620−1.アルゼンチンの教訓



アルゼンチンの現状は、日本の反面教師的ですので、その歴史を見
たいと思います。    Fより

アルゼンチンはスペインから1816年に独立した。スペインは
南米の植民地を3分割して、副王を置いたが、その内のラプラタ副
王領(1776年創立)が、現在のウルグアイ、パラグアイ、ボリ
ビアとアルゼンチンを統括していた。そこからの独立であった。
この首都がブエノスアイレスであったため、昔のヨーロッパを再現
している。第2のパリと言われる所以でもある。

アルゼンチンは、面積277万9221Km2で日本の約7.2倍
に、そこに人口3613万人で日本の1/4が生活している。首都
の人口303万人であるが、首都圏では800万人と全人口の
約1/4弱が集中している。人口の97%はスペイン人、イタリア
人で先住民は3%と他の南米諸国とは違い先住民は少ない。そして
、ユダヤ人が50万人と多いのが特徴である。宗教もカトリックが
ほとんど。識字率も高く96.5%と南米の他諸国とは違う。
イタリア語はスペイン語に近いため、数週間でイタリア人はスペイ
ン語を話せるようになるそうだ。このためイタリア人がスペイン人
より多い。

南米では第2の経済大国でGDPは2829億ドル、ブラジルは、
7750億ドル。一人当たりでは7734ドルとブラジルの4790
ドルより多い。一人当たりでは韓国が8684ドルであるからそれ
より下のレベルで、中国の782ドルとは10倍違う。ちなみに
一人当たり日本は3万5715ドルと50倍違う。

アルゼンチンとはスペイン語でシルバー(白金)のことであるが、
白金も金もアルゼンチンは産出しない。石油がコモドロ・リバダビ
アで産出するのと、石炭が出るが、他の鉱物資源はあまり産出しな
い。

アルゼンチンは2つの地域に分けられる。1つが、パンパで、温暖
な乾燥気候の地域。もう1つがパタゴニアで、寒冷乾燥気候の地
域。パタゴニアは羊の粗放牧畜しかできない不毛の地域で、あまり
人も住んでいない。コモドロで石油が産出したため、その地域には、
少し人が住んでいる程度。このため、大都市のほとんどはパンパに
ある。

スペインから独立したが、社会構造を覆すことができず、社会は依
然として厳重な階級社会で、土地は大所有者のものであり、農業労
働者は低階級と峻別されている。

1816年に独立したが、あまり動きがなかった。しかし、1946
年、デスカミサドス(貧しい人たち)がペロンの妻エヴァに導かれ、
ペロンを大統領に選出する。このペロンが社会構造を変革しようと
した。まず、工業化に着手した。パンパを小麦生産地だけでなく、
1880年に開発された冷蔵庫により肉をヨーロッパまで輸出でき
るようになったため、パンパで肉牛の牧畜も始めた。このため、
1950年代には、世界的にも裕福な貿易国家になるのです。

しかし、エヴァが1956年に死ぬとペロンも国外追放となりスペ
インに亡命した。1956年から、再度権力は上流階級のものにな
り、工業開発は破棄される。このため、社会は停滞した。このため
、軍部が危機感を持ち、1973年に軍部が政権を奪取して、ペロ
ンを呼び戻すが、直ぐに死去。その時の妻イザベラが大統領を継ぐ
が、直ぐに追い出される。

その後10年間、軍事評議会が支配する。この軍事支配の間に、
反対派の人を3万人以上抹殺したようだ。現在も行方不明になって
いる。1982年にフォークランド紛争が起こる。たった数日で
英国はアルゼンチン軍を打ち破る。この紛争後、ハイパーインフレ
になり、軍事政権は崩壊する。

1983年に民政移管され、アルフォンシンが大統領になる。しか
し、国営企業の民営化が遅れ、ハイパー・インフレになり、食糧暴
動が起こり15人が殺され、1989年にアルファンシンは辞任す
る。

1989年、メネム政権は自由化政策を行い、10年で経済は43
%成長するが、政府の財政支出が90%以上、大きくなってしまっ
た。政府の浪費を止めようと、1999年の大統領選挙で選ばれた
デラルアは努力したが、外国起債の国債がデフォルトしてしまった。

この3年間リセッションが続いていた。このため、大統領にオプシ
ョンがない。公共機関の使いすぎの歴史とGDPの半分1280億
ドルの外国起債の国債とで、投資家の忍耐が限度を超えたのだ。
このため、投資家は逃げた。そして、16%の失業が起こり、かつ
ビジネスの多くが倒産した。国家公務員の給与も16%以上減額と
なっている。公共事業も全面中止。

このため、米国の下部IMFがアルゼンチンに手を差し伸べたが、
ハイパー・インフレになることは、確実だ。

そして、このデフォルトへの道を今、確実に日本も実行しているの
です。早く、その道から正常な経済に戻る必要があるのです。
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・アルゼンチンの1970年代の軍事政権下で、行方不明になって
いる3万人以上の人の記念碑
http://www.desaparecidos.org/arg/eng.html
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外務省HPより
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/argentine/index.html

 長年の国家主導型経済政策の後、構造改革が立ち遅れ、アルフォ
ンシン政権の末期にはハイパーインフレ等経済混乱を招来。
 メネム前政権は、91年4月に発表した外貨取引の自由化と外貨準備
高に応じた通貨供給量の制限及び財政均衡等を骨子とした兌換法に
より、物価と為替の安定を達成する等、自由開放経済政策を推進。
同時に民営化、各種規制緩和、輸出促進を積極的に進め構造改革を
推進。この結果、投資の増加がみられ、91年から94年まで平均8.9%
の高い経済成長を記録した。94年末のメキシコ金融危機の影響によ
る資金調達困難と厳しい緊縮財政により深刻な不況に直面し、先行
不透明な情勢にあったが、96年以降回復。アジア経済危機の影響は
株価下落を除いてほとんど波及しなかった。99年にはブラジル金融
危機の影響が懸念され、投機的な市場の動きもあり、景気は低迷し
、2000年に入っても回復は遅れている。2001年3月、競争力強化(金
融取引先税、関税率改訂等)を可決。同年4月、改正兌換法(ドル、
ユーロの通貨バスケット)も可決。
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IMF:アルゼンチンへの対応、米政策実効性のテストケースに 
2001.08.04 毎日
 
 【ワシントン逸見義行】国際通貨基金(IMF)が3日、アルゼ
ンチンの金融通貨危機が再燃した場合に備えて、ブラジルに150
億ドル(約1兆8500億円)の新規融資枠を設定したのは、ブッ
シュ米政権が打ち出した「IMFの役割は危機の未然防止重視」(
オニール米財務長官)という考えに沿ったものだ。アルゼンチンへ
の対応は、ブッシュ政権の国際金融システムに対する政策の実効性
を示すテストケースになりそうだ。
 ブッシュ政権は、97年にタイから起きた金融通貨危機が世界に
波及した際のクリントン政権の対応について、「1000億ドル以
上の国際的な金融支援策をまとめながら世界経済の40%を深刻な
不況に陥れた」と批判。「安易な金融支援は危機に見舞われた国の
回復を遅らせるだけ」(米財務省)との考えも明らかにしている。

 このため、ブッシュ政権発足後は、IMFなど国際金融機関によ
る支援だけを行い、2国間支援を含まないトルコのケースを「モデ
ル」と位置づけてきた。

 今回も、危機に見舞われたアルゼンチンに対しては、テーラー米
財務次官を派遣し、財政赤字削減を進めるアルゼンチンを米政府が
全面支援する姿勢を明確にしたうえで、融資枠の前倒しという形で
既存の支援態勢を維持。個別の国の危機対応はあくまでも自己責任
が柱という哲学を変えなかった。一方で、中南米に危機が波及する
のを防ぐためブラジルに150億ドルもの融資枠を設定し、予防ラ
インを張り、危機の未然防止に最大限の努力を払う方針を内外に
鮮明にした。

[毎日新聞8月4日] ( 2001-08-04-22:07 )
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IMF:ブラジルに150億ドルの新規融資枠を設定 
2001.08.04 
 
 【ワシントン逸見義行】国際通貨基金(IMF)のケーラー専務
理事は3日、金融通貨危機が南米に波及することを防止するため
ブラジルに対して150億ドル(約1兆8500億円)の新たな融
資枠を設定する方針を明らかにした。震源地として金融危機の再燃
が懸念されるアルゼンチンに対しても、12億ドルの融資予定を
1カ月早めて今月に実施する考えを示した。
 IMFは、97年のアジアの金融通貨危機への対応が後手後手に
回ったことを教訓に、危機に先手を打つ作戦に出た。国際金融市場
に対し、危機を再燃させないという決意を示す意味もこめられてい
る。

 ブラジル向けの新規融資枠は02年12月まで利用可能。9月の
理事会で承認される予定で、承認されれば、46億ドルの融資が
すぐに利用できる。金融関係者にとって予想外の対策で、IMFが
、アルゼンチンの経済状態を予想以上に深刻に受け止めていること
を示している。

 アルゼンチンへの前倒し融資は、昨年12月に合意したIMF中
心の397億ドルの国際支援策の一環だ。今回を含めてIMFによ
る融資実行額は73億ドルに達する。先月末にアルゼンチンが財政
赤字ゼロ法案を成立させ、財政赤字削減に道筋をつけたことを評価
し、赤字削減を支援することを狙っている。

 アルゼンチンの危機が再燃すると、これが中南米へ広がり、米経
済を直撃するおそれがあることから、米政府は危機再燃回避に懸命
だ。テーラー財務次官(国際金融担当)を2日、アルゼンチンに
派遣したほか、ブッシュ米大統領が3日、英国、スペインの首相と
電話会談してアルゼンチンの財政赤字削減政策を支持する姿勢を打
ち出しており、今回のIMFの新たな対応と呼応した動きを展開し
ている。

[毎日新聞8月4日] ( 2001-08-04-11:12 )
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アルゼンチン:経済危機の中、政府の財政削減案を可決 上院 
2001.07.31 
 
 【メキシコ市・吉田弘之】深刻な経済危機に直面するアルゼンチ
ンの上院は30日、公務員給与と年金給付額の最高13%カットな
どを含む政府の財政削減案を可決した。
 法案は全体で15億ドルの歳出削減を目指すもので9時間もの論
戦の末に26対18の賛成多数で可決された。しかし同日のブエノ
スアイレス株式市場は下落し、金融不安は続くとの見方が強い。
また、国内労組などが法案可決に一斉に反発し、政情不安の様相を
呈している。

[毎日新聞7月31日] ( 2001-07-31-11:04 )
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アルゼンチン:ムーディーズが国債を格下げ 「Caa1」に 
2001.07.27 
 
 【ワシントン逸見義行】米国の大手格付け会社、ムーディーズ・
インベスターズ・サービスは26日、アルゼンチンのデフォルト(
債務不履行)のリスクが高まったとして、同国発行の外貨建てと
ペソ建ての国債の格付けを「B3」から「Caa1」に1段階引き
下げたと発表した。国債の格付けとして「Caa1」は、ウクライ
ナ、パキスタンと並ぶ最低ランクとなる。
 今回の格下げを受け同日の国債市場では、アルゼンチン国債の利
回りが急騰(価格が下落)しており、同国の資金調達が一層難しく
なる懸念が出ている。アルゼンチン経済は、新興市場国の金融通貨
危機を再燃させる火種として、今後もくすぶり続けそうだ。

[毎日新聞7月27日] ( 2001-07-27-10:27 )
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〈労働者がゼネスト〉2001-7-21

アルゼンチン 財政緊縮策を取るアルゼンチンで、公務員給与や年
金のカットに反発して労働者がゼネストに突入、首都ブエノスアイ
レスでは19日、バスや地下鉄などが運行を停止し、経済活動も終日
まひ状態に陥った。
最大の航空会社、アルゼンチン航空は運航をすべてキャンセル。
公立病院も最低限の職員を配置するにとどまった。ブエノスアイレ
スの証券取引所の前では、労働者が爆竹を鳴らして「緊縮経済に反
対」とデモ行進した。
統計当局が19日までに把握した数値としてアルゼンチン紙クラリン
(電子版)が報じたところによると、同国の5月の失業率は16.4
%に達し、失業者数は過去最多の228万3000人を記録してい
る。(メキシコ市19日共同)
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金融危機:再燃懸念強まる 周辺国に波及も アルゼンチン 
2001.07.14 
 
 【ワシントン逸見義行】アルゼンチンで金融通貨危機が再燃する
懸念が強まってきた。危機がブラジルなど周辺国に波及すると、
中南米と密接な関係を持つ米国の金融市場に激震が走る可能性もあ
る。減速が続いている米国の景気の大きな足かせとなり、世界経済
の波乱要因となるだけに、アルゼンチン問題は、20日からイタリ
アで開かれる主要国首脳会議(サミット)での論議の焦点の一つに
急浮上してきた。

 ◆火種の構造
 今回の引き金になったのは、10日の新規発行国債の入札で3カ
月ものの短期国債の利回りが14%に急騰したことだ。デフォルト
(債務不履行)の懸念が一気に広がり、アルゼンチンのメルバル
株価指数は12日、一時13%も急落し、6年ぶりの安値をつけ、
ブラジル通貨レアル、チリの通貨ペソがドルに対して史上最安値を
更新した。

 13日は、デラルア大統領が11日夜に歳出削減による財政赤字
の削減策を発表し、米国や国際通貨基金(IMF)が改革の方向を
支持したため、アルゼンチンの株価指数は、前日より6%上昇した。
しかし、1週間を通しては11%も急落したことになり、小康状態
を取り戻したにすぎない。

 アルゼンチンの対外債務は1280億ドル(約16兆円)にのぼ
り、その約8割がドル建て。3年間、景気後退が続いており、99
年1月にブラジルが通貨を切り下げ変動相場制に移行してから、
対外収支が悪化し、昨秋から危機再燃の火種がくすぶり続けている
。「最終的には、変動相場制に移行し、通貨を切り下げるしかない
」との見方も出てきた。今月24日には、国債の償還資金をまかな
うため国債の新規発行が予定されており、入札結果によっては再波
乱が懸念される。

 ◆米国の危機対応の試金石
 94年末のメキシコ通貨危機では、クリントン政権が主導して、
米国200億ドル、IMF178億ドルなど総額約500億ドルの
緊急支援策を95年1月末にまとめて危機を乗り切った。しかし、
オニール米財務長官は、金融通貨危機に多額の支援資金を出してき
たクリントン前政権の手法を批判してきた。今春、危機に見舞われ
たトルコに対し、国際金融機関の資金提供以外に2国間支援を見送
り「トルコへの支援が今後の危機対応のモデルになる」と主張して
いる。

 アルゼンチンに対しては、昨年12月に合意されたIMFを中心
にした397億ドルの国際支援策があり、「新たな支援資金を提供
する計画はない」(ライス大統領補佐官)との立場を米国は明確に
している。危機が深刻化してきた時に、それだけで十分か。ブッシ
ュ政権の金融通貨危機対策を探るうえで、アルゼンチン問題は試金
石になりそうだ。
[毎日新聞7月14日] ( 2001-07-14-19:45 )


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