中国・北京事情



YT/1993-10-9
 北京に来て、今後の中国がある程度理解できたようです。
今回はその報告をします。

1.日本の戦後史について
 日本の戦後、急速にアメリカを追い越したのは3つの原因がある。
1つはアメリカという経済的目標、言い替えるとアメリカのような
豊かな生活がしたいという夢、その夢を在日アメリカの軍事施設一
般公開で毎年確認できたこと。

 2つ目がアメリカの技術図書をGHQ図書館で公開してくれたこ
と、このためアメリカの技術が2カ月遅れで日本の研究者にも伝わ
ったこと。
その後、アメリカに日本の技術者が出張した時、製造技術を公開し
てくれたことである。

 最後の3つ目に朝鮮戦争でアメリカが日本に大量の軍事物資の発
注とその製造技術を公開してくれたことである。

 この3つの内、一番大きいのは、夢を与えてくれたことである。
1950年代、日本は世界の中でも平均寿命が低い国の中にあった。
このような状態の時、米軍基地にあるスーパーマーケットや住宅の
集中給湯設備をすごいと感じた。このようになりたいと子供心に強
く思ったものである。

 1950年代、1ドルが360円であり、日本の大学教授が給与
10万円で、アメリカの労働者の最低賃金が年収2万ドルである。
日本の大学教授の年収200万円対アメリカの最低賃金720万円
である。アメリカの最低賃金より、日本の大学教授の方が低い状態
であった。このような状態では、エンゲル係数が高く、食費のみで
生活の文化的な出費まで手が回らなかった。

このため、少しでも生活文化を上げようとして、ボーナスでテレビ
やカメラを買うため、半年ぐらい家族会議でパンフレットを見なが
ら議論したものであった。

 しかし、50年代は日本全体が向上心で燃えていたのでした。
この50年代の日本を味わいたいと思ったら、中国に行くことをお
勧めします。中国北京の今の状態が50年代日本だからです。北京
の人たちは日本人とほとんど見分けがつかないため写真にすると
50年代日本で通用する。いい事例が私も天安門でカメラのシャッ
タを押してくれと中国語で言われたことである。

相手も日本人と中国人の区別ができないようである。中国語を見な
い・聞かないと本当に日本の50年代である。

2.中国状況
 町が汚い。北京・王府井は日本の銀座であるとPRされていたが
ガッカリである。町の整備度が悪いため、敷石が波打ったり、なか
ったりする。

このため全体の印象は薄汚れているように感じる。まあ敗戦直後の
50年代の銀座もこのようであったと思われるので我慢。ホテルは
ホリデーインで王府井にある。このホテルの中だけ現代日本である。

 そのように感じていた私がビックリしたのは、中国大飯店にいっ
たときである。このホテルがすばらしいのはもちろんであるが、
この周辺の高層ビル群は日本の幕張メッセにいる感覚であった。環
状3号線は、北京の城壁を崩して道路にしたそうであるが、日本の
環8をマネて、すべて立体交差されている。
自転車が北京では、多いため自転車専用道路が両サイドにあること
が違いである。

 この環3の両サイドの町は、近代である。このように中国は、新
しい中国と古い中国が混在した状態になっている。この政策は日本
が在日米軍の基地で感じた夢を中国はヤオハンのデパートや近代的
ビルを国民に見せることにより、希望を与えているように思う。

 いろいろな場で日本の商社や現地支店の人と会ってお話をしたが
、そのなかで印象的なことを2・3点触れてみたい。
 まず、コンサルティングは商品の付録であり、ただであると思っ
ている。

このため中国ではこの手の商売はできない。つぎに、最初の1つは
買うが、その後合弁しないと中国でマネして同様な商品を作ってし
まう。中国は自力更正を実施している。このため日本車を多く見た
がすべて中国との合弁企業で生産されている。

 この話、どこかで聞いたことがあると思いませんか?この話は
日本の60年代、欧米が日本に対して、言っていたことである。同
じことを中国がやっている。

 ある高層ビルの企業に商用で行ったが、エレベータの反応が悪い
と思ったら中国製であった。洗面回りも故障していたが中国製であ
る。これも日本の50年代と同じ。当時日本製は故障が多かった。
しかし今回、ホテルの設備では、エレベータはすべて三菱製、洗面
・風呂など水回りはTOTOであった。

 このように中国は自力更正のため、中国に物を売るより、人件費
の安い中国で生産する台湾・香港・日本や欧米企業がどんどん増え
ている。このため製造に必要な技術を中国にどんどん提供している。
これは、日本に対してアメリカが軍事物資を大量に発注した状態と
同じ状態を作り出している。

 しかし、気になることも聞いた。中国に3つの問題が起きている
が、その解決案が見いだせないでいるとのこと。

 問題は経済加熱、インフレ、一番大きな問題である都市と農村の
格差が拡大していること。年収が上海では平均5600元であるが
内陸では平均720元と8倍の差である。このため、内陸部で
1993年初めから1999年まで多くの暴動が起きているとの事
である。中国共産党は農民の支持により、中国の支配権を国民党や
日本から奪取できたのである。

その農民の暴動に対し、現政府の内部で深刻な議論が行われている
ようである。つい最近では法輪功のように中南海(党幹部邸の地域
)でデモが起きる事態になっている。

 もう1つが汚職・腐敗の蔓延である。公金での宴会支出が1998年
1000億元とのことである。ちなみに、国家予算は4100億元
で、実に国家予算の約1/4が宴会に消えた勘定である。このため
、宴会は簡素にすることと政府の指示が出た。それと幹部の子弟を
国営会社の幹部にしてはいけないという腐敗に対しての指示が政府
から出ている。

 上記の2つは大きいが、共産主義の問題点が北京市内でも感じる
ことが出来る。フリーマーケットでは、1人1人の売り場面積が政
府から決められている。すべて個人商店のため、1つの売り場で3
品から4品しか売られていない。規制の強さを感じた。このため、
個人の能力が十分生かされていないように思う。それと流通がシス
テム化されないなどの問題点を発見した。

 もう1つが電話はすべて盗聴されていて、国の政策に反対すると
突然切られることがあるとのこと。

 もう1つ、中国での交渉では、中国サイドが通常取引の3倍も高
い金額を最初に提示してくる。この金額では日本サイドが損する。
このため1/3ぐらいの金額を日本サイドから逆提案する必要があ
るとのこと。

 この交渉方法は韓国の1970年代の状態と同じである。日本や
アメリカは資本を人件費が安い韓国に投下したが、韓国サイドが日
本やアメリカの期待に全然答えず、資本を食いつぶして、日本・ア
メリカ企業が総撤退した苦い経験がある。この後、韓国企業が企業
を買取り現在になった。その後、日本もアメリカも韓国に資本投下
しようとしない。提携のみである。このため、あるレベルまで韓国
は高度成長したがその後伸び悩んでいる。

 中国はアメリカの期待に答えた日本の道に来るのか、期待に答え
なかった韓国の道に行くのかまだわからない。今後、中国は信義を
他民族に対しても守るかどうかが1つの焦点である。華僑が世界の
ネットワークを構築できたのは、信義を他民族に対しても守ったか
らである。このため、日本の道になることを中国に期待する。

3.貨幣の水準
 給与は警察官で500元(1万円)、ソフトの高級技術者で4000元
(8万円)である。ホリデーイン1泊700元である。タクシーは
市内10元〜20元(200円〜400円)、フリーマーケットで
桃が500グラム(3個)で5角(10円)、地下鉄一律で5角な
ど物価は確かに安い。
このため見学やおみやげをいろいろ買っても4日で2万円で十分で
あった。

 しかし、日本人の目で見るのではなく、中国国民の目で見ると
500元は日本の最低賃金15万円として見ると、300倍で日本
の同等物価と考える。
すると、桃が500グラムで150円、地下鉄も同様に150円、
そしてホテルは1泊21万円となる。いかにホテルが高いかがわか
る。庶民には縁がない。このように中国国民と同じ目をもたないと
あぶないことがある。

100元は、中国では3万円ぐらいの価値がある。このため、日本
人の目で100元=2000円のため軽く財布から100元札を出
すと、強盗から狙われる可能性がある。そうでなくても物売りがヒ
ツコク寄ってくることになる。

4.中国の21世紀はどうか?
 中国に興味を持ったのは、21世紀に世界の経済大国に中国がな
るとニューズウイークも特集していることである。なぜ、そのよう
に書くのか、どのような観点から見ているのか、それを出張の機会
に見てみようと思って中国に行った。

 その答えは50年代の日本の活気が今の中国にはあることである
と納得した。
中国は、日本やその後のアセアン諸国の成功要因を研究している。
日本の成功要因は3つであるが、その代行形で3つを行っている。
 実際、GNPの伸びは、1992年12.8%、1993年14%、
1998年7%とのことである。イギリス戦略研究所は、2020
年には中国はアメリカ、日本を抜いて世界第1位の経済大国になる
と予測している。

 ただ、気になることは、1993年3月に憲法改正し、富強の中
国を目指したことで、国防の近代化に対して、国防予算が毎年15
%の伸び示していること。
 それと都市と農村の格差をどのように調整するか?これも日本方
式で当面切り抜けると思うが。日本方式とは、諸制度の農村優遇政
策である。

 もう1つ規制が強いことで、規制の緩和をあるレベルで行う必要
があると感じたことである。個人の能力をどう引出すか、この能力
引出しの国家システムがまだ十分でないように思う。
 この問題の発展として、国営企業の倒産も早急に解決を迫られて
いる問題の1つである。

5.世界のバランスと中国
 中国は12億人の人口がいるため、生活のレベルが少し上昇して
もそのインパクトは大きい。その中国が戦後の長い眠りから起きよ
うとしている。この中国はタリム盆地の石油など豊富な地下資源も
ある資源超大国であるとともに政治の駆引きがうまい政治大国でも
ある。アジア諸国の勢力地図に大きな変化が起こると思う。
今は、ヨーロッパとアメリカと日本、ASEAN諸国対中国の関係
になってきた。21世紀には中国がより大きくなっている可能性が
ある。アジアに中国、台湾、シンガポールの中華経済圏ができて、
日本とASEAN諸国がアメリカ主導のAPECになるのが一番ま
ずいと思う。

 反中国連合対中国の構図になるのか、自由主義対反自由主義の構
図になるか、今後の世界動向の焦点である。どうも段々反自由主義
の中国になってきているような気がする。

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