721−2.電気業界の空洞化



長谷です。

FさんとTさんの対談、興味深く読ませていただきました。
Tさんのお話し、いちいちもっともと頷くことばかりです。

実は私もベンチャー的なIT企業で仕事をしているものです。
その視点から知っていることや常々考えていることを幾つか付け加
えさせていただきたく思います。

1.電気業界の空洞化は1980年代から始まっており1990年代後半
  には完成されていた
私が知っているのは1980年代からですが、この頃から既に、電気、
コンピュータ業界は自社で消化しようとせずに積極的に外注に出そ
うとしていました。それはいわゆる「人貸し」つまり大企業の工場
に勤務(出向)してもらうが、人員は他社(子会社や協力会社)から出
してもらうというもので、これによって人件費を削減しようとの目
論見です。

現在これが極端に進み、大企業の人員は確かに減りましたが、一方
で大企業の方は課長クラス(マネージャー)の下に居る部下は全て他
社からの出向ばかりというのが珍しくなくなりました。
つまり技術を標榜する大企業なのに、自社には技術の蓄積はなされ
なくなってしまっているのです。大企業の外注管理を行うマネージ
ャは技術内容が分からない人も少なくなく、外注に丸投げするしか
ないのです。

別の視点で空洞化を考えてみましょう。
日本のコンピュータメーカは、何処も自社のみの技術で養ったパソ
コンやオフィス用サーバーコンピュータを持っていました。設計、
部品製造、装置製造、検査まですべて自社で行っていたのです。
しかしこれらの装置はいつの間にか IBM-PC 互換のパソコンに取っ
て代わられ、無くなりました。そのパソコンも、デスクトップや
サーバーは殆ど自社で設計していない状態です。部品も殆どは海外
から調達しています。製造、検査は外注に丸投げ。

2.何故新しい提案がベンチャーからだけ成されるのか
上のような状態なので、大企業には本当の意味での技術者が極端に
少なくなっています。この状態で大企業から目を見張る提案が出る
わけがありません。

一方でこういった大企業に嫌気がさし、優秀な技術者がどんどんド
ロップアウトし起業しているようです。昇進すれば技術の現場から
離れ外注管理者になってしまうこと(それも割と早い時期になる)も
その一因でしょう。技術者として優秀な人が経理や人員管理に優秀
というわけではありませんし、そういう人こそ自分が何に向いてい
るかを良くわきまえています。

このような人達には、大企業時代に提案したが採用されなかったア
イディアを沢山持っています。そのアイディアを起業して実現しよ
うと考えているわけですね。大企業よりフットワークが良いのもも
ちろんです。

3.何故、中小(ベンチャー)企業は自分で売らないか
売らないというより、売れない。
もちろん売れない製品を作っているわけではありません。

その原因の一つには日本にはブランド指向が根強いこと。つまり、
誰でも知っているような有名な大企業の製品は高価でも安心して買
うが、安くても見た事のない名前の中小企業の製品は、通の評判が
良くても一般の人は買わない。

しかし営業に割ける資金も体力も無い中小企業は、営業力を大企業
に依存したいと考えるが、自分ですべてを握りたい大企業は良いも
のであってもウンとは言いません。

もう一つは日本の流通体系が系列化しており、大企業であれば別で
すが中小企業がなかなか入り込めないところにもあるでしょう。
Web 上でのプロモーションや販売はこういった制約は無いが、実施
に製品を手にとって見、操作してみるということができないという
欠点が有ります。

4.日本の社会が技術者を育てるような環境ではなくなっている
ここ数年見聞きするものに正社員、外注問わず「即戦力になる技術
者が今すぐにでも欲しい」というのが多い。以前からもその傾向は
あったが特定の分野で「できる」技術者がいつも足りないのです。

しかしこの「即戦力になる技術者が今すぐにでも欲しい」というの
は、既に始まっているプロジェクトで、プロジェクトの進行状況を
チェックするとマンパワー不足が顕著になって従来の体制ではリカ
バリが不可能になってきたことをさしています。

その現象だけをみれば、そのプロジェクト管理者の能力の問題だが
、これがいつも日常茶飯事のようにこの業界で発生することに注目
しなくてはなりません。

もともとこの業界では、プロジェクトの開発期間が短く、従来の体
制を如何遣り繰りしても多少後ろに伸びるのを、双方承知で仕事の
発注/受注を行っていた慣習が有りました。

ところが前述のように大企業では既に本当の意味の技術者が育たな
くなってきているが、プロジェクトの完遂が至上命題であるので、
外注に頼ることになります。その外注先で足りなければ更に外注先
を探す、という按配です。

では下請けとなる中小企業で技術者を育てていないかといえばそう
ではないのです。育ててはいるがどんどん辞められるのが、本当の
技術者不足の原因です。そういう人達がその後も同じ業界で商売し
、技術者でありつづけてくれればいいのだが、全く関係のない業界
に転職、起業することも珍しくないのです。

この理由というのは、中々話したがらない人も居るので、一部推測
を含ませていただくが、要は待遇や環境の悪さがあるようです。

更に体力の弱い中小企業では新卒採用を減らす傾向が顕著です。
技術者に限らないが、ある程度仕事のできる熟練者というのは一朝
一夕にその領域に到達するものではない。一人前になるのに数年掛
かるのが普通です。その間は、失礼ながら新入社員は生産活動に寄
与できないお客様とみなくてはならない。仕事は出来無いが給料は
払わなくはならないが、これが存外、中小企業にとっては負担にな
っています。

そんなわけで技術立国であったはずの日本から、どんどん技術者が
減っている構図になっています。
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(Tのコメント)
長谷さん、私と同じように感じていらっしゃる方が居るというのは
心強いです。ご返事、ありがとうございます。

米国では、技術者を企業が育てないので、学校がその代わりをして
いる。日本もその方向にシフトせざるを得ないような感じがしてい
る。

私たちの会社でも、新入社員で優秀な人ほど転職する可能性が高く
、その対応策を検討している。また一方では、私のようなITとは
異分野では、その分野の技術者が不足していますが、建設業が不景
気であるため、技術者を応募すると、大勢集まる状態になっている
。そして、採用者は、自社要員より優秀な場合が多い。

このように新しい価値の創造が重要で、意外と多くの中小企業が
これに取り組んでいるようです。それに比べると、大企業の動きが
鈍いように思う。


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