709−1.ビッグ・リンカー達の宴



YS/2001.11.08
     ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−1

 国際的な企業間ネットワークを担うべく、複数の国籍の異なる
大企業の取締役を兼任する「ビッグ・リンカー」と呼ばれる人達
がいる。彼らの発言は、企業活動のみならず、政治、防衛、社会
福祉、環境政策においても絶大な影響力を持っている。

 2001年9月11日の同時多発テロの「前」後から彼らの動
きが慌ただしくなっている。
 
■カーライルの宴

 10月26日、米AP通信は、ビンラディンの親族関係者の話
として、ビンラディン家は軍需産業と関係の深い米投資会社カー
ライル・グループに行っていた202万ドル(約2億4600万
円)相当の投資を引き揚げることを決めたと報じた。
 
 サウジアラビアの中東有数の建設会社を経営するビンラディン
家は、米国を含む世界の大企業に幅広く投資しているが、同時テ
ロ以前からサウジアラビアを追放されていたウサマ氏とは既に絶
縁していると表明している。
 
 カーライルは、カールーチ元国防長官を会長とし、上級顧問に
はジェームス・べーカー氏、諮問委員会にはブッシュ元大統領
(以下ブッシュパパ)やイギリスのメージャー元首相も名前を連
ねるなど米英政権と太いパイプを持っている。

 昨年もブッシュパパとメージャー氏は、サウジアラビアの実業
家と会談を行うためにリヤドを訪問している。また9月には、ワ
シントン・モナーク・ホテルで豪華なパーティーを主催し、この
時にはコリン・パウエル現国務長官とパウエルが取締役を務めて
いたAOLタイムワーナーのステファン・ケース会長が講演者
として雇われて壇上に立った。

 このカーライル・グループの宴は、世界中を巻き込みながら新
たなステージを演出していく。

■ジェームス・ベーカーとEDS

 ジェームス・べーカー氏は、1985年から1988年まで、
レーガン政権の財務長官としてプラザ合意をまとめ上げ、198
9年から1992年までは、ブッシュパパ政権の国務長官として
湾岸戦争を指揮した。

 また記憶に新しいところでは、ブッシュVSゴアの最終決戦の
場となったフロリダ州での再集計作業でも、ブッシュ陣営を代表
して現地に乗り込み、勝利の立役者となる。

 フロリダ州は、ブッシュ大統領の実弟のジェブ・ブッシュが知
事を務めているが、現在全米を揺るがす炭疽菌問題で最初に被害
にあった場所でもある。このあたりに何かが隠されているのかも
しれない。

 ジェームス・べーカー氏は、カーライル・グループ以外に19
96年からエレクトロニック・データ・システムズ(EDS)の
社外取締役も務めている。

 このEDSは、総売上高192億ドル(2000年度)の世界
最大の情報処理サービス会社である。大統領選にも出馬して旋風
を巻き起こしたことのあるロス・ペロー氏が1962年に設立し
た。1994年にはペロー氏がゼネラル・モーターズ(GM)に
EDS株を売り渡し、子会社化される。この時にGMの世界的ビ
ジネス・ネットワークをフルに活用することにより世界戦略構築
の基礎が作られる。1996年にGMから分離独立するが、現在
でもGMは、EDSの大株主として強い影響力を維持している。
 また1995年には世界有数の経営経営コンサルティング会社、
A・T・カーニーを買収し、コンサルティング事業とアウトソー
シング事業を強化してい
る。

 今年の入ってEDSは再び買収戦略を開始する。5月23日に
ストラクチュラル・ダイナミクス・リサーチ(SDRC)とユニ
グラフィックス・ソリューションズ(UGS)の買収を発表し、
SDRCの買収手続きを9月4日に、またUGSの買収手続きを
9月28日に完了する。

 そして10月1日には、両社を統合し、プロダクト・ライフサ
イクル・マネジメント(PLM)事業への本格的な参入を発表す
る。抱える製品は三次元CAD/CAM「アイディアズ」「ユニ
グラフィックス」「ソリッドエッジ」、製品データ管理ソフトの
「メタフェーズ」「アイマン」など多岐にわたり、包括的なサー
ビスを提供する唯一のプロバイダとなる。とりわけ日本の製造分
野への影響は計り知れないものとなるだろう。

 このEDSの1996年以来の大手販売先にロールス・ロイス
がある。2000年度の契約額は21億ドルとなっているが、こ
のロールス・ロイスはすでに自動車部門をフォルクス・ワーゲン
に売却しており、戦闘機を含めた航空機エンジン部門を中核にし
た企業となっており、世界の旅客機エンジン市場の三分の一を占
めている。

 また買収したSDRCも航空宇宙産業トップ10企業のうちの
ボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン等
大手7社をサポートしている。また今年3月には、ロールス・ロ
イスと並ぶイギリスの軍需大手BAeシステムズとも提携してお
り、軍事面における強力なリーダーシップを構築しつつある。

 なお、下のEDSの2000年度取締役会メンバーを開いてい
ただきたい。

http://www.eds.com/investor_relations/ir_proxy_proposalsa.shtml

●Richard B. Cheney, 59

●Ray L. Hunt, 56

 現在のチェイニー副大統領とそのチェイニーがCEOを務めて
いた石油関連サービス会社ハリバートンの社外取締役、ハントオ
イルのレイ・ハントCEOがジェームス・ベーカー氏と仲良く並
んでいるのである。なおチェイニー副大統領もブッシュパパ政権
では、国防長官としてパナマにおける「大義作戦」、そして中東
における「砂漠の嵐作戦」という、近年の歴史上最大の2つの軍
事作戦の指揮をとった。ブッシュパパの果たせなかった夢を実現
すべく、時には忍者のように姿を隠しながら陣頭指揮にあたって
いるようだ。

 そして、「ロッキード・マーチン」「ロールス・ロイス」「B
Aeシステムズ」が、揃って登場するニュースが飛び込んできた。

■JSF(ジョイント・ストライク・ファイター)

 米国防総省は、10月26日、空軍、海軍、海兵隊、及び英空
軍向けの次世代主力戦闘機「JSF」の発注先企業に米大手航空
機メーカー、ロッキード・マーチンを選定したと発表した。JS
Fは合計3000機製造される予定で、総契約金額は2000億
ドル(約24兆6000億円)となり、米軍の契約額としては過
去最大となる。

 また27日付の米紙ワシントン・ポストは、米国外からさらに
3000機を受注する可能性があると報じている。同紙は204
0年まで生産予定のJSFを「今後半世紀にわたり、世界を支配
する最後の有人戦闘機」と指摘した上で、各国軍隊の発注を予想
している。当然のことながら、日本に対する導入圧力がかかって
くるだろう。

 また、JSFの生産拠点となるロッキード・マーチンのフォー
トワース工場は、ブッシュ大統領の地元、テキサス州にあり、新
たな雇用は約4500人との見方さえある。

 今後50年間でみると、補修備品なども含め1兆ドル(約12
0兆円)を超えるビックビジネスになるとの予測もある。この計
画が発表された1996年当時には、計画そのものに対する見直
し論も議論されたが、今回の同時多発テロはそうした反対勢力を
も吹き飛ばしたようだ。

 このJSFの開発には、BAeシステムズとロールスロイスが
加わっている。「BAeはロッキード・チームの一員であること
を誇りに思う」と間髪入れず声明を出した。BAeはJSFプロ
ジェクトで開発・生産の10%を担い、米GEエンジンが主導す
るエンジン開発ではロールスロイスが40%を分担する。今回の
報復作戦において常に行動を共にしたイギリスの狙いがここにあ
ったようだ。

 また、テキサス州フォートワース所在のロッキード・マーチン
・タクティカル・エアクラフト・システムズは、JSFを開発す
るノースロップ・グラマンやBAeシステムズ等から成るチーム
を指揮していたが、1999年5月にSDRCの「メタフェーズ」
を共通PDMツールとして選択していたのである。

(つづく)
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YS/2001.11.08

    ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−2
■カール・オットー・ぺール
 1998年6月1日に発足した欧州中央銀行(ECB、本部ド
イツ・フランクフルト)は、ドイツ・ブンデスバンクをモデルに
しており確固たる独立性を有している。このECBの規約作りに
貢献した人物こそが、1980年から1991年までドイツ連邦
銀行総裁を務めたカール・オットー・ぺール氏である。

 現在カール・オットー・ぺール氏は、ドイツの投資銀行サル・
オッペンハイムとその親会社であるスイスのサル・オッペンハイ
ム銀行の取締役である。また、アメリカでバリュー株投資で著名
なマリオ・ガベリ氏が率いるガベリ・アセット・マネジメントの
取締役でもある。かっては、J・P・モルガンの国際諮問委員会
のメンバーを務め、1992年から1997年まで世界的な食品
・日用品メーカーであるユニリーバと石油メジャーロイヤル・ダ
ッチ・シェルの取締役を務めた。またフレッド・バーグステン所
長率いる国際経済研究所所長(IIE)の役員も務めている。
 
 そしてこのカール・オットー・ぺール氏もカーライル・グルー
プの諮問委員会のメンバーとなっている。さらに2000年7月
25日にロールス・ロイス・ドイツは、戦略的な諮問会議である
「ヨーロッパ諮問委員会(本部パリ)」の新設を発表し、そのメ
ンバーにカール・オットー・ぺール氏を選任しているのである。

 ロールス・ロイスは、買収拒否権のある「黄金株」をイギリス
政府が保有する国策的重要企業と位置付けられており、今なお外
国人出資規制(上限49、5%)も残るだけあって、「ロールス
・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」には、元フランス空軍のヴァ
ンサン・ラナータ将軍やシラク大統領の側近中の側近ベルナール
・ポンス元設備・運輸・住宅・観光大臣等の大物と並んでビッグ
・リンカー達が集っている。

■ウォーレンバーグ・ファミリー

 「ロールス・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」のスウェーデン
代表として名を連ねるピーター・ウォーレンバーグ氏は、スウェ
ーデンのロックフェラー家として注目を集めるウォーレンバーグ
(ヴァーレンベリ)一族にあたる。

 スウェーデン3位の大手銀行であるSEB(スカンジナビスカ
・エンスクリダ・バンク)と持ち株投資会社インベスターを中核
に、国内の通信機器大手エリクソン、家電・厨房機器大手エレク
トロラックス、航空機大手サーブ、産業機材大手アトラス・コプ
コ、ヘルスケア大手ガンブロ、素材エンジニアリング大手サンド
ビックや国外ではスイス本社のエンジニアリング最大手ABB
(アセア・ブラウン・ボベリ)、イギリスとスウェーデンに本部
を置く世界3位の製薬会社アストラゼネカなどを傘下に持つ巨大
企業グループである。

 また一族の資産を管理するナット・アンド・アリス・ウォーレ
ンバーグ財団は、ノーベル賞で知られるノーベル財団の最大のス
ポンサーのひとつでもある。ジャコブ、マーカス、ピーターの一
族三人に加え、ビッグ・リンカーがここに集う。

●ヨーラン・リンダール
※ABB前社長兼CEO、現取締役。デュポン(米国、化学最大
手)、※エリクソン、※ソニー(日本)取締役。※ソロモン・ス
ミス・バーニー・インターナショナル(米国)国際諮問委員会メ
ンバー

●ピーター・サザーランド元WTO事務局長
BPアモコ(英国、石油大手)会長。ゴールドマン・サックス・
インターナショナル会長。※エリクソン、※インベスター、スコ
ットランド王立銀行取締役。
日米欧委員会欧州議長。※ワールド・エコノミック・フォーラム
財団(ダボス会議主催)役員。ヨーロピアン協会ディレクター。

●ドナルド・ラムズフェルド現国防長官(米国)
ギリアド・サイエンス(米国)元取締役会長、※ABB、アミリ
ン製薬(米国)元取締役。※ソロモン・スミス・バーニー・イン
ターナショナル(米国)元国際諮問委員会会長。※インベスター
元アドバイザー。ジェラルド・R・フォード財団、アイゼンハワ
ー交流奨学基金、スタンフォード大学フーバー研究所、国立公園
財団、ランド研究所理事。

 昨年、インベスターの所有するサーブの自動車部門の株式50
%をGMに売却し、サーブの自動車部門はGM資本100%とな
る。これに対抗し、フォードは同じスウェーデンのボルボの自動
車部門を買収するが、トラック・バス・産業機器・航空機部門を
有する現在のボルボに対して、インベスターは、新たに触手を伸
ばし始めている。

 なおGMとウォーレンバーグ・グループは、以前から密接な関
係を維持してきた。グループ中核のインベスター、ABB、アス
トラゼネカ、サンドビックの4社の会長を兼任するパーシー・バ
ーネル氏が、1996年からGMの社外取締役に就任しており、
M&Aを含めた政策を協調して行っているのである。

 パーシー・バーネル氏は世界的に評価の高い経営者であるが、
ダボス会議を主催するワールド・エコノミック・フォーラム財団
の副会長を務めている。

 なおワールド・エコノミック・フォーラム財団には、ウォーレ
ンバーグ・グループからバーネル氏とサザーランド氏の2名が、
ワールド・エコノミック・フォーラムの評議会には、ジャコブ・
ウォーレンバーグ氏が参加している。

 現在のスウェーデン・サーブには、ウォーレンバーグ・グルー
プと並んで、BAeシステムズが33%の株式を保有している。
またその取締役会は、ウォーレンバーグ・グループからマーカス
・ウォーレンバーグを含めた4名とBAeシステムズからの3名
が中心となって構成されている。

 さて、ヨーラン・リンダール氏であるが、今年9月にソニーに
続いてアングロ・アメリカンの副会長に就任している。

 そして、11月7日、ワールド・エコノミック・フォーラムは、
2002年のダボス会議をニューヨークで開催すると発表した。
欧州のビッグ・リンカー達がニューヨークを占領するのである。

■パウエル卿(The Lord Powell of Bayswater)

 現在イギリスのブレア政権は、貴族院(上院)に一部残ってい
る「世襲貴族」を議員にする制度の全面廃止に向けた改革に取り
組んでいる。実現すれば、14世紀に誕生し世界有数の歴史を誇
る上院は、完全に姿を変えることになる。

 この上院にも「ロールス・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」の
イギリス本国のメンバーがいらっしゃるのである。サッチャー元
首相とメージャー元首相の外交政策と防衛政策におけるアドバイ
ザーを務めたベイズウォーターのパウエル卿(男爵)である。イ
ギリス貴族を代表するビッグ・リンカーでもある。その肩書きの
一部を紹介しよう。

●ジャーデン・マセソン・ホールディング元会長
(英国/香港、商社、1832年設立)
●ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーLVMH会長(英国)
●ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーLVMH取締役(フランス本社)
●サギッタ・アセット・マネイジメント会長(英国)
●フィリップス・ファイン・アート・オークション会長(英国)
●キャタピラー取締役(米国、重機、建設機器、戦車製造)
●テキストロン取締役(米国、航空機、産業機器、軍事用ヘリコプタ
  ー製造)
●マンダリン・ホテルグループ取締役
●HCL・テクノロジーズ国際諮問委員会(インド、情報ソリューシ
  ョン他)
●バリック・ゴールド国際諮問委員会(カナダ、金鉱会社)

●中国−イギリス・ビジネスカウンシル議長 
●シンガポール−イギリス・ビジネスカウンシル会長
●オックスフォード大学ビジネススクール理事長
●GEMS国際諮問委員会メンバー

●アスペン研究所理事※※


 ルイ・ヴィトンとくれば、さぞかし日本女性も興味津々となる
に違いない。しかし、バリック・ゴールドもあなどれない。今年
6月にアメリカのホームステーク・マイニングを買収し、アング
ロ・アメリカン傘下のアングロゴールド
に次ぐ世界第二位の金鉱会社となる。

 そして、このバリック・ゴールドの国際諮問委員会の初代上級
顧問がブッシュパパであり(現在は退任)、カール・オットー・
ぺール氏もそのメンバーとなっている。

 ゴールドに群がるようにカーライル・グループとロールス・ロ
イスと貴族達がなにやら不思議なサークルを構成しているようだ。

 そして、忘れてはならない人物がいる。第一線から退いたはず
の大物がここに復活してきたのである。そして彼もカーライル・
グループのパートナーである。

 彼の名はあのジョージ・ソロスである。

                        (つづく)

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