日本の歴史の波

  (日本と世界のかかわり方について)
   F/1991-10-2

1.日本の歴史
  日本の歴史をみると、海外の文化の取入れ期とその文化の日本への同化期と の2つのフェーズがあることに気づく。
 そして、その2フェーズは繰り返して日本の歴史に現れ、それにより発展して いる日本を感じるのです。

  表1.日本の波

取入期、飛鳥時代・奈良時代:百済・遣唐使
    安土桃山時代   :宋貿易・元攻 キリスト教
  ポリトガル人
  鉄砲
明治時代 :ヨーロッパ文明の吸収


同化期、平安時代 :かな・カタカナ
 鎌倉時代 :日蓮・親鸞
  室町時代     :お茶
    江戸時代    :鎖国、歌舞伎・哲学

 日本の歴史の初期は、百済・新羅などの朝鮮から技術者を日本に招き入れて、 仏教・文字・土木工事などの文化・技術を導入した。
 奈良時代には、遣唐使を唐に送り、律令制・禅や密教などの文化を導入する。
 しかし、平安時代になると、唐の文化の日本化が行われ、かなの発明や 源氏物語のような女性の文化ができた。そして、鎌倉時代には日蓮・親鸞など 仏教の日本化が完成する。
  室町・安土桃山時代はポルトガル人がキリスト教や鉄砲を日本にもたらした。 この導入のレベルの違いにより、信長が天下をとれた。しかし、一方では利休の 茶や観阿弥・世阿弥の能などができたのもこの時代です。
  江戸時代は鎖国したため、日本化のレベルが最高になり、歌舞伎・和歌・ 石田梅岩の心学などが花盛りとなる。
  明治時代以降は、ヨーロッパ文明の吸収(ドイツ・イギリス)し、昭和の 初めに日本文化に戻る精神運動が起こったが戦争に負け、再度文化取り込み期に 戻った。このため昭和20年以降はアメリカの文化を導入してきた。

2.取り込み期の特長
 日本の他文化・文明の吸収には、大きな特長があります。 何だと思うますか?
 日本の他文化の吸収は選択的である。たとえば、中国の文明吸収でも 科挙制度や宦官制度の導入はしていない。
 日本では、他文明の支配を受けていないため、自律的に他文明を導入して いる。
中国では、洋務運動が近代に行われたがうまくいかなかった。これはあまり にも中国にプライドがあるためであろう。しかし、日本は文化面ではいつも 遅れているを考えていたため、ヨーロッパ文明の導入が早くかつ全般な分野に 導入できた。戦後のアメリカ文明導入でも同じである。
 日本の他文明・文化の吸収は、短期にかつ猫の杓子もと言うぐらい過激に 導入する。このため、 時に日本の古来文化擁護派とのたたかいが起こる。 しかし、いつも導入派は勝利する。
 たとえば、戦後のアメリカ文明の導入や聖徳太子の朝鮮からの仏教導入など である。60年安保と物部氏との戦い。
  日本古来の文化は保持している。世界的に自然崇拝を行う宗教をもつのは、 未開の民族と日本の神道だけで、他の文明国は哲学宗教である。このように 古来の文化も残しながら新しい文化を吸収してきた。

3.同化期の特長
  日本に導入された文化は、かならず変形される。たとえば、漢字はひらがな ・カタカナに変形されたし、アメリカから導入されたQCは日本では専門家の 技術ではなく、一般の働く者全員の技術とされた。
  日本に導入された文化は、数十年すると日本文化と区別がつかなくなる。 たとえば、『まんじゅう』は何語ですか? それでは『さるまた』は何語ですか?
 どうですか? 日本語でしょう。実はポルトガル語がなまったのです。
  日本の古来の文化と融合するような考え方や哲学が生まれる。たとえば、 石田梅岩の心学や新井白石などの哲学が誕生した。また仏教でも、日蓮宗や 浄土真宗や誕生した。
  日本の同化期では外国の文明導入派が国粋主義派にまける。鎌倉時代の元 の使者を殺すことにより、元軍の攻撃となった。また、太平洋戦争前では 国粋主義者に欧米派の人たちが負けて、戦争に突入してしまった。

4.日本の変わらないこと
  日本の変わらない特長は、天皇制と神道である。これは今後も変化しない であろう。
 イスラエルのシロー教授に言わせるとこの天皇制の永遠性は日本の信頼を 大きくする。
  日本の心は柔軟さではないかと思う。すべてを受け入れる態度がある。 どんな哲学が誕生しても、一時的に抵抗する人はいるが、この哲学も受け 入れる。
  また、日本人の導入期・同化期の両方にあらわれる熱情の雰囲気に反対 できない。時代の流れに押し流される感じがある。山本七平は『空気』と 言っていることである。

(ここまでをまとめると)
  導入期 導入する物を選択する。
          他から強制ではなく、自律的に導入
          導入は、熱情的

  同化期     導入したものは変形する。
          日本古来のものと融合する。
          国粋主義も情熱的
          新しい考え方が誕生する。

  不変化のこと  天皇制
          空気に支配される。
          すべてを受け入れる。

5.今の日本について
 日本の歴史は文明・文化の取入れ期と同化期の2つの時期が交互に 繰り返してしていることがわかった。しかし、その底には変わらないことも あることも見た。
  この上で、今の日本はどうでしょうか?
 戦後50年に至り、アメリカ文化・文明を取り込み、インターネット以外あまり 取り込む物がなくなった。逆に日本のTQCなどをアメリカが導入し初めている。 と言うことは導入期ではなくなったことを意味する。

  今の日本は同化期に入ったとみる。古来の文化との融合現象がでてくる。 古来の文化とは何かと言うと日本の古代の文化や江戸時代の文化のことである。
 今後、古代の理解が深まり、江戸時代の哲学−石門心学や和算などの技術の 再評価がおこなわれるはずである。一部始まっている。からくり人形やくみ細工 などの再評価が徐々に出てきた。
 古代の日本の歴史も高松塚古墳などで朝鮮との関係が深いことがわかってきた。 しかし、その古代朝鮮は九州王朝の領土であった可能性がある。
  そして、QCとかコンピュータなどが日本語化するであろう。そういえば、 この頃家電製品の商品名に日本語の名前がでてきている。『画王』や『霧が峰』など
それらは、日本的な変形を受けている。変形の受け方は細部まで気を使うことや、 専門家の技術から大衆の技術へと一般化した。

  まだ完全に同化したわけではない。それは、完全に同化すると、日本の古来 の文化と融合した哲学や考え方がどんどんできてくる。まだ日本的な考え方が 出てきたとは思わない。TQCや工場経営での考え方は欧米の考え方の改良で しかない。
 日本古来との融合した考え方は今後出て来ると思われるので期待してください。

6.今後の日本進路について
  日本の文化を一度も外国に輸出したことがない。日本は文化を受け入れる だけであった。
 このため、日本の我々は日本の文化を説明する技術を確立していない。
 日本文化を説明できるように教育する必要がある。たとえば、日露戦争では 大山・乃木・東郷の3人の名前が絶対に中学校で教えるべきである。
 ところが、が日露戦争では『きみ死にたまうことなかれ』と歌った 与謝野秋子が大きく、3人の名前はない。しかし世界の教科書には3人の 名前がある。
 日本の教育がおかしい。世界の歴史の見方と日本の見方があまりにも違い すぎる。

  日本文化を知りたい人が世界に大勢いることに気が付かない。アメリカでは 戦後フルブライトの留学制度があり、日本人も大勢アメリカにその制度で 留学した。帰国して親米家となっている。

  日本の文化がいいものであると言う認識を持っていない。そのため、 すぐ欧米ではこうだと説明する。日本の伝統・文化に誇りを持つ必要がある。
 このために、太平洋戦争や東京裁判をもう一度欧米からの見方ではなく、 日本からの再評価をする必要になってきたのではないかと思われる。 日本の立場で見る必要がある。(中村あきら先生の「大東亜戦争への道」が 詳しい。)
 日本の再決断が必要であるようである。日本の生き方は戦後50年 アメリカによりかかって生きてきたように思う。日本は日本で生きる、 一人立ちで生きることが必要となってきた。
 マッカーサーが『日本は12才の少年のようだ』と言っていたが、 そろそろ成人になる必要があるのではないか。

もう一度まとめると、以下のことである。
 ・日本は現在文化の取入れ期から同化期になってきた。
 ・今後日本が経験したことがない日本文化の輸出をすることになる。
 ・日本文化に日本人が誇りをもつことである。
 ・日本文化の説明ができる必要があり、教育することが必要。

 そして、日本は再決断が必要である。それもなるべく早く。

コラム目次に戻る
トップページに戻る