げた まま大喜びで先生のところに帰る三人。しかし家に帰ってみると、無情にも坪内先生は椅子に腰掛けた ままの姿で亡くなっていたのである。悲しみを堪えて先生の葬式に奮闘努力する寅次郎。万全の段取りで 葬式を運び、娘の夏子を助けたのであった。

葬式の途中で夏子の姿が見えなくなり、夏子を探す寅次郎。物置の部屋のドアを開けたとたん、目に入って きたのは市民病院の藤村医師の胸の中で泣いている夏子の姿であった。夏子は寅次郎が市民病院に入院した 時に知り合った藤村医師と交際していたのである。ずっと涙を堪えていた夏子だが、葬式に来てくれた藤村を 見たとたん、思わず藤村の胸で泣いてしまったのである。その姿をもろに見てしまった哀れな寅次郎。 とらやに帰った後、妹さくらにだけは自分の胸の内を見せて男泣きしてしまう寅次郎であった。 その後夏子はめでたく藤村医師と結婚し、新婚旅行で京都に行った。そして夏子が京都で目にした 光景は、寅次郎が母親のお菊と楽しそうに歩いている姿であった。

◇ ◇ ◇

見所と独尊的論評

第2作は寅次郎の涙を多く見る作品である。最初の涙は寅次郎が実母のお菊と再会した時である。寅次郎はお菊が葛飾で女中をしていた 頃に父である平造が産ませた子供で、本妻とは腹違いの子供である。お菊は寅次郎を産んでから姿をくらまし、その後寅次郎は平造の 本妻(櫻の母親)に育てられている。寅次郎はいつも父親から「お前は酔っ払って作った子供だから馬鹿なんだ」(第1作)と 罵られ、決して幸せな家庭環境で育った訳ではなかったようだ。

お菊は目の前にいる男が38年前に自分が産んだ息子・寅次郎だと分かると、ほんの一瞬だが母親の優しい表情を見せた。そして、 「お前、寅・・」と言いかけるがすぐに我に返り、商売人のお菊に戻るのである。再会した親子が涙ぐましい雰囲気になりそうな気配を 一瞬見せ、すぐにひっくり返して予想外の展開にする。これは山田洋次監督のお得意技かもしれない。だがこのシーンは単にそれだけではなく、 もっと深い意味が込められているように思う。 どんな事情があろうとも、自分が産んだ子供に対して母親としての愛情を注いでやれなかったお菊には、それが大きな罪である事は 痛いほどわかっている。母親として息子に優しくしてやりたい気持ちは山々であろうが、それは同時に自分への満足感や安らぎに繋がる。 お菊は罪を償う気持ちであえて寅次郎に対して冷たい態度をとったのではないだろうか。

ニ度目の涙は坪内散歩先生が亡くなった時である。この時は泣いて塞ぎ込んでいる寅次郎に御前様の渇が入った。 「一番悲しいのは娘の夏子の筈なのに夏子は全然泣いていない。お前は何をやっとる!」。この言葉で寅次郎は目覚め、 葬式に奮闘努力する事になる。勿論それは夏子への思いがあるからこそではあるが・・・。 三度目は夏子への思いが絶たれた時である。葬式の途中、薄暗い小部屋で藤村医師の胸で泣いている夏子を見た とたん、寅次郎の夏子への思いは絶たれる。次から次へと悲しい出来事が寅次郎の身の回りで起こり、 葬式の後で櫻を前にした寅次郎は男泣きしてしまう。このシーンでは寅次郎が妹の櫻に母性を 感じている事がわかる。誰も分かってくれなくても妹だけは泣きながら分かってくれる。 理屈抜きで理解してくれる人は寅次郎にとって櫻以外いないのである。

第2作も第1作と同様ストーリーの展開が多い作品である。坪内先生役の東野英次郎さんの説教シーンが何度か あり、演出は「水戸黄門」の場合と全く違うが説得力の威力は同じかもしれない。坪内先生が親身になって寅次郎の 事を考えてくれるあたりは「水戸黄門」の世直しと似ている気がする。

笑えるシーンは寅次郎が母親に冷たくされて柴又に帰ってくるあたりである。とらやの面々は寅次郎が母親に 冷たくされた事を連絡を受けて知っているので、博ができるだけ「母」とか「おかあさん」といった言葉は使わない様にとみんなに言う。そこへハンカチ を顔に当てたままの寅次郎が夏子に肩を支えられながらとらやに帰ってくる。たったそれだけの演出でも何故か笑えてしまう ところが「男はつらいよ」の魅力的なところである。 茶の間に座っても寅次郎はまだハンカチを顔に当てたまま何も話さない。誰かが気を遣って何か話すと、話題がいつの間にか 「母親」の事になってしまう。その度に寅次郎はハンカチを顔に強く押し当てる。考えてみれば凄くわざとらしい演出かもしれない。 しかしそこが喜劇の原点なのである。

第2作は「男はつらいよ」が悲劇を絶妙に織り交ぜた素晴らしい喜劇映画だという事を証明している作品だと言える。



さすらいの月虎/HOME

「男はつらいよ」独尊記に戻る
「男はつらいよ」全48作に戻る | 前の独尊論へ | 次の独尊論へ