597−1.サーべ・サイエド・ガザンファ教授



                鈴鹿国際大学教授 久保 憲一
訃報

本学教授サーベ先生は、昨夜国立名古屋病院において、急逝されま
した。(享年51才)告別式等の日程は未定ですが、判明次第お知
らせいたします。

故   人   サーべ・サイエド・ガザンファ
死亡日時   平成12年3月14日 午後11時17分
死   因   心臓麻痺
………………………………………………
 昨年、3月15日、私が勤務する大学からこのようなファクスが
突然送られてきた。俄には信じられない衝撃が私の頭から身体を突
き抜けた。つい先日、彼と二人、津市内で飲んでいたばかりである。

 鈴鹿国際大学の同僚であり、私の大親友・サーべ・サイエド・ガ
ザンファ教授は、1948年、アフガニスタン生まれ、レバノン・
ベイルートの米国大学卒。経済学博士。祖国では元王族だという。

 1975年、名古屋の国際研修センターに半年間籍を置いたが、
帰国し、祖国アフガニスタンにおいて大蔵省に勤務した。また国立
工業開発銀行にも出向していた。2年後再び来日。そして名古屋大
学経済学部に留学、飯田経夫教授について企業分析や経済復興を学
ぶ。しかし1979年12月、ソ連軍のアフガニスタン侵攻によっ
て帰国を断念。苦難の末、家族も日本に呼び寄せる。修士課程を修
了した後、鈴鹿短期大学講師として就任、この時、私とはじめて出
会う。1992年7月に経済学博士を取得。1995年に私と一緒
に鈴鹿国際大学に移籍した。そして助教授、教授と昇進した。彼は
在日アフガニスタン人の希望の星であり、ヒーローであった。

 彼は他人に優しく、己には厳しかった。専門はもちろん、漢字、
日本語文章の習得に日々努め、学生たちの大きな尊敬を勝ち得てい
た。私より二歳年上の彼であったが、共に7月15日の同じ誕生日
のためか、初めからなんとなく気が合い、短大勤務時代より誕生日
を毎年一緒に祝っていた。私は彼を時々「ミスター・アフガニスタ
ン」と呼び、あたかも兄弟のように尊敬し、信頼していた。海外に
おける彼の学術活動には私が保証人になった。どこの国に出張して
も私への土産は決して欠かさなかった。彼は私を「(真の意味での)
国際人」と評してくれた。ミスター「日本」を自認する私には、彼
のこの言葉はとても温かく、励みになった。

 三重県立人権センターの偏向展示内容を非難し、私が鈴鹿国際大
学教授を解任されるという事件が勃発した時、「久保先生の立場だ
ったら、僕も全く同じ事をしただろう」と彼は真剣に私を励まして
くれた。私を欠くその後の教授会では、サーべ教授は解任強行派の
一教員と衝突し、珍しく興奮していたという。もの静かな、あの紳
士教授が…、とても信じ難いことであった。

 また彼の筆舌に尽くせぬ厳しい体験に基づいた的確な人物評には
大いに敬服させられた。彼は、学内の幾人かの教員に関しては警戒
を要する、と兄のごとく私にしばしば忠告してくれていた。結局そ
の忠告を私は活かし切れなかった。

 私の解任事件後、彼は毎晩毎晩、私の事を奥様に話してはとても
心配していたという。そして私の弁護のためなら自分はクビになっ
てもいい、と覚悟していたという。
不甲斐ない大学の姿勢への悲観か、彼はアメリカかオーストラリア
に移住したいと奥様に頻繁に訴えていたらしい。その彼が、昨春、
風邪も災いして心臓発作で急死した。しかし彼の死の一因はやはり
私にもあるように思う。本当に済まないと思う。昨年一杯、私は彼
について書く気が沸かなかった。得難い友を失った悲しみがあまり
に深かったためである。今、ようやく筆をとれる心境になれた。

 サーべ教授から私は「僕は何時死んでも悔いない人生を送ってい
る」と何度か聞いている。それがせめてもの私の慰めでもある。精
一杯生き抜いていた彼の気持ちがよくわかる。それにしても一番上
のお嬢さんが婚約した時、とても嬉しそうにそれを彼は語っていた
。子煩悩な彼は大学の長期休暇には必ずお子さん達の住むアメリカ
へ行っていた。頼もしく成長している三人のお子様の事を話しては
彼は目を細めていた。私はお嬢さんの結婚式には必ず出席すると約
束していた。奥様もそのことをよくご存じであった。そして私に「
主人の代わりに出てください」と言ってくださった。

 教授の急死で一年延期されたとはいえ、サンフランシスコ近郊都
市・ソルトレイクにおいて今月20日、お嬢さんの結婚式が挙行さ
れる。彼のいない結婚式はとても寂しいが、彼の眠る墓地に私は酒
と花を手向け、久々に喜びを分かち合うつもりである。わが畏友・
サーベ教授に導かれ、私はアメリカに19日、旅発つ。

平成 13/07/16 (月)
Internet Times より
http://www.internet-times.co.jp/
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           水廼舎 こと 久保憲一
                    mizunoya@mx3.mesh.ne.jp

水廼舎の日本学
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国際戦略コラム(久保教授コーナ)
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/index-k.htm

インターネットタイムズ
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