472−2.日本の制度見直しを



得丸です。
今朝の富山は夕べの雪のおかげで真っ白に覆われています。
ひたすら白い、けがれのない世界です。

1 其の位にあらざれば、其の政を謀らず
「其の位にあらざれば、其の政を謀(はか)らず」(論語・泰伯)と
いう言葉がある。徳間書店版の久米訳では「他人に口出しする前に
、自分の職責を果たすべきだ」と現代語訳されているが、岩波現代
文庫の宮崎市定訳では「所管以外の政治には、傍から口出しをしな
い」となっている。

 宮崎訳のように、文字どおりに解釈して「その職責にある者のみ
が、その置かれている立ち場や過去の事例やその決断の及ぼす影響
について知りうるのであるから、外野は黙っているべきだ」という
意味にとってもいいと思う。

 マスコミやインターネットを通じて、どこまで信頼していいのか
、どこまで深く真実に迫っているのかがよくわからない情報が、わ
れわれ一般庶民のところにまで及んでくるようになった。それらの
情報といちいちマトモに付き合っていたら、自分の仕事もはかどら
ないし、不十分な情報をもとに、トンチンカンなことを口にしかね
ない。できるだけ余計な情報には触れないようにし、できるだけ寡
黙になって生きていく必要があるのではないだろうか。

2 外務省はなぜ懲戒免職した松尾室長を保護したのか
 といいつつ、新聞記事で読んだことについて、感想を述べさせて
いただきたい。間違っていたら、ご指摘を。

 外務省の松尾元室長が逮捕されたが、新聞記事によれば、逮捕さ
れるまでの間、外務省の研修所に身を隠していたそうだ。外務省は
懲戒免職にした元職員を、保護していたことになる。これはおそら
くこの機密費問題は、松尾個人の犯罪に加えて、外務省職員全体の
モラルの問題をも含んでいるということの証拠ではないだろうか。

 私は外務省職員を責めようと思っているのではない。むしろ、今
この機会に、日本人全体が、性善説を続けるのかどうかを問われて
いるのだと言いたい。これでやっと自分の問題として議論すること
ができる。議論を続けよう。

3 性善説の国では、正直な人々が前提だった
 私は2年間ほど、国際機関に勤務した経験があるが、その際には
、外出しようにも小口交通費の制度がないため、全部自腹だった。
外国からお客さんがきても、交際費や雑費という制度がないから、
割り勘か自腹接待だった。年輩の職員の中には、自腹接待がきつい
ために、わざわざ若手職員を同席させて、頭数を増やして分母を大
きくしていた人もいた。1991年当時、パリに住む国連職員の給料は
、日本人駐在員給料の半分以下だったから、切実な問題だったので
ある。

 その後私はロンドンで日本の商社の駐在員をしたが、領収書さえ
あればどんなレストランの支払いも会社払いが可能となり、小口交
通費にいたっては、領収書さえ求められない。これは甘過ぎると思
った。何も払い戻されない国連のシステムもすっきりしていていい
かなと思っていた私にとっては、逆カルチャーショックだった。

 つまり、日本社会は性善説であり、国際社会は性悪説なのだ。
性悪説では、人間は人が見ていないところでは必ず悪いことをする
から、疑惑を招きかねない一切の制度をなくして、杓子定規に処理
しているのだ。

 一方、日本社会では、円滑なビジネス展開のために、柔軟性を持
たせた制度にしている。小口交通費が出なくて、みんな外に行かな
くなるとマズイし、交際費がないためにせっかく顧客と親しくなる
機会を失うのはもったいないと考えるのだ。そして、このいい加減
でいくらでもごまかしのできる制度をきちんと運用するのは担当者
の心掛け次第とされてきたのである。

 おそらくグローバル化の進展や、日本的な価値観の希薄化によっ
て、この担当者の心掛けというものが、信頼するに足るものでなく
なってきたのだろう。誰も見ていなければ、いくらでもごまかす人
間が増えているのだろう。

 いっそ、グローバルスタンダードに合わせて、小口交通費、交際
費、雑費、機密費などの制度を全廃すべきかどうかの議論をしても
いいのかもしれない。それが嫌なら、恥を知らなければならない。
自分の心の中に、正しく行動するための規範をしっかりと持たなけ
ればならない。規範は持たないのに、性善説の制度だけ続けていて
は、ますますひどいことが起きるだろう。
(2001.03.13 得丸久文)
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(Fのコメント)
しかし、どうして日本の官僚はダメになったのでしょうかね。
性善説だけが原因ではないと思うし、戦後も官僚が日本全体を決め
ていった時代があり、日本はよくなっていったと思うが、どの辺か
らか、官僚たちが自分の利益しかなくなっていったようですね。
それも、エリート官僚たちがそうなるのですから、どうしようもな
い。


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