731−2.中国通信事情の変遷



 中国山西省大同市の黄土高原の農村での緑化協力活動のなかでの
体験を書きつづっています。不定期の発行です。バックナンバーを
緑の地球ネットワークのWebページにおいています。
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  黄土高原だより(NO.128)         (2001.11.27)
           高見 邦雄(緑の地球ネットワーク事務局長)
      http://member.nifty.ne.jp/gentree/
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 通信事情の変遷
 北京、上海など、沿海の都市ほどではないものの、大同の農村で
も大きく変化しているものがあります。典型的なものが通信と交通
事情でしょう。今回は通信についてです。

1992年ごろは、電話をかけるのに苦労しました。
渾源のホテルや招待所に泊まっていて、国際電話をかけようと思え
ば、交換台に申し込んで、つながるのを待つしかありませんでした。
通常は2〜3時間、かかりました。県からまず大同にいき、つぎに省
都の太原につながれ、北京を経由して、日本につながるんだ、との
説明でした。そのあいだ、遠くにいくわけにはいきません。
部屋でチビリチビリやっているうちに、できあがるのに十分な時間
です。

 NHK北京支局が、私たちの活動をラジオ番組でとりあげてくれるこ
とになり、電話インタビューが計画されました。
約束の時間に、広霊県城の郵電局から北京に電話をかけようとしま
した。何回試みても、これがつながらないんです。けっきょく諦め
ざるをえませんでした。

県城ではそういう状態ですけど、農村はもっとすごいんです。懐仁
県新家園郷で電話の交換台をのぞいたことがあります。
農村の電話機は、私たちがこどものころの電話といっしょでした。
電話機の横についているハンドルをグルグルッと回すと、交換台の
おねえさんがでてきます。あれですね。

交換台には、番号を記入したたくさんのジャックがならんでおり、
両端にプラグのついたコードで、それをつなぐんですよ。
感度もとても低くて、途中から聞こえなくなることもしょっちゅう
でした。両側で大声で叫ぶんですね。

長距離電話や国際電話になると、よりたいへんでした。
むこうの声が小さいからといって、こちらが大声をだすと、相手の
声はかき消されてしまいます。大きな声で話して、そのあとは静か
にする。
チョウのように舞い、ハチのように刺す、といったモハメド・アリ
なみの技術が必要だったんです。

原稿をファクスで送ろうとすると、県ではむりでした。
大同市内まで帰って、郵電局にいかないといけません。久しぶりに
都会がみれるので、楽しみでもあったんですけど。

郵電局で、窓口に原稿を差し出します。そのあと大阪の事務所に電
話をかけて確認するんですけど、読めないこともしょっちゅうです。
器械も古いんですけど、それ以上に回線状態がよくない。
そう伝えても、窓口のおねえさんは、「いや、器械にOKのサインが
でてる」といって取り合ってくれません。
もう1回送って、A4を2枚送るのに、250元もとられたりするんですね。
「ドロボウ郵電局と名乗るべきだ」なんて捨てゼリフを吐いても、
おねえさんは知らんぷりです。

たいていの県の招待所の服務員は、幹部の娘が多くて、不親切です。
 なにか頼むと、露骨にイヤな顔をされたりするんですけど、大同
県の招待所に、親切なかわいい子がいたんですね。
彼女は、1階ロビーの横の服務員室に住み込みで働いているんですよ。
24時間勤務で、プライバシーなんてまるでない。それで賃金は150元
です。その2倍近くも郵電局は一瞬で盗ったんです。

ところが3〜4年前から、国際電話もきわめてクリアになりました。
幹線道路のすぐそばに、光ケーブルが埋められたんです。
ま上にコンクリートの標注が立てられました。「光ケーブルを守るの
は光栄、壊すのは恥」なんて書いてあります。
大同事務所にもファクスが入り、郵電局に通う必要はなくなりまし
た。

そうこうするうちに、携帯電話(手機)が普及してきました。
最初のあいだは、ステータスシンボルで、えらい人とお金持ちがこ
れみよがしに持ち歩いていました。
 その後、またたくうちに普及しはじめ、まずカウンターパートの
祁学峰主席がもち、つづいて武春珍所長がもち、魏生学副所長がも
ち、というふうに、私の回りでもエラい順にもちはじめました。

最初のあいだ、つながるのは市内と県政府所在地の狭い範囲でした。
農村ではまったく通じません。携帯電話は、圏外のほうが信号(中
国語では信息といいます)を探すためにバッテリーを消耗するよう
で、みんな充電に苦労していました。

ところがこの1〜2年のあいだに、少なくとも郷政府所在地の大きな
村には、高さ10数mのアンテナが立ちました。通信会社の大きなもの
が2社ある関係でしょう。隣りあわせで2本、アンテナの立っている
村もあります。
広大な中国の農村で電話を普及するには、有線より無線のほうがコ
ストが低いといったこともあるのでしょう。

私は日本国内でも、「あんなものをもつと酒がまずくなる」といっ
て携帯電話をもたなかったんですけど、中国ではもたざるをえなく
なりました。ツアーがたくさんくるようになり、しかも中途合流な
んかがふえて、連絡を密にする必要がでてきたんです。
01年の春、プリペードカード式のものを買ってきてもらいました。
こちらから用事があるとき、どこからでもかけられるのは、たしか
に便利です。
 いったんもつと手放せないように思えます。

この7月末のことです。大同県・陽高県・渾源県・広霊県という4つ
の県の県境に自然林があることがわかりました。
植生調査をしたいと考え、下見をしたんです。車道のすぐそばで、
調査をするには条件がいいんです。標高は1800〜2000メートルです。
 シラカンバが主ですが、そのほかに、トウヒ・カラマツなどの針
葉樹、ヤマナラシ、リョウトウナラ、ナナカマド、ミズキなどの落
葉広葉樹があり、樹種がけっこう豊富です。

 来年の夏には綿密に調査をしましょう、なんて話しあっていたら
、私の携帯が鳴るんですよ。 でてみると、大阪からです。
「原稿の依頼です。締め切りは8月12日で、字数は8000字です」なん
て連絡です。
 不便な時代になったものです。
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 特定非営利活動法人 緑の地球ネットワーク(GEN)


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