451−1.「陰謀」ではなく「現実的政策」として



                                                    Mond
 2月16日インターネット記事(Political Affairs 47)にこん
な記事がある。
>湾岸戦争やコソボ紛争を米軍は軍事力でもって終結させようとし
>ましたが、その試みは失敗したのではないですか?《読者の方か
>らの御意見》
 これに対し、
 『いえ、米国は軍事力で終結させたのではなく、軍事力の行使に
よって両地域に米国の主導権を残したので戦略的に大成功と言える
ようです。
 これは、軍事政策学(Political- Military Studies)からくる考
え方で、CSIS(戦略国際問題研究所)が、軍事政策学を掲げ、
国家政策に関与しているようです。特に、湾岸戦争の時、米国軍に
イラク壊滅をさせずに、ブッシュ大統領が途中で止めたのはCSI
Sの指示を受けてであったことが判明しているようです。
 CSISは、軍事学・地政学・国際政治学を合わせた軍事政策学
を作り、国際戦略をその観点から構築しているので、特に米国の
軍事政策学の分野は米国の国家戦略の中心にあるため、この動向を
知らないと米国の行動を推測できません。
 軍事政策学の中心の考え方とは、味方の近くに敵を作り、緊張状
態にして、その味方の地域に米軍を配備することです。
 つまり、EUの近傍にユーゴを作り、サウジアラビヤの近傍に
イラクを作り、日本の近くに北朝鮮を作り、味方の国に米国軍基地
を置く。米国軍の正当性を確保し、かつ味方の国々が離反できなく
する。味方の近傍の敵を殲滅しない。また、敵との外交権を米国が
取り、味方の国には外交権を渡さない。この成功例が湾岸戦争です
ね。あのエリアは、オイル戦略で昔はアラブの結束が強かったです
が、今は米国主導で政治が動いていますね。
 深読みすれば、帝国日本は軍・官僚の無責任によって中国との紛
争を解決できず、ルーズベルト大統領の戦略によって太平洋戦争に
のめり込んだのは周知の事実だと思いますが、これと同じように、
湾岸戦争も、経済が危うくなったイラクのフセインにクエート侵略
併合の罠をしかけ、米国の戦略に踊らされたのではないかと個人的
には思っています。』と、主宰者は回答している。

 以前私は以下のような文章を書いてみたことがある。
「欧米は時間をかけて陰謀を企み、実行するのが得意なようだ。
一見バラバラに見える行動様式を特徴とする彼らだが、国益にかな
うとなればす今に寄り集まって連合国を形成する。彼らはそれが
利益だとなれば裏切り、陰謀をめぐらし、寄ってたかって叩きにか
かる。そこに何の倫理性もなく弱肉強食の巷と化す。東南アジア諸
国の経済がアメリカの短期資本にあっという間に破壊されたのもそ
うだ。利益と復讐の一石二鳥の策だった。このときは注意深くシナ
、台湾を除外していることも読みとるべきだろう。ごく最近では
ユーゴスラビア(コソボ)に対する作戦もまた、異文明潰しの一環
で、アメリカ軍の駐留を目論んでいるのかもしれないが、今回の
作戦行動の利益が今ひとつはっきりしていない。NATOのお家の事情
という話しもある。はっきりしているのはアメリカを覇者として
英仏独伊を巻き込んでの“連合国”の軍事作戦であることだ。西欧
文明の利益追求の意思を如実に示している。
 話しを元に戻すが、マハティールの場合など、1992年の演説に対
し、行動に移ったのは1997年、短期資本の過激な移動によってマレ
ーシアを一瞬のうちに撃滅したのであった。今回のマハティール首
相に対してもそうであるが、古くは日本漬し、イラク潰しの陰謀な
どを考えてみるにひとつのパターンが見えてくる。
 日本に対して第二次世界大戦前の険悪な情勢にかこつけて大東亜
戦争を仕掛けたのだが、(昭和15年の自動車生産台数は日本の五万
五千台に対して,アメリカは六百八十万台であり、とても太刀打ち
できない情勢であったことを、日本側が考慮せずに戦争に走ったな
んて考える方がどうかしている。)もともと第二次世界大戦はドイ
ツとアングロサクソンの西欧文明内の覇権争いであり、第一次世界
大戦がそうであったように、アングロサクソンの勝利に終わった。
この結果、ドイツは領土を制限され、植民していた東方諸国のドイ
ツ人のほとんどは厳しく制限されたドイツ領内に帰還させられた。
 日本の場合も同様の仕打ちに終始した。明治以降勢力を移植して
いた東アジア、東南アジアのすべての地域から総引き上げを強制さ
れた。そしてその間隙を縫ってアングロアメリカは自分の勢力を扶
植したのだ。まず、この巧妙さは驚くべきものがある。考えてもみ
よ、陸地占有率がもっとも高いのはアングロサクソンの英語圏では
ないか。日本語圏もドイツ語圏も海外には全てなくなってしまった。
 まずはイラク戦争を例に取ろう。
 アメリカはイランに対抗するという名目で盛んにイラクにテコ入
れを行いアラブ有数の軍事大国に仕立て上げた。イランは経済制裁
と称して窮乏化させ戦力を削ぐ。(経済的に追い込むことが出来る
ならなにもイラクを軍事大国化させる必要はないのだ。)そうして
おいてクウェートを併合してもアメリカは何も異を唱えないという
サインを送り、フセインをその気にさせ征服欲に火をつける。フセ
インがクウェートを占領したところで、フセインは独裁者だ征服者
だと傘下の通信社を総動員してプロパガンダを展開する。このよう
に大義名分を立てておいて、「我慢ならない、人類の敵を制裁する
」との名目で宣戦布告もせずアメリカ軍を動かし、サウジアラビア
に駐留権を獲得し、ヨーロッパ諸国に連合国を募り平和と道徳を守
る使者といったポーズをとって、必ず連合軍として、フセインと
そのイラクを叩く。クウェートからイラク勢力を追い出し、アメリ
カ軍が駐留する。(このシナリオはビッグ・ブッシュとベーカーが
合意立案したという)
 結局、この戦争後にアメリカの目論み通り、10万人のアメリカ軍
が駐留する権利が認められ平和の使者として駐留している。実際の
所はアラブの石油利権を我が手に納めるために駐留したのだ。
  以前、これと同様の実に手の込んだ手法でアメリカは日本駐留
権を手に入れている。日本を悪者に仕立て上げ、戦争に持ち込み屈
服させ、「このならず者を押さえる」という名目で日本に駐留した
のだ。実は、日本に駐留できるということは東アジアはおろか東半
球全域(含むアラブ)にもその勢力が及ぶということを意味する。
つまり、日本を足がかりにアメリカはその世界戦略を縦横無尽に遂
行している。イラクに対する作戦行動も実は日本から出撃している。
 順序が逆になったが、アメリカは西欧文明の覇者として振る舞う
ことを決意してドイツを抑え、その影響力を排除し、東アジアの目
の上の瘤である日本を一挙に撃滅し、日本を足がかりに世界戦略を
構築し、中東だろうとどこにでも瞬時にアメリカ軍を展開する戦略
を立てたのだ。
 裏を返せば、もし日米安保を破棄すれば、アメリカは西太平洋及
び東半球の勢力圏を一挙に失い、東アジアどころか東南アジア、南
アジア、中東からその勢力が一挙に失われることを意味する。
(中東駐留も不可能になる。)しばらくの間はアジアは軍事的空白
になるかもしれないが、望むと望まざるとに関わらず、日本はこの
軍事的空白を埋め、戦前のように地域の秩序維持活動をせざるを得
ない立場であるため、普通の国家として振る舞うようにならざるを
得ないだろう。その際、アメリカをはじめとする西欧諸国の戦略を
挫き、悪巧みを白日の下に晒させ、アメリカの威勢は衰亡させ、単
なるアメリカ大陸のリージョナル・パワーに追い込むことだって可
能なのだ。。
 このような変化がはたして日本にとり良いことかどうかはおおい
に吟味検討する余地がある。少なくとも日本の濡れ衣を晴らし、
自尊心を回復することが出来、この伝統あるすばらしい我が日本文
明の独自性を回復し、コスモポリタニズムではなく己の矜持を保っ
て付き合うインターナショナリズムによって堂々と生きられるよう
になるはずだが、下手をすると、可能性が高いが、民族滅亡にもな
りかねない。
 問題はあの西欧文明の伝統的なチームワークによる陰謀、悪巧み
、猜疑心をどうコントロール出来るかなのだ。

  この文章は2年前にさかのぼるが、今にして思えば、「軍事政
策学」という悪魔的学問の下に政策を遂行しているわけだ。古く藤
原氏は家伝の「六韜三略」を自家薬籠中のものとして他家を陰謀に
より排除していったというが、まさしくアングロサクソンは現代の
藤原氏一族だ。イラク人もセルビア人もそして日本人も浮かばれな
いが、日本人はそんなアメリカを正義の使者と思っているだけ愚か
しい。奴隷解放、人種平等、基本的人権、民主主義、どれもこれも
ご大層な美辞麗句だが、元を糺せばそれら全て西欧にはなかった
モノで、日本にはそんなこと押しつけられずとも平和で自律的な
社会があったのだ。日本的には全会一致制の「寄り合い」という
議会を開いて物事を動かしてきたのが、戦後は舶来モノの多数決制
の民主主義的議会制度とごたまぜになって機能不全を起こしている。
日本文明に西欧文明を無理矢理接ぎ木をしようとして、そこから
化膿して膿が吹き出しているのだよ。日本人は多数決制には納得し
ないだろう。ならばどうしたらよいかと考えるのが日本の憲法学者
の仕事だろう。しっかりしてくれよ、インテリゲンチャ殿。
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(Fのコメント)
この国際戦略コラムで、1999年9月18日付けで、軍事政策学
とは何かという記事を書いた。それを読んでほしい。
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/kako/csis.htm

読めば、お分かりのとおり、Political Affairsの編者はこのコラム
記事を転載していることが分かると思う。国際戦略からの転載とコ
メントがほしいが??
この考え方の応用はいろいろな局面で、米国は活用している。それ
が悪の国際戦略である。それと同じようなことを日本もすればいい
のである。


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