448−3.心を尽くす



得丸
ー1ー 心残りのない生き方
卑近な話で申し訳ないが、、、
夕べ富山の友人たちと遅くまで飲んでました。男6人、女3人。
男性の独身者は30代半ばが一人だけ、女性はみんな独身でした。
時計の針が12時を回って、まず女性が二人帰ったのですが、一部
で話が盛りあがっていた。独身男性と女性はならんで仲良く話をし
ていたけど、そろそろ帰りたそうな顔をしているので、「君たちは
二人いっしょに帰りたいと言えば、失礼なく、自然な形でこの場を
去ることができるよ」と僕はけしかけた。

二人が立ちあがって、「すみません、僕たち帰ります」といったの
で、ついでに眠かった僕も「僕もついていこうかな」と立ちあがる
。だが、僕はとなりの男性に、「だめだめ得丸さんはこれからカラ
オケにいかなくちゃならないんだから」と手を握り締められ、帰る
ことを諦めた。この僕の行動が余分だったのかな?

でも呼びとめられたのは僕だけだったのだ。にもかかわらず、その
独身男性も、いっしゅんひるんで立ち止まった。彼女は店を出たの
に、彼はテーブルの側に立ち尽くしていて、帰らない。「どうして
彼女を追いかけないの」と思わず聞いてしまった。それから彼は意
を決して店を出たのだけど、2,3分して「彼女を見失った」とい
って帰ってきた。

この話にたいした事件性もないんだけど、僕には彼の行動が不可解
だった。ほんのちょっとでも彼女に興味があるのなら、二人で同時
に店を出て、お茶のいっぱいも飲めばよかったのに。はた目にも
二人はいい感じだっただけに惜しまれる。
彼は心残りだったのか、彼女のことを彼女の職場の同僚と話題にし
ていた。いっしょに店を出ていれば、直接本人と話すことができた
のに。

恋愛経験や女性経験が少ない僕が、女性との付き合い方をうんぬん
するつもりはない。ただ僕は、自分にとって何が最大の優先事項か
を、つねに意識しながら、一瞬一瞬を生きていきたいと思っている
ので、彼の行動がもどかしく思えたのだった。

「初級ストライクを見逃すな」ってのが僕のモットーのひとつだ。
これには、瞬時の判断力と実行力が求められる。その判断力を身に
つけるために、いつも「心を尽くす」ように生きていかなければな
らない。

ー2ー 心を尽くす
「心を尽くす」とは、なかなか言葉にはしにくい。心を尽くすこと
ができるまでには、それなりに心の訓練が必要であり、一朝一夕に
できるようになるものでもない。水泳や自転車の乗り方と同じよう
に、心を尽くす前はどうやるのかわからないし、感覚がつかめない。
心を尽くすことがわかって、日々心を尽くしていると、だんだん早
く深く心を尽くせるようになるというものなのだ。

たとえば、この男性は、心残りであったことを深く受け止めなけれ
ばならない。
自分はどうすればよかったのか、を真剣に考えるのだ。どうすれば
心残りがなかったかを考え、次からの行動にそれを生かさないとい
けないのだ。

いつも自分がやるべきことに打ちこめるように、迷いをなくす。
余計なことは考えない。自分の利益ではなく、面子ではなく、人の
ためになるか、人と交流が深まるか、人を喜ばせるか、という基準
でものを考える。

ありとあらゆる可能性を検討してみる。可能なかぎり、広く深く考
えてみる。もうほかに選択肢は考えつかないくらい考えたか。思っ
たことをすぐに行動に移せるようにする。一瞬一瞬を完全燃焼する。

自分を見つめなければ心残りを感じることもないからといって自己
欺瞞をしたり自分から逃げてはいけない。常に自分の心を真正面か
ら見据えること、心を顧みること、反省することが肝心だ。常に自
分の心に心残りがないような状態にしておくために、全身全霊を打
ち込んで、ものごとにあたるのだ。

心残りがない状態にあれば、次々と新しいことに打ちこむことがで
きる。無駄な後悔の時間がなくなる。そんな生き方を実践しなけれ
ばならない。

ー3ー 天を知る。天に事(つか)える
心を尽くすと、心の中にある思いやり、恥らい、尊敬、是非といっ
た4つの意識が活性化され、育つ。これらが仁義礼智であり、人間
が本来自分の中にもっている性質なのだ。人間の本性はもともと善
だ。それは、絶対的な善であり、聖人のもっている徳と同じである。

それを心の限りに発展させると、あなた自身が人間の本性が本来善
であることを知るだろう。人間の本性が善であるとわかれば、それ
を与えてくれた天の心を知るのだ。つまり、人間の本性は宇宙の
道理である、宇宙の道理が善であるから人間の本性も善なのだ。

この心を持ち、この本性を育て養うと、あなたは宇宙と一体化する。

自分の寿命が長いか短いかなどということを思い煩ってもしかたな
い。ただひとすじに自分の身を修めて、静かに寿命の来るのを待つ
のが、天命にしたがった生き方である。

一瞬一瞬、悔いのないように、心残りのないように、生きていくこ
と。自分の力の及ぶ範囲だけは心の限りに尽くして、あとは天命に
従うだけ。

あと何年も生きないだろうからと、自堕落な生活をしてはいけない。
今を生きているから、今日一日を天地万物の恩恵を受けて生きてい
る以上、それに応じた学問なり仕事をするのが人間の勤めだ。逆に
、まだまだ先は長いからと、やらなくてはならないことを先送りに
しては行けない。人間の命はいつ果てるかわからないのだ。

昭和の喜劇俳優エノケンこと榎本健一の歌に、「知らない間に生ま
れてて、知らない間に生きちゃって、知らない間に死んじゃった」
というのがあったけど、そんな生き方をしたいとは思わない。

論語に「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」という言葉があ
る。一瞬一瞬を一生懸命に生きていれば、突然死んでも何も思い残
すことはない。何の悔いもない。そんな人生を生きなさい。

上の2と3は「孟子」尽心上・首章の僕なりの理解である。
「孟子曰く、その心を尽す者は、その性を知るべし。その性を知ら
ば、則ち天を知らん。その心を存し、その性を養うは、天に事(つか
)う所以なり。妖寿たがわず、身を修めて以て之をまつは、命を立
つる所以なり」(孟子、尽心上・首章)


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