536.アメリカ地球温暖化戦略



YS/2001.05.13
       アメリカ地球温暖化戦略−波紋
■米京都議定書離脱の波紋=米国連人権委員会落選

 5月3日、国連経済社会理事会(54理事国)による国連人権委
員会のメンバー国改選が行われ、アメリカは1947年の同委員会
創設以来初めて落選し、少なくとも来年はメンバー国としての資格
を失うことが確定した。また7日には、国際麻薬統制委員会(IN
CB)の委員改選でも米国が落選しており、国連内のアメリカの不
人気ぶりが際立っているようだ。

 ブッシュ米政権による温暖化防止のための京都議定書からの離脱
表明や、ミサイル防衛システムの早期配備構想などの政策が、EU
諸国や途上国などの反発を呼んだ結果と見られており、ブッシュ政
権に厳しい洗礼を浴びせかける内容となった。

 これに対してアメリカは、国連アナン事務総長の再三にわたる自
制呼びかけにもかかわらず、5月10日、下院にて2億4400万
ドルにのぼる国連分担金の滞納分を支払わないようにする予算関連
法案の修正案を可決した。

 国連人権委員会の米国落選について、世界各紙が大きく取り上げ
るが、とりわけ中国側の反応が興味深い。中国メディアは、一斉に
各国世論を紹介したうえで、中国人権研究会の朱穆之名誉会長のコ
メントを掲載する。アメリカが長期にわたり人権を掲げて覇権主義
的行為を行っていることについて、朱名誉会長は、「正義感を持つ
人々は早くから不満や反対を表明してきた」と指摘し、アメリカが
落選したことにより、「人権の名を借りて覇権を推進する米国のや
り方を支持する人はいないことが十分に証明された」と述べた。こ
れまでの鬱積した反米感情が一気に爆発したようだ。

■エシュロンとアンブレラ

 アメリカの衛星通信傍受システム「エシュロン」による情報傍受
・分析で民間企業の動きなども対象としているとの疑惑を調査する
ため訪米していた欧州議会の「エシュロン問題特別委員会」は、5
月10日、予定を早めて急遽帰国することになる。
 
 当初予定していた米国務、商務両省関係者との会談が直前になっ
てキャンセルされ、中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NS
A)との会談も拒否されたためだ。

 EU側は、ブッシュ政権が、ミサイル防衛構想推進の一環として
エシュロンの強化を図っているとみており、今回のアメリカ側の
「門前払い」がEU独自の対エシュロンシステム構築の動きを加速
させることになろう。

 EU側は、エシュロンの実際の能力は限定されているとしつつも、
国益が絡む分野では、政府の情報機関が意識的に高度な経済関連情
報を提供しているとし、産業目的に使われていることがあるとの認
識を示していた。

 エシュロンは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、
ニュージーランドの5カ国で編成されている。

 京都議定書問題における、非EUグループ=アンブレラグループ
の構成は、日本、アイスランド、アメリカ、ウクライナ、オースト
ラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、ロシアの9カ国
(オブザーバーとしてカザフスタンが参加)で形成されていること
に注目すべきであろう。

 さてこのアンブレラグループに参加する日本は、エシュロンにつ
いては極めて不透明な存在になっている。EUからは、日本政府が
何らかの形でエシュロンに関与している疑いを持たれており、一方
では青森県の米軍三沢基地内に1980年代以降に相次いで建設さ
れた衛星通信傍受用施設により、日本の外交関連や企業の通信が傍
受・分析対象となっているともみられている。

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YS/2001.05.13


      アメリカ地球温暖化戦略−動き始めたEU


■動き始めたEU外交

 EU議長国であるスウェーデンのペーション首相らEU首脳代表
団は5月2、3の両日、北朝鮮を訪問し金正日総書記と会談を行う。
日米欧の西側首脳としては初の訪問となる。帰国後にスウェーデン
で開いた非公式外相会議で、北朝鮮へ技術支援を実施することを確
認した。
その第一弾として国際通貨基金(IMF)・世界銀行への加盟手続
きなど金融経済分野の助言とエネルギー復興への技術支援の2分野
を対象に月内にも専門家を派遣する。

 また3月にストックホルムで行われたEU首脳会議でも、ロシア
に対して環境プロジェクトの資金として最大1億ユーロを融資する
ことで原則合意している。

 地球温暖化防止会議のプロンク議長(オランダ環境相)は京都議
定書の運用ルール作りを急ぐため、主要各国との個別会談に乗り出
すことを表明しているが、特に対象は、欧州連合(EU)、日本、
アメリカ、ロシア、オーストラリア、中国、イラン(途上国グルー
プ代表)などとみられており、特にアンブレラグループに対する取
り込みが焦点となりそうだ。

 特に日本に対する交渉を強化しており、金総書記がEU代表団に
表明した2003年までのミサイル発射凍結方針は、日本に対して
駆け引きに使われそうだ。

■グリーンピース VS USCIB

 4月5日、環境保護団体グリーンピースが最新の米企業ランキン
グ「フォーチュン500」より上位100社に対し、1週間以内に
米政府の方針に反対する意思表示をしない限り、企業名を公表して
消費者に不買運動を呼び掛けると通告したが、4月26日に
「GREENPEACE TO TARGET US OIL COMPANIES
(グリーンピースは米オイルカンパニーをターゲットに)」を掲載
し、100社の実名と回答内容を公表する。

 このリストには、米国最大のロビー団体であるUSCIB(The US
Council for International Business)との関係も明記されてい
るが、なかなか鋭いところをついているようだ。

 事実USCIBは、4月11日にブッシュ支持を表明しておりグリー
ンピースのターゲットがここに絞られたようである。このブッシュ
大統領に宛てた親書の中では、アンブレラグループとの密接に協調
していくことが明記されており、日本企業に対しても相当な圧力が
かかっているようだ。

 さて回答した企業の中にも態度を明確にしていない企業も存在す
る。特に注目されるのは、USCIBの主力メンバーでもあるフォード
とデュポンの動向であろう。
 
 フォードは、5月3日、ウィリアム・クレイ・フォード・ジュニ
ア会長自らが、地球温暖化に対して積極的に取り組む姿勢を示した。
ブッシュ政権へのコメントは避けたが、米産業界すべてがブッシュ
政権を支持しているわけではない。またデュポンもグリーンピース
に対してこれまでの温暖化問題への取り組みと実績を回答している。
このデュポンのチャールズ・ホリデイCEOが会長を務める国際的
な評議会がある。

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YS/2001.05.13


      アメリカ地球温暖化戦略−秘められた構図



■持続可能な発展のための世界経済人会議
World Business Council for Sustainable Development -WBCSD

 ほとんど日本では報道されなかったが、昨年11月に東京で「持
続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)の第6回総会
が開催された。WBCSDは持続可能な成長への産業界の貢献を目
的に95年に発足し、現在世界各国の約150社の企業トップで構
成されている。現在デュポンのチャールズ・ホリデイCEOが会長
を務め、3人の副議長の一人にはトヨタ自動車の豊田章一郎名誉会
長(同下)が就いている。

 日本企業では旭硝子、デンソー、日立化成、日本原子力発電、鹿
島建設、関西電力、キッコーマン、三菱グループ、三井物産、三井
化学、NTT、日産自動車、セイコー、ソニー、太平洋セメント、
帝人、東京電力、東レ、トヨタ自動車、安田火災が参加している。

 現在GMとトヨタは、このWBCSDの賛助のもとで持続的モビ
リティのための民間プロジェクトに着手している。このプロジェク
トは、燃料電池自動車推進システムの開発、燃料電池用燃料および
インフラの開発、燃料改質技術の開発、燃料電池の研究開発、水素
吸蔵材の研究開発が含まれている。特に最近では、短中期的燃料と
してガソリンに似た属性を持つクリーン・ハイドロカーボン・フュ
エルに着目し共同開発に取り組んでいる。

 このWBCSDには、エンジニアリング大手ABB(アセア・ブ
ラウン・ボベリ)、ダイヤモンドのデ・ビアスを買収したゴールド、
「プラチナ」を支配しするアングロ・アメリカン、銅・石炭・ウラ
ンのリオ・ティント、ドイツ化学大手BASF、バイエル等エネル
ギー企業が集結しているところに特徴がある。

 この欧米側メンバー企業を見ると、ロックフェラーグループ企業
が極めて少なく、ロスチャイルド、モルガン系企業が多くを占めて
いる。J・P・モルガン・チェース誕生によりモルガン系企業が今
後離散していくことも十分予測される。なぜなら基本的に金融資本
と産業資本は、異なる文化を有しており融合不可能と見るべきであ
り、アメリカ内部での産業界の分裂にも繋がる要因ともなりえる。

 特に一部NGOからWBCSDも攻撃対象にされることもあるが、
相互依存関係からグリーンピースやWWFは、WBCSDとの衝突
は回避するだろう。彼らのスポンサーが集結しているからである。
これは、グリーンピースが上位100社からオイルカンパニーに絞
ったこととも関連している。そして重要な点は、巨大メディアもこ
の戦列に加わる可能性も無視できないということだ。


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