693−2.浜辺のゴミから学ぶこと



今週韓国に出張したのは、富山で私の勤務している財団が行ってい
る海岸での漂着ゴミ調査について国際会議で発表するためだった。
 
1 浜辺のゴミ拾い調査
 
富山県では6年前から、浜の近くの小学生たちの力を借りて、浜辺
に漂着するゴミについての調査を行っている。
 
浜辺には、洗剤の容器や缶飲料の空き缶や漁具などその他もろもろ
のゴミが漂着していることを実際に目にしたことのある方も多いの
ではないか。プラスチックや発泡スチロールや金属などは耐水性が
強く、いつまでも分解されないまま海中を漂い、ときどき浜辺に打
ち上げられる。
 
夏の海水浴の時期などは、海の家や地元の町内会などがそれらの漂
着ゴミを集めて焼却していたりするのだが、シーズンを過ぎるとそ
のような活動も少なくなるので、浜辺はゴミまみれだ。
 
それに、いくらゴミを拾っても拾っても、次から次へとゴミは浜辺
に打ち上げられる。ゴミ拾いの無間地獄になることがわかっている
ので、気安くボランティアを募ることもできない。また、波や風の
作用によって、浜辺に大量にゴミがあっても、一夜にして全て消え
てなくなるということもあるそうだ。
 
富山県では、毎年小学生たちが集めたゴミの種類や数や重さを記録
して報告書を作っている。一年に一回だけゴミを拾ってその数や量
を記録しても、その数字にいったいどんな意味があるのか、私も最
初のうちはわからなかった。
 
2週間前に実際に子供たちに混じって、高岡市内の海岸でゴミ拾い
と、その後の分別と計数・計量に参加してみた。
 
浜辺に10mx10mの区画を4つ作って、それぞれの区画ごとに
10数人の子供たちがゴミを拾うのだが、最初選んだ区画にはゴミ
が多すぎて到底1時間では拾いきれないと主催者側が判断し、もう
少しゴミの少ない区画に変えたりもした。こんな小細工をして、ゴ
ミの数や重さの情報は無意味ではないかと一瞬思った。
 
ゴミを拾っているうちに、雨がちらつきはじめたので、それぞれに
ゴミを学校の体育館に持ち帰り、体育館に敷いたビニールシートの
上で、ゴミを分別し計数・計量することにした。
 
2 ゴミとの対話
 
子供たちがひとつひとつのゴミを仕分けし、数を数え、秤で重さを
測る作業に付き合っているときに、突如として気がついた。
 
海岸で拾われてきたゴミは、すべて一旦誰かがそれを買い求めて、
その後で、故意や過失によって、海に流れ込み、ゴミとなったのだ
。全て人間の責任である。
 
ちょっと想像してみてほしい。心ない人が海の中に投げ捨てたゴミ
もあるだろうが、たまたま道路に落ちたペットボトルのフタや空き
缶が、雨水によって海まで運ばれるということも結構あるに違いな
い。川に流れても、雨水溝に流れ込んでも、結局最後は海にたどり
つく。
 
波や風の作用によって、浜辺のゴミの数が減ることもあるけれども
、それはゴミが海洋中に戻るだけのこと、あるいはどこか別の浜に
打ち上げられるだけのことであり、一見浜辺はきれいになったよう
に見えるけれども、海洋のゴミ汚染は変わらない。ゴミ汚染の問題
は、浜辺の問題ではなく、海洋の問題であったのだ。
 
浜辺で子供たちが集めたのは、とりあえず目に見え、手で触ること
のできるゴミだけだった。海洋には、それ以外にも、合成界面活性
剤やPCBや化学薬品などが流れ込んでいるが、それらは目に見えにく
いだけだ。これらの汚染まで考えると、実に大変なことになる。
 
たとえば、浜辺でゴミを野焼きしている風景をときどき見るが、ひ
と雨くればそこで発生したダイオキシンやPCBなどはそのまま土中や
海洋中に流れ込むことになる。これも実に恐ろしいことではないか。
 
3 どうしたらゴミはなくなるか
 
いったいどうしたらゴミは、なくなるのだろうと考えてみた。
 
「人口爆弾」という本を書いたスタンフォード大学のポール・エー
リック教授によれば、人間が環境を破壊するインパクト(I)は、 
I = P x A x T という式によっておおよそ表すことができるという。
ここでPとは、人口(Population)、AとはAffluence(生活の豊かさ)
、TとはTechnology(技術、たとえば耐水性の石油化学製品を作り出
す技術)をいう。環境破壊インパクトは、人口と、豊かさと、技術
の相乗効果によって増大するというのだ。簡単な式であるだけに、
説得力をもつ。
 
ゴミによる海洋汚染についても、そのままI=P x A x T の式が当て
はまるのではないだろうか。ゴミによる海洋汚染は人口と生活の豊
かさと技術力のそれぞれの相乗効果によってその激しさを増す。
 
つまり、100年前に比べると、人類は数十倍の破壊力を身につけ
て、海洋を汚染しているということになる。また、現在のように人
口が増え続け、豊かな生活スタイルが全世界に広まり、石油化学製
品などをつくり続けているかぎり、海洋汚染はますます広がること
が予想できる。
 
海洋汚染の場合には、いったん流入したゴミがそのまま海中を漂い
続ける場合が多いので、I = P A T の式よりも、積分値∫I として
汚染はどんどん累積していくことも考えられる。これから数十年あ
るいはもしかすると数年のうちに、実に深刻で取り返しのつかない
状態にまで汚染が一気に進むかもしれない。
 
つまり、海洋汚染は、人類が今のような生活を続けているかぎり、
なくならず、深刻化する一方なのだ。
 
4 希望のない暗いシナリオ
 
私の発表はここで終った。聴衆のひとりは、「大変印象深い発表だ
ったが、結末が暗すぎる」と言った。私もそう思う。しかし、それ
以外には、希望のない暗いシナリオ以外には、考えようもないとい
うのが正直なところだ。
 
会議に招待されていた日本大学の先生は、よく三番瀬を調査するそ
うだが、台風の後など洗濯機や冷蔵庫まで打ち上げられることがあ
るのだそうだ。電化製品の引き取りが有料になったために、こっそ
り夜影にかくれて海に投げ捨てる不心得者がいるようっだ。
 
みんなは海は無限だと思っているのかもしれないが、62億人の人
類の前では、巨大な海ですら、湖と同じように汚染されてしまう。
 
人類が異常繁殖してしまったことが、最大の環境問題なのだ。
 
得丸久文(2001.10.20)
 
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白鳥です。
得丸さん本当に考えさせる問題ですよね。
 
私も空も海洋保護活動をなさっている方からの個人メールで
実態を知って嘆いていました。
 
特に空は自分は「海から生まれたのだ。だから私の産みの母
は地球なのだ」といつも話しています。そして空は疲れたり情緒
が不安定になったりすると「母と語らってくる」と海に出かけて行
きます。母なる海が励ましてくれることを感じるのだそうです。
 
つい先日も空は「海へ行ってきた」と事務所に来たときに「海は
嘆いている」「目に見えるゴミよりもっといやな目に見えない毒に
母は病気になっている」と言っていました。このことなんですね。
 
「母なる地球が自分の望まない姿に変えられていくのを黙って許
しているはずが無いじゃないか。必ず人類は『しっぺ返し』を食う
ことになる」と話していたことを思い出しました。
 
愚かな人類は全ての富を地球から与えられていることを忘れ、「感
謝」の替わりに「ゴミ」と「有害物質」を返しているんですよね。
言葉を発しない地球をいいことに、私だったら「バカにするな」って
言いますよ絶対!
 
この問題は大変に困難の付きまとうことですが、地球の「怒り」
「報復」を考えたら時間との戦いなのではないでしょうか。もっと
もっと大きく取り扱って欲しいと思います。


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