憎めない狸 特集
01. 信楽の狸(滋賀県)
02. 高台寺の狸(京都府)
03. 浄願寺の禿狸(香川県)
04. 権九郎狸(高知県)

05. 彦一独楽(熊本県)
06. 多聞寺の招福狸(東京都)
07. 狸車(静岡県)
08. 文福茶釜(埼玉県)

01.信楽の狸(滋賀県)



狐と並んで狸は民間伝承に多く登場してくる動物である。昔から人を化かすと言われているが、狐と比べるとユーモラスで稚気に富んでいる。失敗してひどい目にあう話も狸のほうに多い。寺の和尚に化けていて犬にほえられて正体がばれたり、狐との化かし合いに負けたりする話は各地にある。また、「かちかち山」では、前半こそ狸はお婆さんを殺して婆汁をこしらえ、お爺さんに食べさせるという悪辣ぶりだが、後半では兎に何度も騙されて散々な目にあい、かえって聞き手(読者)の同情を引くほどである。バッチョ笠(番匠笠)をかぶり、大きな腹を突き出して、片手に一升徳利、片手に通い帳を持ったこの姿には、そんな憎めない人の良さ、ならぬ狸の良さが表れている。高さ14cm。(H21.10.18

02. 高台寺の狸(京都府)



かつて京都の高台寺門前ではこのような陶製の狸が売られ、盗難除けのまじないとされた。今では代わって信楽焼の狸がみやげもの屋に並んでいるが、信楽焼の狸もこの寺で作られたのが起こりである。バッチョ笠に徳利、通い帳のスタイルは同じだが、信楽焼に比べると、より獣(けもの)くさい姿をしている。なお、柳田國男はこの“狸の酒買い”が「竹の子笠を被った小さい子供が一人で道を歩いているので、追いついて振回って見ると顔には眼がたった一つ...」という“一目小僧”の話から着想され、「笠の下から尻尾がちらりと見える形が面白いので持て囃された」ものと類推している。左の狸の高さ15cmH21.10.18

03.浄願寺の禿狸(香川県)



狸の話の本場は、なんと言っても四国である。四国には狐が居ないので(なぜなら、弘法大師が悪さをする狐を退治したから)、他国で狐と言うところを狸の話になるのだそうだ。今回の主人公は、浄願寺(高松市)に棲む狸。近くの貧しい老夫婦に世話になったので、恩返しをしようと茶釜に化けたが、これを買った隠居が毎日磨いたり火にかけたりしたので禿狸になってしまい、我慢できずに泣いて逃げ帰ってくる。和尚が哀れんでお下がり餅を三つ与えて慰めると泣き止んだというお話。各地にある「ぶんぷく茶釜」型の動物報恩譚だが、茶釜に化けるのが狸なのは「ぶんぷく茶釜」と四国くらいで、全国的にみると狐が化けるほうが多いようだ。そして、狐の場合は茶釜から美女や馬などにつぎつぎに化けては売られていく話の展開に面白さがあるのに対し、狸の場合は化けるのは一回きりで、火にかけられて逃げ出す場面に面白さが集中している点、笑話としての性格がより強いものになっている。因みにこの禿狸、今では出世して境内の一角に白禿大明神として祀られている。写真はお下がり餅を抱えた白禿大明神の首振り張子。高さ15cm
H21.10.18)

04. 権九郎狸(高知県)



これも四国の名物狸である。その昔、潮江山(高知市)に棲んでいた狸で、次のような言い伝えがある。権九郎狸のお社に子のない女が願をかけて子を授かったのだが、実は狸の子。周りの人には狸の子に見えるが、夫婦には分からない。そうこうしているうちに子が死に、葬列が雨宿りしていた隙にお棺が盗まれてしまう。皆が潮江山に登ってみると、そこには新しい墓があって、権九郎狸が建てたのだろうということになった。そののち、雨が降るときには、墓へ登って行く狸の行列の提灯(葬連火)が見えるという。一方、権九郎狸は機知のあるイタズラ狸で、寝ている御殿女中の目に赤い紙を張って「火事だ」と叫び、その慌てぶりを見て喜んだという話も伝わっている。写真は権九郎狸の起き上がり。高さ16cmH21.10.18

05.彦一独楽(熊本県)



傘、頭、胴をとりはずして、尻尾を抜いて残りの下胴につけると、狸がたちまち4つの独楽に化けてしまう。彦一は熊本県八代地方に伝わる頓知(とんち)話の主人公。“天狗の隠れ蓑”などは良く知られているが、人を化かす狸さえもやり込めてしまう。ある朝、彦一が畑の見回りに行ってみると畑に石ころが一ぱい投げ込んである。狸のイタズラとにらんだ彦一は、「これは有難い。石肥3年といって3年は肥料をやらんでよい。馬糞はクソヤケといって畑がやける。馬糞でなくてよかった」と大声で言いながら帰った。その翌朝、今度は畑の石ころは全部無くなって、代わりに馬糞がいっぱい施してある。彦一は「困った、困った。せっかく石ころを入れてもらったのに」と、わざと困った様子をして帰って行ったとさ(彦一独楽の栞より)。高さ8.5cmH21.10.18

06.多聞寺の招福狸(東京都)



正月の隅田川七福神巡り船玩具03では毘沙門天(多聞天)の尊像が授与される多聞寺。ふだんは招福狸の貯金玉(高さ12cm)が授与されている。「荒れていた寺内を整地した時に住処を失った狸が、妖怪となって住職や付近の住民を悩ませた」という言い伝えがあり、境内には巨大な狸塚が築かれている。また、毘沙門天がインドの財宝の神でもあることから、福徳金運をかなえる狸の縁起物が生まれた。ほかに夫婦狸東京都10や狸土鈴東京都15もあって、まさに“狸の寺”である。(H21.10.28

07.狸車(静岡県)



“転がし物“は、浜松張子独特の玩具である。動物の両脇にボール紙製の車を取り付けたもので、軽く押すと体を振りながら、しかし姿勢は変わらないまま転がって行く。人形の底に錘(おもり)が付いているのがミソである。動物は長いあいだ犬と兎、それに狸の3種類であったが、新たに木型を起すなどして、現在では十二支のすべてが転がし物に作られている。高さ9cm。(H21.10.28

08.文福茶釜(埼玉県)



分福茶釜とも書く。“ぶんぷく”は、茶釜の湯が煮え立つ音という。また、群馬県館林の茂林寺に住む老僧が一昼夜汲めども尽きない茶釜を持っていたので、“万人に福を分かつ”という意味からこう呼ぶともいう。「狐女房」や「鶴の恩返し」と同じく動物報恩譚の一つだが、狸の化け方が面白いので、次第に笑い話になってしまった。茶釜に化けるのは、狸ではなくて狐のことも多い。青森県五所川原の「狐の恩返し」では、爺様の大切な豆を全部喰ってしまった狐が、代りに金儲けさせるといって馬に化ける。爺様はそれを高く売って儲けると、狐はすぐ逃げ帰って来て、今度は茶釜に化けてお寺の和尚に売りに行けという。お寺では小僧が茶釜をごしごし磨いたり火にかけたりしたので、さしもの狐も化け切れずに逃げ出すのは狸と同じである03。写真は春日部張子の文福茶釜。高さ10p。(H28.10.16)

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