495−2.中国の見え方



岡田英弘が面白い。副島さんのHPに宣伝するので、岡田さんの
本を古本屋で探してきては読んでているが、なかなかいい。Fより
アジアの体制、成り立ちを書いた「アジア文明の原像」から岡田さ
んが記述した部分を中心に紹介したい。

中国では、文字というのが非常に特殊なので、我々が考えるような
意味の、言語と文字との間の密接な対応関係が成立していない。
漢字は表意文字で、表音的機能がない。ということは、どういう文
字を使っても、それが伝えるインフォメーションは意味だけになる。

そうすると、漢字で書いた漢文によるコミュニケーションは、口で
しゃべって耳で聞く音という意味の言葉を媒介しない通信方法です。
中国人は、漢字の意味、文字が表すアイデアが重要なのです。対句
などですね。

中国人が漢字を習うというのは、たいへんである。自分の話す言葉
を漢字で書けない。なぜかというと、漢字は全部表意文字だから、
しゃべるときに意味のない音節はいくつもありえるが、書こうとと
思うと、自分がしゃべっていることを音節に分解して、そのひとつ
ひとつの音節の意味を考えて漢字化することになる。

このため、表意文字というものの性格がそうであるので、文字の組
み立てをある程度指定していく必要があり、このための古典を指定
するのです。これが「書経」である場合もあるし、「毛沢東選集」
である場合もあるのです。感情表現としては、漢詩を覚える。

そのため、昔から標準になるテキストが決まっている。後漢の国教
として儒教がなったため、政府の公文書は儒教の経典の文字の使い
方になるのです。科挙の実施をするため、「切韻」(601年)に
まとめたのです。しかし、時代毎にしゃべる中国語は変化したため
、漢字で書かれているコミュニケーションは、しゃべる中国語とは
まったく遊離したものになってしまうわけです。

話言葉の違う中国人同士は通じない。通じない理由は漢字という便
利なコミュニケーションがあったからで、しかも豊富なボキャブラ
リーがあったためです。

科挙というのは、要するに文書を書く試験、詩をつくる試験です。
政治家の最大の資格は、漢字でコミュニケーションができることに
なるのです。普通の中国人は文字を読んだり、書いたりということ
ができない。現に「人民日報」の発行部数は全国で350万部しか
ない。

このため、科挙に合格した文字を知っている息子は、親父よりはる
かに上の人間となる。そして、家に帰っても仕事をさせない。
手を使う仕事や体を使う仕事を、文字を使う仕事より断然低いと見
ているのです。
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岡田英弘(おかだ・ひでひろ) 
●東京外国語大学名誉教授
 一九三一年東京都生れ。東京大学大学院博士課程修了。専攻は北
アジア史。

 中国分析のハードライナーとして知られる。『諸君!』(84年
3月号)の論文「中国が日本に朝貢する時代」は、八三年の胡耀邦
訪日にかかわる政治・外交情勢を分析したのち、「中国には日本崇
拝が浸透している」と指摘、トウ小平自身にはじまって華国鋒、趙
紫陽、胡耀邦と、訪日した歴代実力者がことごとく天皇陛下との謁
見を願い出るのは、権力を維持するために「日本を宗主国と仰ぎ、
その権威に頼るしか方法は残されていない」からだと論じて、論壇
に強いショックを与えた。その後、胡耀邦は失脚、「罪状」の一つ
に対日従属外交があげられた。

 著書『日本史の誕生』(弓立社、94年)、『倭国の時代』(朝
日文庫、94年)、『世界史の誕生』(筑摩書房、92年)。 


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