717−2.緑の地球ネットワーク



きまじめ読書案内 
松井孝典・安田喜憲著
「地球文明の寿命 ー 人類はいつまで『発展』を享受できるか」
PHP研究所、2001年、1500円

1 はじめに:地球環境問題を議論する前提として

1992年にリオデジャネイロで国連環境開発会議が開かれて来年で10
年になるため、2002年9月に南アフリカのヨハネスブルグで「持続的
開発についての世界サミット」が開かれることになっている。

日本のNGOは、その場でいったいどのような問題提起をし、どのよう
な地球市民としての世論形成をするべきなのか、といったことを議
論する会議に出席してきた。(11月1,5日) また、会議では時間の制
約もあって十分に意見交換できないということで、メーリングリス
トによる意見交換にも参加している。

人間が相手の意見を「意味づけ」するのは、話の内容よりも、むし
ろ話し手の態度や表情によるという研究がある(「コトバの意味づけ
論」紀伊国屋書店1996年)が、メーリングリストでは顔も見えないし
、声も聞こえない。となると、書いてある内容だけで議論が進むと
思いきや、そんなことにはならない。

逆に顔の見えないMLの議論は、お互いに自分の言いたいこと、自分
の感じたことを言い合って、ちっとも前向きな議論にならない、
議論が深まらないのである。

目前に相手がいれば、相手のことを少しは思い遣るのだろうが、
パソコンの画面しかなければ、自分の意識だけに沿って議論してし
まうのかもしれない。お互いの言葉尻に過剰に反応してしまい、
重箱の隅を鋭い針でつつくような議論の応酬になる。

地球環境問題という具体的な議論の対象があるにもかかわらず、ML
の参加者が自分の関心事や自分の過去の経験にのみとらわれて、
自分の意識の殻に閉じこもった議論をしてしまうのは、実に不毛で
ある。

自分自身の意識の殻から逃れられないのは、おそらく、地球環境問
題と人類の未来(近未来で十分だが)に対する思いが、十分ではない
からだろう。自分自身を地球と考える、自分自身を人類全体と思う
、過去10年、100年、1000年の時間に人類が行ったことを振り返って
考えること。妥協やごまかしを排除して、とことん考え抜く切思精
思がわれわれ参加者に不足しているのだろう。

そのような切思精思ができて、自分という意識の枠から自由にもの
を考えられるようになれば、それはもはや悟りの境地である。それ
は決して生易しいことではないが、そのくらいの議論をしなければ
ならないところまで、事態は悪化している。

「そう思うのは得丸さんの勝手でしょ、僕はそうは思わない」とい
う人もいる。たったひとつの現実を前にして、主観の相違が生じる
のはどうしてなのか、もどかしい現実である。

これは各人が自分で考えるからいけないのだ。人間の思考能力は、
未経験の事態にはうまく機能しないのに。説得力のある専門家の意
見を聞けば、みんな少しは考えを改めないだろうかと思って、MLの
皆さんに必読書として推薦したのが本書である。

2 花粉の多弁性
安田喜憲さんは花粉化石を分析することによって、この地球が過去
太陽の周りを15万回公転した期間(つまり15万年)の、地域の生態系
の変化や気候変動を解明している。
花粉分析は、その土地の森林の生殖活動の記録である。花粉の多寡
が、森林量あるいは気候変化を著すだけでなく、花粉の種類が森林
の構成や農作物の種類も明らかにする。

安田先生によれば、人類は1万2千年前に農耕と牧畜を始めるなり、
森林破壊を行ってきた。今は乾燥して森林の姿のない中東のシリア
や昨今記録的な旱魃に苦しんでいる中国の黄土高原も、かつては豊
かな森林であったことが、花粉化石の読み取りで明らかになった。
人間が豊かな森林を禿げ山に変えてしまったのだ。農耕と牧畜とい
う営みそのものが環境破壊だという。

花粉の分析から、いくつもの文明が、水や森林の管理を過って過去
に滅亡していることがわかる。今や文明は地球規模に拡大した。
人間の欲望はとどまるところを知らず、欲望の赴くままの資源管理
やずさんな廃棄物管理によって、この惑星の文明は今や滅亡寸前で
ある。人間は、自己を厳しく抑制しなければならないときにきてい
る。

花粉分析と人間の歴史とを照合すると、たとえばギリシャ哲学や儒
教や仏教といった世界の哲学・宗教が出現したのは地球全体が寒冷
化していた時期だったということまでわかる。世界の各地で哲学や
宗教が同時期に花開いたのは、気候の影響があったのだ。気候が寒
冷化して、食糧生産がおいつかなくなり、人間の欲望をコントロー
ルするための精神革命が必要とされたと著者は推論する。

人間はよほど追い詰められないとものを考えないものらしい。

3 俯瞰と時間軸
松井先生は、惑星物理学がご専門だ。だからこの地球もひとつの惑
星として、客観的に見る、距離を置いて見る、長い時間軸で考える
ことがおできになるのだろう。

一般の人間に限らず、政治家や国家官僚やジャーナリストや哲学者
であっても、われわれの思考は悲しいくらい「今」と「ここ」とい
う場に束縛されている。人間という生き物が、毎日メシを食い、眠
り、排せつする動物だから、やむを得ないのだが、せめてエリート
たちは日々の生活や己の欲望から自由になってものごとを考えてほ
しいものだ。

実に残念なことだが、地球という惑星をひとつの閉じたシステムと
して客観的にあるいは即物的に理解できているのは、どうも理科系
の科学者に限られているようだ。彼らは口をそろえて、今のままで
は人類は滅亡する、と主張している。しかしながら、政治家もジャ
ーナリストも、自分に都合の悪いことは聞こえないらしい。

今地球上で起きている物質移動は、1年間で過去の1万年分にあた
るという。地下水も有限な資源であり、化石燃料と同じくらい貴重
である。現代の人間は、必要以上に動物を殺す悪の感覚を持ってい
る。猛烈な勢いで、地球は変わりつつある。だが、人間は「今」と
「ここ」しか見えないから、それに気づかないか、あるいは自分の
欲望を充足するために気づかないふりをしているのだ。

松井さんは、地球の自然資源が余剰として生み出すだけのものに依
存して生きていくストックの文明を作らなければならないという。
レンタルの思想ともいう。人間の都合や欲望にしたがって地球資源
を貪り食うのではなく、地球の再生力のペースに合わせた生活スタ
イルで人類は生活しなければならないのだと。

本書の中に「持続可能な開発」という言葉は一切登場しないが、
ここでいう「地球の余剰生産力に合わせた生活スタイル」こそが、
持続可能な生活といえるだろう。

しかし、現実には、有限な化石燃料や地下水などの資源を食いつぶ
し、捨て場のない廃棄物をばらまき続けているのが人類だ。

「人権、民主主義、市場経済といった考え方は、人間の欲望の無限
の拡大を前提にした人間中心主義の最たるものです。人間中心主義
でやっていくなら、人間圏は必ず破綻します。」

松井先生は、人類はこの環境危機にあたっても、自己抑制して、環
境破壊を食い止めることはできないだろうと予測する。すでに多く
の科学者が危機を指摘しているのに、それを厳重に受け止めて対応
している人や政府はほとんどない。環境問題への意識の高まりも、
本物ではないといい切る。おそらく何度も失望を味わって、諦めの
境地に達したのだろう。

おそらく100年以内に、地球上の人口は10億人規模にまで減少する。
そのときには、もはや人類による知的活動が行われることはない。
環境破壊による「猿の惑星」の現実化である。暗い未来だ。

それでも、松井先生と安田先生が、この本をお出しになったのは、
僕たちに思想の方向転換をせよと伝えたかったのだろう、人類全体
に欲望を抑えさせ生活スタイルの方向転換をさせたいからであろう
。僕たちに一縷の望みを託してくれたのだろう。

4 「持続可能な開発」幻想から目覚めよ
「持続可能な開発」という言葉は、きちんと定義されずに使われる
と、今のような資源食いつぶしの生活をしつつ、それを持続する道
があるかのような幻想を人々に与えないだろうか。そんなことはあ
りえないのに。

地球が毎年生み出す余剰の資源量には上限がある。化石燃料も、
森林資源も、海洋資源も。その上限値に合わせた人口と生活スタイ
ルを模索しないことには、地球は「猿の惑星」になってしまう。

自分自身の欲望を捨て去り、所属する民族や国家のエゴからも自由
になり、ひたすら地球と人類とその他の生物の現在と未来に思いを
馳せ、人類が地球環境と共生できる規模と関係を模索することが大
切なのではないか。

それこそが、今回のヨハネスブルグサミットに対して、日本のNGO
が提言できることだと思う。

得丸久文(2001.11.12)
==============================
 緑の地球ネットワークの報告会
各位、
中国の黄土高原で植林や井戸掘りのボランティアを行っている緑の
地球ネットワークが、その10年の活動を振り返る報告会を企画し
ています。
この緑の地球ネットワークのニュースレター「黄土高原便り」は、
なかなかに読み応えのある、心のこもったもので、インターネット
上でも読むことができます。
何をやるにしても、現場の体験談が大切です。どうぞみなさんふる
ってご参加ください。
得丸久文
******************************
 緑の地球ネットワークが、中国大同市で緑化協力をはじめて、
ちょうど10年です。成功と失敗の経験と教訓、最近の新しい動きな
どを報告いたします。ご参加ください。

 報告会『黄土高原緑化協力の10年』
    高見邦雄(緑の地球ネットワーク事務局長)

 日時:2001年11月22日(木)18時30分〜
  会場:立教大学池袋キャンパス
    太刀川記念館1階 会議室1・2
  (東京都豊島区西池袋3-34-1、会場の電話 03-3985-2948)

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
 特定非営利活動法人 緑の地球ネットワーク(GEN)
 552-0002 大阪市港区市岡元町3-9-16 元町ビル2F
 TEL.06-6583-1719 FAX.06-6583-1739
 E-mail  gentree@ma.kcom.ne.jp
 URL  http://member.nifty.ne.jp/gentree/
==============================
みなさまこんにちは。
得丸さんの、緑の地球ネットワーク報告会に関するメールを拝見し
、それにつられて私もメールしたくなりました。
(得丸さん、たいへんご無沙汰しております)

このMLに入っておられる方で、北京在住の方は少ないかと思います
が、北京でもこういうことをやっているよという意味でも流します
。別のメーリングリストでも流したものをコピーします。

北京環境ボランティアネットワークのHPも、皆様よろしければご覧
下さい。一番下にアドレスを記しています。
―――――――――――
 以下の要領で緑の地球ネットワーク(GEN)の講演会を行います。
参加ご希望の方は、私の方までご連絡下さい。

日 時  12月8日(土) 午後2時から4時半
会 場  北京大学医学部(旧北京医科大学) 西門入って右奥の
     公寓餐庁
 バス331 375 386 392 398 706 719
   722 743 748 810 902 944  
     北京航空航天大学下車 

テーマ  「黄土高原緑化協力の10年」
講 師  大阪に本部をおく緑化協力NPO法人「緑の地球ネット
     ワーク」      事務局長 高見邦雄さん
      URL  http://member.nifty.ne.jp/gentree/
             
申込先:会場の関係上、参加される方は12月6日までに御連絡くださ
    い。北京環境ボランティアネットワーク 
                 1367−134−5804
      bevnet@cocoa.freemail.ne.jp

「緑の地球ネットワーク」(略称GEN)は山西省大同市に拠点を
構え、水土流失の激しい黄土高原の緑化に10年間取り組んでこら
れました。
パートナーの大同市青年連合会と時にはぶつかり、時には涙しなが
ら共に幾多の試練を乗り越えて来た高見さんおよびGENの業績に
敬意を表し、中国政府は今年、「友誼奨」を贈りました。独特の語
り口で現地でのあれこれを綴った高見さんのエッセイ「黄土高原だ
より」は日本人のみならず、中国人にも好評で、BEV−NETの
メーリングリストにも流していただいています。年末の一仕事を終
えて、帰国される前日にお立寄りいただけることになった貴重な
この機会に是非多くの方の御参加をおまちしております。 

また当日は講演終了後、会場にて高見さんを囲んで、交流夕食会を
行います。(会費10元程度を予定)
夕食会参加希望者は申し込み時に申し出てください。
――――――――――――――――――
以上。

*************************
大野木 北京大学 都市・環境学部修士生
E-mail; onogi@mint.freemail.ne.jp  携帯電話:1367-1345-804
北京環境ボランティアネットワーク
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/7714/


コラム目次に戻る
トップページに戻る