YS/2001.12.23 ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−8 ■バーノン・ジョーダン登場 バーノン・ジョーダンは、現在のアメリカの政財界で最も影響 力のある黒人であろう。1982年から務めてきた名門法律事務 所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドを離れ、 昨年1月にラザード・フレールのマネージング・ディレクターに 就く。エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドの弁 護士としてはとどまるものの、この実質的なラザード転身のニュ ースは大きな話題となった。 ジョーダンは、クリントン前大統領の親友としても知られ、モ ニカ・ルインスキー・スキャンダルの時には、就職の面倒を頼ま れた人物として再三メディアに登場した。 これまでに何度もコラムで紹介してきたが、日本とも深いつな がりがある。新生銀行の社外取締役と富士銀行の国際諮問委員会 のメンバーを務めているのである。 エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドといえば、 創設者のひとりにロバート・ストラウスがいる。カーター政権 (民主党)政権時の通商(USTR)代表、駐ロ大使を務めた経 験がある。テキサス出身でFBIのスペシャル・エージェントも 務めたストラウスは、ブッシュ支持にまわり「ブッシュ−テキサ ス・インナーサークル」の中枢を担う。このあたりの関係がジョ ーダンの転身に大きく影響したのかもしれない。なおクリントン 前大統領自身も退任後のラザード・フレール入りも噂されたこと もあった。 バーノン・ジョーダンは、アメリカを代表するビッグ・リンカ ーであり、取締役件数も群を抜いている。そのひとつがアメリカ ・オンライン(AOL)・ラテンアメリカの取締役だとわかると なにやら訳がわからなくなる。つまりAT&TのCATV事業は ラザードとAT&Tのブロードバンドをめぐる争いであり、勝者 がAOL・タイムワーナーであろうとコムキャストであろうとマ イクロソフトであろうとあまり変わりはないようである。メディ ア分野におけるラザード包囲網が広範に張りめぐらされており、 AT&Tといえどもその存在を無視できるものではない。 そして12月19日、ようやくこの買収劇の結論が下された。 AT&Tは、CATV部門をスピンオフ(分離・独立)し、コム キャストと合併させると発表する。新会社は「AT&Tコムキャ スト」となり年商190億ドル、約2200万世帯の加入者を抱 える巨大CATV企業が誕生することになる。 新会社AT&TコムキャストのCEOには、コムキャストのブ ライアン・ロバーツ社長が、会長にはAT&Tのアームストロン グ会長が就く。そしてマイクロソフトは、同社が出資する50億 ドル相当のAT&T優先証券を新会社の株式1億1500万株に 転換することで合意を勝ち取る。 この買収劇の陰の主役を紹介しよう。AT&Tのファイナンシ ャル・アドバイザーを務めたのはクレディ・スイス・ファースト ・ボストン(CSFB)とゴールドマン・サックスであり、コム キャストのアドバイザーはJPモルガン・チェース、メリル・リ ンチ、クアドラングル・グループで構成された。そしてラザード は単独でマイクロソフトのアドバイザーを務めていたのである。 ラザードとマイクロソフトを繋げる鍵はアスペン研究所にある。 ■ジョーダン夫妻と取締役兼任制度 バーノン・ジョーダンのこれまでの経歴をリストアップしたも のが下である。 ▼現在の取締役就任企業 ●ラザード・フレール(米) マネージング・ディレクター ●エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルド(米) 弁護士 ●アメリカン・エキスプレス(米 カード、金融大手) ●アメリカ・オンライン(AOL)・ラテンアメリカ ●クリア・チャンネル・コミュニケーションズ (米 ラジオ放送最大) ●ダウ・ジョーンズ(米 ダウ平均で知られる) ●J・C・ペニー(米 デパート最大手) ●レブロン(米 化粧品最大手) ●サラ・リー(米 食品、衣料品最大手) ●ゼロックス(米 複写機等OA機器大手) ●新生銀行(日) ▼現在の国際諮問委員会メンバー企業 ●ダイムラー・クライスラー(独、米、日) ●富士銀行(日) ●バリック・ゴールド(加) ●ファースト・マーク・インターナショナル ※(欧州メディア) ▼過去の取締役就任企業 ●バンカーズ・トラスト(米 現ドイツ銀行) ●ユニオン・カーバイド(米 化学大手) ●ライダー・システム (米 総合ロジスティック・プロバイダー) ●R・J・レイノルズ(米 タバコ大手) ●セラニーズ(米 化学大手 現アベンティス) ●AMFM (米 現クリア・チャンネル・コミュニケーションズ) ▼その他 ●米欧日三極委員会●ビルダバーグ会議●外交問題評議会 ●フォード財団●LBJ財団 ●詳細は下記参照 The Harvard Business School African-American Alumni Association (HBSAAA) BIOGRAPHY http://www.hbsaaa.org/conf2001/Biographies/confBioVernonJordan.htm 日本では社外取締役を名誉職や監査役と同等に見る傾向がある ようだが、実際には過去社外取締役がCEO(最高経営責任者) を更迭した事例も数多くある。また年10回程度の取締役会に出 席し、この時には議事録も残されるため適切な発言が求められる。 報酬は、かなりの個人差があるようだが、一企業につき年間5万 ドル程度が平均と見られている。 昨年実施されたUSAトゥデイの調査によれば元労働長官でア スペン研究所の名誉会長で知られるアン・マクローリンが務める マイクロソフトやケロッグ、AMRなど9社の報酬は、66万7 000ドルであった。ジョーダンの報酬は、ワシントンポストの 1998年の記事によると当時で110万ドルと推定している。 しかもこのジョーダンの奥様アン・ジョーダンがこれまた凄い 方なのである。シティーバンクで知られる全米一位のシティー・ グループ、医療・健康関連用品のジョンソン・エンド・ジョンソ ン、情報処理サービス大手オートマチック・データ・プロセシン グの社外取締役なのである。さぞかし立派な豪邸にお住まいかと 思われるが、果たして夫婦の会話を楽しむ余裕があるのだろうか と余計な心配をしてしまうのである。 (つづく)