555.環境と文明の世界史(3)



「環境と文明の世界史」 石弘之・安田喜憲・湯浅赳男 洋泉社新書
今回は、ローマ文明から最後までを見ましょう。  Fより
「環境と文明の世界史」を読んで、面白い所を紹介しているので、
完全に知るなら、洋泉社新書を読んでください。これは近年に稀な
面白い本だと思います。

8.人間の精神と森の消滅
なぜ、地中海世界では多神教の世界が消滅して一神教の世界が誕生
したのでしょうか??
それは森がなくなったことが人間の精神構造に大きな影響を与え、
一神教を受容していく要因ですね。反対に、今でも日本でなぜ八百
万の神々が生きるかというと森があるからでしょうね。
木があると、「隠れ家」がいっぱいあって、人間の視覚の届かない
世界がたくさんあるわけですよ。ほとんど木がない乾燥地帯に行く
と、全てが見える。一神教で納得できる。

ローマ帝国は3世紀に衰亡する。この3世紀という時代は、気候の
悪化期であったことはほぼ間違いありません。気候の悪化によって
天水農業が破綻し、今までの森林破壊による激しい土壌浸食も限界
点に達していた。壊滅的な打撃を受けのでしょうね。
飢餓社会になり、キリスト教が拡大したのでしょうね。

9.中世欧州
西ヨーロッパは年間降水量1000ミリ以上であるが、太陽光線が
希薄ですからカロリー不足になる。そのため、広い経営地をもち、
20ヘクタールが標準。三圃制農業が誕生する。土地をA、B、C
に分け、1年目にはAに秋まきムギ、Bに春まきムギ、Cは休耕。
秋まきムギは小麦で人間の食べるムギ、春まきムギはカラスムギな
どで、ウマなどの家畜の餌。Cの土地は放牧用の土地になり、そこ
での家畜の排泄物が肥料になるのです。

ローマ帝国はなぜ、アルプスという巨大な山脈を越えて北へ広がろ
うとしたのでしょうか??奴隷の獲得なのでしょう。スラブ民族と
いうのはスレイブ(奴隷)民族のことですから。7世紀、8世紀、
白人奴隷がイスラムに売られている。東ヨーロッパやスカンジナビ
アで供給され、フランス北東部のバルダンに集積している。この仲
買をやったのがユダヤ人です。ユダヤ人はイスラム教国にもキリス
ト教国にもいる。このため、ユダヤ人は奴隷商人という歴史的記憶
が執拗にキリスト教国にやきついた。

7世紀のペスト流行は文明史の重要なファクターです。歴史の転換
点。病気が古いものを全部一掃し、8世紀中葉にはフランク王国が
確立する。そして、世界がアルプスを越えて拡大していくときに、
森を破壊する先兵になったのはキリスト教の宣教師でした。修道士
です。
奴隷というのは遊牧民の文化ですね。宦官も同様です。去勢も同様
です。このようなことは日本文明では起こりませんね。

10.世界文明の新分類:動物文明と植物文明
家畜の民がつくった文明が、現在の世界を支配している。この民に
キリスト教が結び、自然支配文明を作り出した。これは人類の歴史
における大きな悲劇だったと思う。
西洋は動物の遺伝子工学、東洋は植物の遺伝子工学を発展させた。
植物文明は、森の文明で、雑穀を含む米の文明、そして醸造、発酵
の文明ですね。動物文明は遺伝子操作で自分と同じ遺伝子を持つ
コピー人間を希望する。

天水農業は、個人の欲望を自由に解放できる農業。稲作はいつも水
に支配されている。個人の欲望は解放されない。共同体に属する必
要がある。天水農業は粗放的であるので、奴隷でもできる。稲作は
かなり集約的で時期が制限されるため、一生懸命やらないとできな
い。奴隷には任せられない。稲作文明は奴隷が発生しない。

インカ文明もまれに見る「やさしい文明」です。身体障害者も「神
のお使い」として大切にされた。支配の維持はジャガイモやトウモ
ロコシの種の配分で行うようです。植物文明は人間の欲望をコント
ロールする方策を持っているが、動物文明は剥き出しのエゴと力の
文明であると思う。

病気は、人間が定住しない限り発生しない。人類にとって最初の問
題が灌漑です。寄生虫系の病気が中心でした。住血吸虫が原因の病
気がエジプトでも中国でも猛威をふるったようだ。次に消化器病。
下水と上水の区別がないため宿命的。その次が昆虫が媒介する病気
で、マラリア・デング熱などの流行が起こる。
江戸時代は完璧なリサイクル社会で、排泄物は全部肥料に還元した
ため、欧州よりきれい。欧州は汚物はすべて川に流したため、汚か
った。

11.大航海時代以後
地球環境問題が悪化してきた原因は、元をただせば15世紀以来の
ヨーロッパ世界が地球規模に膨張したためでしょうね。
11世紀から十字軍が始まったが、膨張できなかった。14世紀に
ペストで大量の人たちが死に、ヨーロッパは停滞した。1571年
の「レバントの海戦」で欧州がオスマン・トルコに勝利し、レコン
キスタが完結して、大航海時代に入る。対外進出の目的は、香料貿
易と森林資源の確保です。船に使う大口径木の木材の獲得です。
それと、製鉄に使う木炭用木材。欧州の爆発的拡大は「海の牧畜民
」の拡大で、漁労民の感覚とは違う。

欧州の拡大は米国文明に行き着く。その米国文化は、ハンバーガー
や車などの文化となり、その文化が世界に拡散する。特に現代は、
米国型文化のハンバーガーという肉食文化が世界に拡散している。
しかし、この牛肉1トンは、小麦が12トン必要で、小麦1トン作
るのに1000トンの水がいる。1トンの肉に1万2千トンの水が
いることになる。この水資源が問題になるだろう。世界は地下水灌
漑に依存するようになったが、それほどには、地下水はない。
日本は川の流域に田圃を作り、その周辺に里山を開いて、自然の中
で農業をしている。地下水に依存しない。

次にくる環境革命は、バイオテクノロジーによって、大量の食物を
つくり、人口を養うという技術革新も必要であるが、欲望のコント
ロールがより必要だと思う。欲望は同時に向上心でもあるが、環境
革命は、その人が持っている生のエネルギーを否定しなければなら
ない。心の問題と不可分の関係にあるのです。「利他の精神」の肯
定、「利己の精神」の否定となるのです。そして、環境を含めたこ
の地球のことを考える世界観を人間自身がもう1度取り戻すことで
あろうと思いますね。

このような環境要因で人類がどう行動したかを知ることが、人類の
未来を展望する望遠鏡になるのでしょうね。環境史の確立を願う。


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