北海道の玩具
01. 木彫り熊(白老町)
02. 木彫り人形(網走市・旭川市)
03. アイヌ人形(札幌市)
04. 北海道神宮の干支鈴(札幌市)
05. 十勝だるま(池田町)
06. いかのぼりと蝦夷凧(函館市)
01.木彫り熊(白老町)



日本列島の北端・北海道へ日本人が本格的に移住し始めたのは、原野の開拓とロシア南下への備えを目的に「北海道開拓使」が設置された明治2年以降である。北海道で日本の民俗玩具が育まれるには、いま少し時間が必要であろうか。一方、先住していたアイヌ族は、特有の様式による織物類、削りかけを施した祭神具、最も巧緻な線彫りをした工芸品を別にすれば、玩具の類を持たぬ民族であった(1)。全ては神(かむい)に関わりをもったもので、これらを“玩具”(おもちゃ)と呼ぶのははばかられる。このような北海道ではあるが、昨今は伝統にとらわれない独自の郷土玩具も生まれつつある。まず思い浮かぶのは木彫りの熊(羆)。大正13年、スイスの木彫り民芸を見本に農民の副業として製作されたのが始まりという(2)。紹介した鮭食い熊のほか、這い熊、立ち熊、坐り熊、鮭負い熊、吠え熊などいろいろある。道内各地で広く製作され、北海道を代表する民芸品として海外にまで輸出されている。さて、木彫り熊の顔はほとんどが左を向いているのは何故でしょう?高さ13cm。(H18.3.15)

02.木彫り人形(網走市・旭川市)



熊のほかにもアイヌの風俗などを題材に、さまざまな木彫りの人形が作られている。ニポポ(左)は“小さな木で出来た子(人形)”という意味で、いわばアイヌ版の“こけし”。狩や漁に出発するときにニポポに願を掛ければ獲物に恵まれる、と信じられている。また、捕れた獲物は料理する前に先ずニポポにお供えして感謝の意を表するのが慣習である。網走刑務所では50年前から授産のために受刑者がニポポを作っており、マスコットとして観光客に人気がある。旭川市の熊ボッコ(中)は新玩だが、エゾ松、トド松の木目を上手に生かして、愛らしい小熊の姿を表現している。それでも、栞に作者の曰く「やはり熊はおっかない(恐ろしい)存在です」。毎年数件ずつ熊による人身事故が発生する北海道ならではの実感だろう。トンチカムイ(右)は“穴の中の神様”という意味。小人で足が速く狩猟も巧みで、獲物が無くて困っているアイヌに兎を置いて去るという、とても親切な神様である。旭川市のほか、各地で作られている。ニポポの高さ12cm。(H18.3.15)

03. アイヌ人形(札幌市)



いわゆる風俗人形だが、厚司(あつし)織の衣装や装身具が比較的忠実に作られている。厚司織は、オヒョーダモやシナノキの内皮をはいで水に浸し、イタヤの木の汁で煮詰め、乾かしてから細く裂き、手と口で撚って糸にして手織りしたアイヌ特有の厚手の織物である。今では厚司といえば、商家の印半天や前垂れに広く使われている木綿製の布地を指すが、やはりアイヌの厚司織にヒントを得たものである。人形が身に纏った厚司織には、アイヌ模様の美しい刺繍がほどこされている。また、顔や手足は土で、鮭は木で出来ている。高さ22cm。(H18.3.15)

04. 北海道神宮の干支鈴(札幌市)



蝦夷地が北海道と名前を変えて以来、北海道の開拓・発展の守護神として札幌に鎮座しているのが北海道神宮である。ここからは毎年正月、干支に因んだ土鈴が授与されている。同じ干支でも、一巡りするとまた少し姿形が変ったものになるのが楽しみで、収集には切りが無い。長らく同じ作者の手になるらしく、変らぬ丁寧な作りと麻の鈴紐が好ましい。猿の高さ6.5cm(H18.3.18)

05. 十勝だるま(池田町)



十勝岳の火山弾として産する黒曜石は品質も良く、ペンダントや帯止めなどのアクセサリー、鳥や動物を象った工芸品などに加工されている。十勝だるまもその一つであるが、石で出来ただるまは全国的にも珍しい。左のだるまの高さ4cm(H18.3.18)

06. いかのぼりと蝦夷凧(函館市)



いかが名物の函館。とりたてのいかを刺身にし、生姜醤油で口にすすり込む。そのコリコリとした歯応えがまた堪らない。毎朝、函館市民は「いがー、いがー、いがはいらねがー」というイカ売りの声で目を覚ますのだそうだ。そのいかを象ったのが“いかのぼり”(左、縦110cm)である。いか(あるいは、いかのぼり)は凧の古名で、今でも凧をこう呼ぶ地方は宮城県、新潟県、大阪府、京都府、鳥取県、島根県、香川県など少なくない。凧をたこと呼びはじめたのは、時代が下って江戸の町民達だという(3)。いかの凧があれば、当然たこの凧もあって、新潟県の三条や佐渡にみられる。ただし、いかの凧は子供にも作れて揚げるのも簡単なのに対し、たこの凧は作り方はやさしいが揚げ方が難しいそうだ。右の蝦夷凧は、昭和43年に北海道開拓100年を記念して創作された凧。絵柄はアイヌの神話からとられている。縦55cm。他にも同じ作者によるユニークな凧として、函館五稜郭の形を模した五角凧がある。(H18.3.18)

当ホームページ内の写真、図、文章を無断で転載する事はご遠慮下さい。
著作権は佐藤研氏に所属します。