秋田県の玩具 |
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秋田県の土人形は2箇所で現存している。それらは秋田市の八橋(やばせ)人形であり横手市の中山人形であるが、作風は好対照である。八橋はずっしりとした土の量感とくすんだ彩色がいかにも雪国の風土を表しているのに対し、中山は整った造型と洗練された明るい描彩が特徴的である。ここに紹介する八橋の牛乗り天神は節句人形として家庭で飾られた(高さ 27cm)。ほかに、飾り台を含めて高さ50cmにもなる座天神は頭部が挿し込み式になっており、随身を従え、狛犬や石灯籠などが一式になった豪華なものである。なお、県内の土人形は銅山で有名な小坂にもあったというが、昭和40年代には廃絶し、筆者は博物館でしか知らない。(H16.5.23)
大型で安定感のある天神。端正なお顔は嵌め込み式になっている。八橋人形は町内にある菅原神社の天神信仰を背景にしていたため、このように天神人形が主流である。天神人形は「八橋のオデンツアン(お天さん)」と呼ばれ、旧暦3月25日と9月25日の天神祭には人形を求める人々で町は大賑わいであったという(1)。高さ32cm。(H17.2.27)
大型の天神が学問の神様の重々しい威厳を示しているのに対して、小型の天神は親しみやすい姿であり、八橋人形の特徴である素朴さをより感じさせる。いずれも高さ12cm。(H16.5.23)
中山人形の天神はデザインにも隙がなく彩色も都会的で丁寧である。むしろ京都や名古屋、博多の土人形に類縁性を感じるほどで、東北地方としては異質なものといえる。天神以外にも歌舞伎ものを中心に多くの型があるが、現在は土鈴や竿灯人形などの観光土産品の制作にも力を注いでいる。高さ24cm。(H16.5.23)
同じく花魁をモデルにするにしても、八橋人形(左)と中山人形(右)とでは作品がこのように違ってしまう。左の高さ27cm。(H16.5.23)
簡略化された描彩と厚ぼったい人形のずっしりとした手ごたえ。その魅力を特に感じるのが小型の八橋人形である。八橋街道沿いの、雑貨店(煙草屋だったかも知れない)を兼ねたお住まいに作者を訪ねたのは30年以上も前になる。日用品が並べられた棚の一隅に八橋人形を見つけた時の嬉しさは今でも忘れられない。小さな天神様と鯛乗り童子、それに極彩色の鳩笛を求めたところ、それらを無造作に新聞紙に包んでくれた。ここではまだ人形が“美術工芸品”などではなく、雑貨と同じ日常の品々なのだと知った。この作者もすでに亡く、現在ではもうお一人が伝統を守っているのみである。鯛乗り童子(中)の高さ10cm。(H16.5.23)
比較的大型のものには他産地にも類似のものを認める場合が少なくない。その中にあって(1)の相撲取は独自の型で、横綱大鵬をイメージした新しいもの(高さ24cm)。夫人が秋田市出身ということで、地元でも大鵬の人気は大変なものであった。そのほか、(2)随身(天神人形とともに飾られる、25cm)、(3)地蔵(25cm)、(4)ねずみ大黒(20cm)、(5)布袋(14cm)、(6)乃木大将(17cm)。(H16.5.23)
しおりによるとイタヤ細工は「本来“イタヤカエデ”の若木の幹で箕や篭などの道具をつくるものであるが、細工場にいたずらに来る子供達のために、切れ端を利用して与えたのが玩具としての狐や馬である」という。奥が親子馬、手前が狐。狐は食卓の箸置きとしても使われる。狐の高さ7cm。(H16. 5.28)
渋谷駅頭の忠犬ハチ公で知られる秋田犬は、古くは大館犬と呼ばれる大館地方の地犬であった。佐竹藩大館城代が武人の心を養うために闘犬を奨励したのに始まるという。昭和6年に犬では最初の天然記念物に指定された。この木彫玩具は、立ち耳、巻尾、短く引き締まった胴、太い首に大きな頭、垂直に突きたった四肢など、秋田犬の特徴をよく表現している。大の高さ14cm。(H16.
5.28)
湯沢では旧正月15日の晩に犬っこまつりがある。この日は戸口や窓にしんこ(米の粉)で作った犬や鶴亀などのお守りを飾って魔よけ、盗難よけにする。昔、大盗賊を退治した湯沢の殿様が、再びこのような悪人が現れないようにと始めた風習といわれている。赤、青、緑で彩色したお守りにはそれぞれ次のような意味がある。後列左より阿形の牡犬(外への守り)、仔犬(未来の宝)、吽形の牝犬(内への備え)、稲穂を咥えた鶴(千年長寿)、前列左より金箔を押した銚子(富の象徴)、梅の花を浮かべた盃(春を待つ)、鯛(おめでたい)、親亀子亀孫亀(万代繁栄)。高さ4cm。(H16.
5.28)
串コ姉様(串姉コ)は頭部が土人形で髪飾りや衣装は紙と布でできている(高さ22cm)。横手の冬、梵天まつりの頃に藁苞(つと)に挿して売られていたもので、戦後復活した。また、中山人形には干支に因んだ土鈴もある。左はマサカリ兎、右は昭和54年未歳の年賀切手に採用された羊。(H16.
5.29)
竿灯は東北三大夏まつりの一つに数えられ、8月5日から3日間催される。高さ10m余りの竹竿に9本の横竹を渡して46個の提灯をつけると、重さは60kgにもなるという。これを額、肩、腰に乗せてバランスをとり妙技を競う。写真の左2点は中山人形製であるが、提灯の部品を作る職人が居なくなり、このごろは見かけない。かわって目にするのが木製の竿灯人形である(高さ30cm)。(H16.
5.29)
梵天(ぼんてん)は横手市郊外にある産土神旭岡山神社に奉納される行事で2月に行われる。大勢の男たちが神の象徴である梵天(古語では“ほで”)を振りながら神社を目指す。羽黒山信仰(修験道)の盛んな地方に今も残る。秋田市にも梵天があるが、横手の梵天は頭に意匠を凝らした飾りをつけるのが特徴とされる(2)。では、「ぼんてんこ」はその梵天を模した玩具か、というと全く関係の無いものだという。形が似ていること、本来の名称である「祝儀棒(ぼんでこ)」と発音が似ていることから混同されて、いつの間にか梵天の日の土産物になったらしい。高さ25cm。(H16. 10.12)
ぼんでんこと同様、削り掛けの技法で作られる。アイヌ伝来とも伝えられるこの技法は東北各地に残っており、有名なものには米沢(山形県)の笹野一刀彫りがある。お彼岸に供える造花や節句ものの菖蒲などが巧みな技で出来上がるのを見ているのは楽しい。造花の高さ43cm。(H16.
5.29)
郷土玩具は「郷土の風土や生活、信仰に深いつながりを持つ玩具」と定義され、古い歴史と伝統を有しているものが殆どである。しかし、新しく作られたものでも、作られた土地の香りのにじみ出ているような玩具は郷土玩具といって差し支えない(3)。ここに紹介したのはそのような玩具達である。写真左は湯沢の犬っこだが、本来のしんこ細工ではなく張子や紙粘土(手捻り)で作られており、簡単な色付けが可愛らしさをいっそう引き立てている。右奥は大館のお杉わらべ。黒く焼いた秋田杉に目鼻と藁頭巾を描き、雪国の風俗を表している。写真中央の馬と右手前の鯛は生保内(田沢湖町)で10年ほど前から作られている北浦土人形。丁寧な作りで今後が期待される。馬の高さ8cm。(H16. 6.21)
写真左は湯沢のまなぐ凧。“まなぐ”とは“まなこ(眼)”のことである。般若の面を図案化したもので、墨一色で描かれる。飛翔力は抜群とのこと。右は能代の魔除け凧といわれるベラボー。ベラボー凧には男女があり、これは女ベラボー。男ベラボーよりも妖気あふれる図柄であり、魔除けの力も男まさりかもしれない。いずれも約60x40cm。(H16.
6.21)
城主が転封されて当地に来た際、江戸から御殿女中が伝えたものという。県境をはさんですぐ隣の庄内藩の城下町、鶴岡(山形県)にもこれとそっくりな御殿まりが伝わっている。(H16. 6.28)
秋田県のこけしは木地山を起源とするものが主流である。頭と胴のつながった作り付けで、胴は着物か前垂れ模様が特徴である。左は木地山の小椋久太郎作で1尺4寸。ラッキョウ形の頭部、田舎娘の正装がモデルといわれる梅花の前垂れ、どっしりとした風格は木地山こけしの典型である。中は横堀の中川徳二郎作で8寸。胴模様は木地山系の特徴を備えるとともに、頭部のロクロ模様は弥治郎系(宮城県)を踏襲している。右は稲川の阿部平四郎作で3寸。ざっくりとした木肌に簡潔な描彩がマッチしている。(H16.
10.12)
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