471−1.拡大日本戦略試論(2)



ken
F氏説→→ 日本で軍事戦略を建てても、米国との調整が必要で戦
略化できにくい。このためどうしても経済戦略になるでしょうが。
日本企業が上で米国、中国企業にモノを売る世界は今後ないのでは
ないかと感じている。タネは米国、育てるのは日本、生産するのは
中国というような関係で、そして、どのセクションがより重要かと
いうことをも問題にできない状態になっているようだ。それより、
いつも世界ビジネスを志向していることの方が重要に・・。

YS氏説→→ 「拡大日本」についてどうお考えですか? 対象とす
る地域やその分野についてご意見を・・。20世紀にアメリカが取
り組んだ「アメリカン・ウエイ・オブ・ライフ」輸出戦略を再度見
なおして・・自動車、家電・・映画などの分野で大きな成果を上げ
・・、今日でも覇権拡大維持に繋がって・・、こうした点を踏まえ
て21世紀の日本のあるべき姿を・・。

柳太郎氏説→→ 日本の文化などが日本以外の地に広まっていく過
程においてアメリカと違うのは、その戦略性にあると思います。
・・(文化は)政治的、経済的に強い方が弱い方を凌駕するいった
事と同じ・・。
アジアにおいて、「拡大日本」の戦略は、日本を強く表に出さずう
まくやれば・・ポジテイブな方向で日本の文化の影響力を利用・・。

日経ニューヨーク経営セミナー→→ (京セラ稲盛氏説)グローバ
ル化の成功条件として「欧米のマネジメントシステムと日本人の倫
理観念を合わせた真の和魂洋才を・・」

ken→→ (雑誌「貿易界」)円が220円まで暴騰しては、台湾
香港などの追い上げに対抗するのは困難だが、戦後一貫した欧米市
場向け輸出洪水がよかったかどうか。いま急激に浮上しつつある
台湾韓国はいわばかっての日本の兄弟であり、その国々の発展は必
ずやわが国にも幸せをもたらすだろう。私見では彼らの輸出品の
30%くらいが日本から輸出された原料で、換言すれば、今後日本
の欧米向輸出が少々減ったとしても、東南アジアからの輸出はまだ
まだ伸び、それは日本からの輸出伸長ではないか。輸出振興の合言
葉で一国に外貨を集めては國際協調にならない。これからは労働集
約商品の生産は積極的に東南アジアへ移転し、グローバルな互恵経
済を志向すべきで、近視眼的に、円高に如何に狡猾な対処をすべき
かよりも、我が国の貿易についてハッキリした将来に向けての哲学
をもつべきではないか。(20年前、第二次円暴騰時セミナーにお
いて)

拡大日本戦略を論ずる場合、最初におよそのシラバスのようなもの
を作り、その進展に応じて議論し、結果として成果を累積させてゆ
く必要があるようだ。
なぜなら拡大日本にも色々な方法があり、範囲も複雑多岐に渉り、
ランダムに論じていては一つ一つが線香花火の言いきりに終わるか
、あるいは「物知りのニュース解説」に堕して、議論の累積効果も
期待出来ず、より深く考察するための基礎戦略になり難い。

F氏が「日本で軍事戦略を建てても、米国との調整が必要で戦略化
できにくい」として、経済戦略、特に生産移転に鉾を転じ、それを
受けたYS氏が20世紀「アメリカン・ウエイ・オブ・ライフ」から
米国の輸出戦略を見なおしたいと言い、次ぎにバトンを渡された
柳太郎氏は韓国香港台湾の日本文化輸入に言及するという状態。 
それは全てがオムニバスかメドレーで、いつまで経ってこも文化評
論の域を出ない。ボクが、先に粗筋のシラバスを作ろうというのは
、そうした弊から脱するためである。

そこでチョット考えると、拡大日本戦略の具体的内容は、軍事戦略
を除けば、およそ次ぎのように分れるのではなかろうか。

先ず A)「日本人の移住拡散戦略(哲学)」。 
子孫の代まで日本に住み、ときたま海外駐在したりして海外事業を
楽しむか。華僑のように異国で元日本人が繁栄するのも「拡大日本
」の一方法か。 
つい先の戦後迄のように事あれば故郷日本へ回帰する心の準備を怠
りなくスべきか(これは得丸氏などの領分かも?)などなど。こう
したことは「拡大日本戦略」として基本的にもっとも重要なテーマ
だが、なぜか戦後の日本で本気に論じられたことが無く怠慢の謗り
を免れない。 
戦前殖民講座の「移民は棄民」か、かってのオランダのように自国
内の人口が減ってしまってもいいのか。ブラジル人三世の日本出稼
ぎを「拡大日本戦略」のなかでどう位置付けるか、ポトマス川の朝
日に匂うソメイヨシノは「拡大日本」の具体化ではないかなども、
議ずる価値が充分ありそうだ。(初期白鳥宙氏の投稿には、日本浪
漫派の再来を思わせる美しさがあり、世界連邦を目前にしてなお「
日本の心」や、「日本人のアイデンテテイ」を考える人々にとって
、「拡大日本からの回帰」や、「異国に住んでも日本を忘れるな」
の議論的教材になる。 会津小鉄系名家の図越さんなどの議論を
期待する。)

次ぎに B)「経済進出戦略」。 
その内訳は、a.海外生産戦略、b.技術輸出戦略、c.投資戦略、d.ブ
ランド戦略 などであろう。 F氏お好みは、a.海外生産戦略と、
b.技術輸出戦略のごとくに見える。

a.海外生産戦略 
われわれのモデルとなるかも知れない戦後米国の対日経済進出では
対日技術輸出はあっても、日本という海外での直接生産はひじょう
に少なかったが、この功罪は如何。 
日本の得意とする低賃金国への工場移転の問題点、たとえば現地賃
金の急上昇対策や、原材料輸送諸経費と彼我賃金格差との損益分岐
点はどう理論化すべきか。その具体的な係数による研究などは、
このコラムの今後のよき課題であろう。 
 インドネシアの国民車構想で選ばれたダイハツ・リッターカーの
現地組立てで、同社とアストラモータースとの間で先ず問題になり
、大統領のお出ましまで願ったのが、現地組立車のコストが完成車
輸入価格よりも高くつき、原因は原材料輸送コストの高さと現地ア
センブリーの不能率さにあった、という話を同社会長から聞いいた
がある。ボクの経験ではアセンブリー工賃が総生産コストの30%
程度では、海外からの原材料供給のエキストラコストなどで相殺さ
れて足が出た。
 それにたとえば社会主義国における生産の場合、いわゆる市場主
義経済が本格化すればとうぜんのこと、自ら招いた競合工場が族生
し、販売市場における事前防御策が必要だが、その具体策は如何。
 あるいは自社工場周辺に別の高付加価値産業が進出した場合、
政府による強制工場移転命令などのようなカンツリーリスクが発生
し易いがこの対策如何、というようなケーススタディは「海外生産
戦略」における好個の題材と思える。

 F氏が既に何度か指摘された船井電気などの、「低コスト生産、
低価格輸出」などは、私見では存在のレーゾンデーテールがすこぶ
る薄弱である(船井さんにはボクの知人も何人か居る)。戦後新興
の家電御三家と謂われたクラウンはダイエイに引き取られて消え、
スタンダードはマランツに渡され、アイワはソニーの低価格しわ寄
せ部門としてようやく生き延びている事実から見て、結局のところ
低付加価値産業の行方は暗澹、とうてい「拡大日本」の旗手たり得
ない。 低コスト生産を、欧米大小売業者相手に手掛けた失敗は
ボクのみに止まらず、Kマートはすでに特設ポスト入りに近く、親しか
った後発ウオールマートの命運さえボクにはほぼ予測がつく。
 ユニクロは、Kマート方式と欧州C&Aの中間で、早晩、安売りを
止めぬかぎり先は見えている。要するに低賃金国への「生産移転」
は、マッテル社にその例を見るごとく、次々と産地移転のジプシー
稼業を繰り返し、移転費用倒れと派遣社員酷使に対する後味の悪さ
だけが残り、日本企業独特の半社会主義的温情経営とは相容れない。
結局は技術輸出戦略による高付加価値産業への移行しかないだろう。

b.技術輸出戦略  
「現代人の現代的教養とは科学一般である」というのが、東大系科
学史家の定説である。残念ながら認めざるを得ない。しかしボクな
ど、数学といえば因数分解で終わった世代には、いまさらながら日
暮れて道は遠い。 
F氏、T氏一派の、この戦略部分での跳梁に指をくわえるしかない。
ボクの電子産業子会社閉鎖もやむを得なかった。

技術輸出、これが米国がいまだに世界に跋扈している原動力で、
かならずしも軍事優越や外交上手だけではないようだ。ただし彼ら
は基礎技術や特許戦略に依存し、応用技術については日本に水を開
けられていると見る。アモルファスをブラジャーの肋骨に応用する
才覚は、彼らには少ない。
 わが国では基礎科学振興が緊急の要務と喧伝されているが、あま
り気にせず、日米分業で、基礎科学は米国、応用は日本でもいいの
ではないか。
「基礎も応用も日本で」などは、強欲で國際摩擦の種を蒔く。基本
特許には喜んで特許料を払い、有難く利用させてもらえばいい。
利用応用も頭脳のうち、体裁など何も悪くない。
 はやい話がIT。基礎技術は米国、ウエブサイトでの情報集積も
米国がダントツに多い。こちらは必要に応じてダウンロードしたデ
ータを頂きそれを応用したゲームや音楽配信など末端利用が百倍も
多い部門を、どうやら一人占めでエンジョイし始め、マイクロソフ
トといえども日本企業との提携に焦り始めた。
 「拡大日本」の「技術輸出戦略」も、今後はこうした日本人の応
用能力を積極的に武器とすべきではなかろうか。基礎技術を武器に
して海外へ工場進出しても、あるいは基礎特許を先進国へ売り込ん
でも、その優先権や利権はいまの時代ではほんの一瞬の優越でしか
ない。それは米国産業が日本に急激に追い上げられている現状を見
れば明白だ。日本の世界産業社会における強みは何か。喧伝される
ほどの産業組織力でもなく、従業員のobedience(忠誠心)などはいま
や底を尽きかけている。わが国産業現場での「作業工程のマニュア
ル化」などおそまつ極まり、ボクの工場経営経験ではフィリピンに
すら劣る。(asahi.comの「ものづくり新話米国発」の「マニュアル
化」を見よ。シリコンバレーのソレクトロン本社工場の例が出てい
る。「発注企業を魅了する低コストの秘密は徹底したマニュアル化
にある。ラインの前には発注元からのデータをもとにした作業指示
書が置かれ、従業員はそれに従えばいい。製品テスト用の機材にも
発注元から細かくデータが送り込まれてくる。熟練者でなくても
作業がこなせ、賃金を抑えられる仕組みだ」。「ソレクトロンのよ
うな企業はEMS、電子機器製造請負会社と呼ばれる。売上高10億
ドルを超えるEMSは既に8社、EMS全体の売上は来年には1800億
ドルに達するといわれる」とある。

 しからば我々日本は何に秀でているか。それはおそらく日々刻々
の技術的・デザイン的マイナーチェンジだろう。日本の家電や自動
車が30年間も世界をリードしてきたのは、こまめなマイナーチェ
ンジを累積させ、それによって「高品質、高精度」の賞賛を得続け
ているからだ。
 マイナーチェンジに不向きな量産化学品や鉄鋼、繊維品などの、
日本商品の海外市場などいまやあるか無きかがそれを立証している。
いま残って、國際市場で気を吐いている日本企業は例外なく、この
マイナーチェンジという技術に優れている。決して、特許とか基礎
技術に優れた企業ではない。
 おそらく今後とも「応用技術」とか「応用化学」とか称され、か
ってはやや蔑視されたこまめな変更技術(ドラッカーはそれを
innovationといい、日々刻々のイノベーション以外に利益を受ける
道はない、と言った)が、累積を重ねることによって重要性を増し
、企業の存続力になり、アメリカの嫉妬の的になっている。たとえ
中国、ベトナムに工場疎開しても、こうしたマイナーチェンジ技術
さえあれば、ニューエントリーの侵入を許さず、海外における「拡
大日本」の存在が可能なのだ。

もっともマイナーチェンジだけではどうにもならぬ業種、品種もあ
る。いわば時代の趨勢だ。その代わりに新商品、新業種が生まれる。
F氏お説の「燃料電池」「分散型発電」、あるいは「公害処理産業
」「循環型社会産業」などがそれだが、その商品にはマイナーチェ
ンジが数十年も続けられるような技術ニーズの存在が見込めるだろ
うか、そこが問題である。 
一過性の発明だけでは場持ちがしないし、亀の子タワシ的完結型商
品では変化を楽しむ年月がない。だからといってVHSやLinuxでは、
いくら無限のイノベーションが期待できても、ハードウエア生産主
体のわが国の体質にはチョット不向きである。

c.投資戦略  せいぜいがマンハッタンで不動産ビルを買って失敗
した程度の日本人にとっては、この分野は苦手だ。しかし、「拡大
日本」にとっては魅力的で、より直接的な戦略テーマであろう。
オーストラリアで広大な不動産を買い豪議会で問題になったという
鹿児島の岩崎さんや、パリのブローニュの森を買って鉱物資源を掘
り当てたとかいう和歌山の小竹さん辺りから話を聞いてみたいもの
だ。

d.ブランド戦略  急速にフランスブランドが日本市場に進出して
いる。いままで聞いたこともない有名(?)ブランドが大都会一流
場所に店開きしている。「拡大フランス」にとっては最大の戦略で
あろう。
アメリカのコカコーラも、マクドナルドも「拡大米国」の象徴であ
る。なぜ「拡大日本」戦略として「ブランド戦略」を技術テーマと
して取上げないのか。無名ブランドをごく短期間に有名ブランドに
転化させる商業経営技術、それをフランス固有の技術と誤解して指
を咥えている手はない。モレシャンさんのご亭主などに指導しても
らって、わが国でも技術開発したらどうか。「拡大日本戦略」の、
立派な技術収得科目だろう。 

最後に C)「拡大日本文化戦略」 
柳太郎氏お説のように、政治(軍事)・経済的に強い国の文化が、
弱い国の文化を凌駕するのかも知れない。
アメリカが戦後に、彼らの文化を日本に押し付ける強い意図と戦略
をもっていたとも考え難い。 しかしボクの若いころは「アメリカ
文化センター」というのがあちこちにあって、憧れとともに覗きに
行った経験はある。
韓国や中国で日本の歌が流行るのは、必ずしも日本が好きである
証拠ではない、というのは事実だが、ボクの経験では彼らの深層心
理につねに一抹の日本礼賛があり、それが裏腹なアンビバレント感
情になっているという事実も見逃してはならぬだろう。われわれと
しては、いささか面映いことではあるが。
「拡大日本」というテーマでは、日本人自身の海外拡散と、日本文
化の世界伝播こそ、庶民が「拡大日本」を身に感じる最終事実であ
ろうから、今後の「拡大日本戦略」でもっと深く、議論を重ねてい
ったほうがよいと思う。 柳太郎氏に期待する。
アメリカが世界を制覇したかに見える最大の理由は、アメリカ文化
がそのまま世界文明と化しているからだ。アメリカ経済が日本を支
配しているわけでもなければ、米軍がヨーロッパを占領しているわ
けでもない。ただ世界中至るところでアメリカ文化が通俗文明と化
し、人間生活のなかに組み込まれてしまっているからだ。もしもそ
れと同じようなことが日本文化にあれば、つまりは「拡大日本」が
実現したということになる。
「エキゾチックな日本文化」のあいだは「拡大日本」でなく、単な
る観光資源に過ぎない。 
日本文化が世界文明になっている例を挙げよう、國際真珠取引の
単位としての「匁(もんめ)」と、柔道の「技あり・一本」とであ
る。
尺貫法が厳禁された間でさえ「匁(もんめ)」は特例として認めら
れたし、オリンピック柔道で「技あり」が公式になっているのは周
知の通りである。
僅かながら文化も「拡大日本」の道を歩んでいる。それをもっと
後押しする戦略はないのか。
ボクはあると思う、ファッション産業の輸出がそれだ。フランスな
ど、ソレ一つで世界に打って出ている。衣装ファッションとか、先
に述べたブランド輸出などは比較的やりやすくて、それでいて日本
が等閑にしている分野だ。研究開発の余地じゅうぶんあり、と言い
たい。
こうした方面へは、空洞化した日本産業の余剰労働力を振り向ける
という大メリットがある。

「IT国家インド」と謂うが、8億人のインドにおけるIT人口は60
万人に満たない。同じように技術立国の日本でも、技術分野で役立
つ人口は三分の一が精一杯だろう。あとの三分の二は、とりあえず
は技術に無縁で、だからといって、危険で、汚く、きつい3K業種の
自給自足労働配置はいつまでも続かず、3ちゃん農業も終りを迎え
、商店街もほぼ消えた。どこへ労働力を吸収するかは今後の大問題
になる。 
サウジアラビアでは、工場従業員は所詮労働者で侮蔑の対象にしか
ならず、知的労働と見なされる商人にもすべてがなれるわけではな
い。せめても国家が認知し、自国民に特権を与えているのが技術者
としてのタクシー運転手である。
サウジのタクシー運転手に倣って、わが国における非技術労働者の
職場としてファッション・文化産業は将来有望ではなかろうか。山本
カンサイや高田ケンゾーは技術者としては不適かも知れぬが、ファ
ッションでは世界一流である。まだまだ後に続く文化予備軍、つま
り技術嫌いはゴマンと居る。 
ファッションも文化に含め、「拡大日本」の研究課題にする必要が
ある、とボクは思う。
死ぬ直前にフランスに帰化した藤田嗣治も、生まれながらのアメリ
カ人イサムノグチも、我々は彼らが日本人であると認識し通した。
なぜなら芸術家、つまりは文化の、世界におけるリーダーだったか
らに他ならない。言い換えれば、彼らは「拡大日本」の誇るべきシ
ンボルだったのである。「拡大日本」戦略に、文化が如何に大事か
の証左になるだろう。

以上が、ボクの「拡大日本戦略」試論である。誤謬、偏見も多いと
思う。F氏、YS氏、柳太郎氏らの、更なる議論発展の叩き台にして欲
しい。
==============================
(Fのコメント)
Kenさん、「拡大日本」の議論を拡大・整理していただいて、本当
にありがとうございます。
拡大日本の私論がkenさんによって、体系的な学問体系になっていく
ように感じます。「日本人の移住拡散戦略(哲学)」「経済進出戦略」
「拡大日本文化戦略」の3つに区分した議論に賛成です。
今後この3本柱で議論を深めましょう。


コラム目次に戻る
トップページに戻る