YS/2001.12.28 ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−9 戦争とメディア ■追い込まれる ブッシュ−テキサス・インナーサークル=旧テキサス共和国 フランス・ラザール・フレール出身のジャン−マリー・メシエ 会長率いるビベンディ・ユニバーサルも凄まじい勢いでアメリカ に乗り込んできた。メシエ会長自らがニューヨークに乗り込み陣 頭指揮にあたっている。 現在でもフランス・ラザール・フレールと同盟を組むビベンデ ィ・ユニバーサルは、米メディア大手USAネットワークスの株 式の43%を取得し完全支配しつつある。そして新たに米衛星放 送2位のエコスター・コミュニケーションズに対しても総額15 億ドル(約10%)を出資することで合意する。 USAネットワークスは、今年7月にマイクロソフトからネッ ト旅行社を買収したばかりであることも見逃せない。マイクロソ フトとブッシュ共和党との蜜月関係が急速に冷めてきているよう だ。 エコスターは、今年10月にルパート・マードック率いる豪メ ディア大手のニューズ・コーポレーションを退け、同業最大手で GM(ゼネラル・モータース)の傘下にあったヒューズ・エレク トロニクスを258億ドル(約3兆2000億円)で買収した。 この買収合併により顧客数が1670万人米衛星テレビ市場をほ ぼ独占する規模となる。そして重要な点は、この買収資金の一部 をビベンディ・ユニバーサルが提供することでも合意したことだ。 これまで見てきたようにじわじわとアメリカメディア分野が欧 州勢力に追い込まれているのである。その中心にいるのは名門ラ ザードである。そしてこの影響はアメリカ内部の分裂にも発展し ているようだ。 顕著に現れているのがイラク攻撃をめぐるブッシュ政権内部の 対立である。ともにグローバリストであるが、新世界秩序を最優 先に考えるパウエル国務長官を中心とするグループとアメリカの 利益を最優先に考えるウルフォウィッツ国防副長官のグループの 対立である。 ラザードに代表される「欧州・貴族系グローバル企業」は、パ ウエル国務長官をもり立て、ウルフォウィッツ国防副長官の背後 には、テキサスの利益を最優先に考える旧テキサス共和国の「ブ ッシュ−テキサス・インナーサークル」の姿が見え隠れしている。 しかし、「ブッシュ−テキサス・インナーサークル」も同時多 発テロとエンロンの一件で戦略の見直しを行っているようだ。 12月12日、ブッシュ大統領は、ハイテク政策に関する助言 を得るため、AOL・タイムワーナーのスティーブ・ケース会長、 デルコンピュータのマイケル・デル会長、インテルのゴードン・ ムーア名誉会長、そしてコムキャストのケーブル・コミュニケー ション部門のステファン・バーク社長、ロッキード・マーチンの ノーマン・オガスチン元会長などの有力企業幹部をメンバーとす る科学技術諮問委員会を新たに設置すると発表する。 ブッシュ大統領は、石油などのエネルギー分野には熱心である が、ハイテク分野に対する関心が大きくないと指摘する声が経済 界から聞かれていた。さすがに慌てたのか有力企業幹部の囲い込 みを始めたようだ。 この一報を伝えたのが世界を代表する経済新聞であるウォール ・ストリート・ジャーナル(WSJ)だが、エンロンとブッシュ 政権の関係を追及する動きを始めたのもWSJであり、その発行 元は「ダウ平均」や「NYダウ」の生みの親でもあるダウ・ジョ ーンズである。従って1975年に提携して以来、一貫してダウ 式による修正平均株価として算出してきた「日経平均株価」の生 みの親ということにもなる。 現在WSJ以外にダウ・ジョーンズ・ニューズワイヤーズ、フ ァー・イースタン・エコノミック・レビュー、バロンズなどを発 行しているが、このダウ・ジョーンズの取締役会にもバーノン・ ジョーダンがいるのである。 また、ジョーダンが第2章で登場した世界第二位の金鉱会社バ リック・ゴールドの国際諮問委員会のメンバーになっている点も 注目していただきたい。パウエル卿とカール・オットー・ぺール とバーノン・ジョーダンが揃ってメンバーとなっているのである。 そしてメディアからの圧力により辞任したのはブッシュパパであ る。 ■戦争とメディアの関係 9月21日に全米の4大ネットワーク(ABC、CBS、FO X、NBC)が共同制作した同時多発テロ事件の犠牲者追悼チャ リティ番組に登場したニール・ヤングは、ピアノを奏でながら 「イマジン」を歌う。これが大きな話題になったことは日本では あまり知られていない。実は「イマジン」は、放送自粛対象にな っていたのである。 金融と軍事産業とメディアを操る集団が同一の方々である以上、 秩序の安定を重視しながらも適度な緊張関係は好む傾向にある。 また、社会的な混乱は彼らにとって最大の不安要素となる。バー ノン・ジョーダンが取締役を務めるアメリカ最大のラジオ・ネッ トワークであるクリア・チャンネル・コミュニケーションズは、 同時多発テロ発生後に同系列の約1200局に向けて、約150 曲について放送の自粛を促す社内通達を出した。 「好ましくない」とされた曲のなかにはジョン・レノンの「イ マジン」、ポール・マッカートニーの「007/死ぬのは奴らだ」 、ビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」「ルーシー・イ ン・ザ・スカイ・ウィズ・タイアモンズ」などが含まれている。 クリア・チャンネル・コミュニケーションズでは、「全国的な 放送禁止措置」ではなく、何の曲が「好ましくない」かを判断し、 具体的な放送内容を決めるのはあくまでも各地のラジオ局だとし ている。 ワシントン・ポスト傘下のニューズウィーク誌は、12月15 日、1003人の世論調査を公表した。この中でイラクのフセイ ン政権に武力行使すべきだとする回答者は78%に達していた。 この数値を上げるも下げるも今後のメディアの報道の仕方によっ て変わるだろう。そして、その行方は再びラザードに代表される 「欧州・貴族系グローバル企業」の手中に戻りつつある。 アメリカを牽制すべく、フランス政府は10月31日にメディ アを使って爆弾を投げ込む。ウサマ・ビンラディンが今年7月に アラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイのアメリカン病院で腎 臓病の治療を受けた際に、CIA(米中央情報局)と接触してい たとする記事が世界に配信される。 報じたのはフランスを代表する新聞フィガロ紙であり、フラン スを代表する石油メジャー、トタルフィナ・エルフのイラク国内 の石油、天然ガス利権に絡むフランス諜報機関のリークと見られ ている。 そしてそのフィガロに約20%を出資しているのは、ブッシュ −テキサス・インナーサークルの中核に位置するカーライル・グ ループである。フランス政府の爆弾は、その大株主にダイレクト に投げ込まれたものであった。 欧州・貴族系グローバル企業に先手を打たれて、アメリカの次 なる攻撃目標が狭められていく。適度な緊張関係が続くもののイ ラクもソマリアもその対象にはならないだろう。残された唯一の テロ支援国をめぐって、寄りによってこの時期に訳もわからず喧 嘩を仕掛けるお馬鹿さんがいる。 またしてもこの日本は、奥深くへと引きずり込まれるのだろう か? (つづく)