758−2. ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−8



YS/2001.12.23
      ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−8
■バーノン・ジョーダン登場

 バーノン・ジョーダンは、現在のアメリカの政財界で最も影響
力のある黒人であろう。1982年から務めてきた名門法律事務
所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドを離れ、
昨年1月にラザード・フレールのマネージング・ディレクターに
就く。エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドの弁
護士としてはとどまるものの、この実質的なラザード転身のニュ
ースは大きな話題となった。

 ジョーダンは、クリントン前大統領の親友としても知られ、モ
ニカ・ルインスキー・スキャンダルの時には、就職の面倒を頼ま
れた人物として再三メディアに登場した。

 これまでに何度もコラムで紹介してきたが、日本とも深いつな
がりがある。新生銀行の社外取締役と富士銀行の国際諮問委員会
のメンバーを務めているのである。

 エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドといえば、
創設者のひとりにロバート・ストラウスがいる。カーター政権
(民主党)政権時の通商(USTR)代表、駐ロ大使を務めた経
験がある。テキサス出身でFBIのスペシャル・エージェントも
務めたストラウスは、ブッシュ支持にまわり「ブッシュ−テキサ
ス・インナーサークル」の中枢を担う。このあたりの関係がジョ
ーダンの転身に大きく影響したのかもしれない。なおクリントン
前大統領自身も退任後のラザード・フレール入りも噂されたこと
もあった。

 バーノン・ジョーダンは、アメリカを代表するビッグ・リンカ
ーであり、取締役件数も群を抜いている。そのひとつがアメリカ
・オンライン(AOL)・ラテンアメリカの取締役だとわかると
なにやら訳がわからなくなる。つまりAT&TのCATV事業は
ラザードとAT&Tのブロードバンドをめぐる争いであり、勝者
がAOL・タイムワーナーであろうとコムキャストであろうとマ
イクロソフトであろうとあまり変わりはないようである。メディ
ア分野におけるラザード包囲網が広範に張りめぐらされており、
AT&Tといえどもその存在を無視できるものではない。

 そして12月19日、ようやくこの買収劇の結論が下された。
AT&Tは、CATV部門をスピンオフ(分離・独立)し、コム
キャストと合併させると発表する。新会社は「AT&Tコムキャ
スト」となり年商190億ドル、約2200万世帯の加入者を抱
える巨大CATV企業が誕生することになる。

 新会社AT&TコムキャストのCEOには、コムキャストのブ
ライアン・ロバーツ社長が、会長にはAT&Tのアームストロン
グ会長が就く。そしてマイクロソフトは、同社が出資する50億
ドル相当のAT&T優先証券を新会社の株式1億1500万株に
転換することで合意を勝ち取る。

 この買収劇の陰の主役を紹介しよう。AT&Tのファイナンシ
ャル・アドバイザーを務めたのはクレディ・スイス・ファースト
・ボストン(CSFB)とゴールドマン・サックスであり、コム
キャストのアドバイザーはJPモルガン・チェース、メリル・リ
ンチ、クアドラングル・グループで構成された。そしてラザード
は単独でマイクロソフトのアドバイザーを務めていたのである。

 ラザードとマイクロソフトを繋げる鍵はアスペン研究所にある。

■ジョーダン夫妻と取締役兼任制度

 バーノン・ジョーダンのこれまでの経歴をリストアップしたも
のが下である。

▼現在の取締役就任企業

●ラザード・フレール(米) マネージング・ディレクター
●エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルド(米)
弁護士
●アメリカン・エキスプレス(米 カード、金融大手)
●アメリカ・オンライン(AOL)・ラテンアメリカ
●クリア・チャンネル・コミュニケーションズ
(米 ラジオ放送最大)
●ダウ・ジョーンズ(米 ダウ平均で知られる)
●J・C・ペニー(米 デパート最大手)
●レブロン(米 化粧品最大手)
●サラ・リー(米 食品、衣料品最大手)
●ゼロックス(米 複写機等OA機器大手)
●新生銀行(日)

▼現在の国際諮問委員会メンバー企業

●ダイムラー・クライスラー(独、米、日)
●富士銀行(日)
●バリック・ゴールド(加)
●ファースト・マーク・インターナショナル
※(欧州メディア)

▼過去の取締役就任企業

●バンカーズ・トラスト(米 現ドイツ銀行)
●ユニオン・カーバイド(米 化学大手)
●ライダー・システム
(米 総合ロジスティック・プロバイダー)
●R・J・レイノルズ(米 タバコ大手)
●セラニーズ(米 化学大手 現アベンティス)
●AMFM
(米 現クリア・チャンネル・コミュニケーションズ)

▼その他
●米欧日三極委員会●ビルダバーグ会議●外交問題評議会
●フォード財団●LBJ財団
●詳細は下記参照
The Harvard Business School African-American Alumni
Association (HBSAAA) BIOGRAPHY
http://www.hbsaaa.org/conf2001/Biographies/confBioVernonJordan.htm

 日本では社外取締役を名誉職や監査役と同等に見る傾向がある
ようだが、実際には過去社外取締役がCEO(最高経営責任者)
を更迭した事例も数多くある。また年10回程度の取締役会に出
席し、この時には議事録も残されるため適切な発言が求められる。
報酬は、かなりの個人差があるようだが、一企業につき年間5万
ドル程度が平均と見られている。

 昨年実施されたUSAトゥデイの調査によれば元労働長官でア
スペン研究所の名誉会長で知られるアン・マクローリンが務める
マイクロソフトやケロッグ、AMRなど9社の報酬は、66万7
000ドルであった。ジョーダンの報酬は、ワシントンポストの
1998年の記事によると当時で110万ドルと推定している。

 しかもこのジョーダンの奥様アン・ジョーダンがこれまた凄い
方なのである。シティーバンクで知られる全米一位のシティー・
グループ、医療・健康関連用品のジョンソン・エンド・ジョンソ
ン、情報処理サービス大手オートマチック・データ・プロセシン
グの社外取締役なのである。さぞかし立派な豪邸にお住まいかと
思われるが、果たして夫婦の会話を楽しむ余裕があるのだろうか
と余計な心配をしてしまうのである。

                         (つづく)


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