443−1.拡大日本とGDPの相関関係



ken
Kazuo氏説→→コスト競争力維持などの理由から生産拠点を海外に
移す企業が増えれば、日本人の職が減り、所得が減ってGDPが低
下します。そういった動きが加速すればする程日本という国の国力が
低下します。
 
F氏説→→→国際戦略としてみる場合は、拡大日本をどう進める
かを議論したいと思っています。勿論、工場の流出も止めることがで
きません。もし、止めると日本企業の力を弱めることになり、最悪は
倒産につながるからです。工場長等のキー・パーソンは全て日本人
ですよ。これと同じ事態が世界にあるのです。拡大日本ですね。この
人たちの給与は日本国内の給与と同じか高い。中国人の同ランクの
人の3倍以上、最高12倍以上もらっているのです。日本人は豊かで
すね。世界に出ても。
 
ken→→上記お二人の議論はいまのところ永久に平行線のように見え
る。しかしこの問題こそ、じつは経済学の本質(目的?)を問うもの
であり、更には日本の進路についての哲学的命題でもあると、ボクは
かねがね思っている。
 
昭和40年前後であったろうか、ボクは比較的早い時期に、当時喧伝
された「海外進出」を実行に移した。いくらか輸出が始まっていた
香港かまだ輸入ばかりの台湾かと悩んだ末、まず台湾で現地法人を
設立、それが予想外に成功したのであった。
当時、米国で「流通革命」が急進し、新旧量販店が日本から消費物
資を直接買付開始、波に乗ったボクのわが世の春も束の間、高賃金
の電気業界に押されて国内労賃が急速に上昇し、このままではわが
商品生産の先行き不安。いまのうちに低賃金の後進国へ、と考えた
わけである。
 
折角世界の量販店をたくさん客先にを持てばこそ、わが社の命運を
長らえたいとの一念だったが、さて海外で稼いだカネをどのように
して日本ヘ持ち帰るか、考えると三つの方法しかない。先ず海外か
らの「配当金」次ぎに「原料を輸出して稼ぐ」。もしくは「製品を
持ちかえって国内で有利に売り捌く」かだ。
ボクは国内販売してないので「製品輸入で稼ぐ」という手はない。
「配当金」をたんまり貰うという手は、現地国の窮乏を知っている
から、従業員の手前無理だろう。究極、「原料の高値輸出」で稼ぐ
だけだが、これとて他の値段と比べて法外に高くも出来ぬ。
さて仮に、稼いで持ち帰ったとして、それでわが社の高級とり社員
(現地に比べての話だが)たちを養えるかどうか問題だ。もし養え
ても、遊ばせておいて給料を払うことにならないか。考えれば考え
るほど、海外進出の意味が判らなくなる。
 
その頃、日経が「日本IBMの歴史ー3900羽の野鴨たち」という新
書版を出版した。そのなかで稲垣社長さんが、「戦争中に凍結され
たIBM特許料を資本にして設立され、アメリカの会社といわれる日本
IBMは、いままでただの僅かもアメリカに送金したことがない、日本
人のための、日本人3900人の会社である。将来カネに困って、
日本IBMが米国IBMに送金するようなときがくれば、その送金可能な
金額程度では米国IBMの危急は救えぬだろう」と述べていた。
 
ボクは、コレだと思った。貧乏な国で稼いで、たとえ持ちかえった
としても、貨幣価値が違う。「1000円持ち帰った」と彼ら労働
者に妬まれて、こちらで300円にしか使えず、それで日本本社の
維持費にも覚束なければ、あっさり資本搾取などやめた方がいい、
英米資本主義の二の舞では日本人の顔が廃る。日本の本社は、日本
独自で稼げばいい。
当初採用した現地社員たちを前にして言った、「ボクの楽しみでこ
の海外事業を始める、利益は持ち帰らない。貴君らの会社で、貴君
らが幸せになってくれれば満足である。だからボクの投資は最小限
に留め、生産技術と、バイヤーはすべてボクが持ってくる。バイヤ
ーはすべて世界一流、生産技術もたかが知れている。すべて下請依
存(いまでいうアウトソーシングか?)で直営工場は不要、当初の
バイヤー交渉は駐在日本人社員が担当する」。
 
これには現地の人たちもいささか驚いたらしい。 台湾人も中国人
の内、利益を求めぬ投資など思いもよらなかったそうだ。それがと
んとん拍子に成功し、4年目には予想外の利益が出たらしい。ホテ
ルに宿泊中のボクにソッと届けてくれた弁当箱のようなのは現地通
貨の束、それで家内の宝石を買った。(この会社、後に子会社五つ
を持ち、ついには台湾最初の住宅地デベロッパーまで始めたがいま
はない。)
 
そのころ企業の「海外進出」が流行り、大企業としては先ず紡績や
漁業会社が出た。
商工会議所や貿易協会がいわゆる「海外進出ゼミナール」を開催し
、ボクも講師として招請された。 
ボクは言った、「低賃金を狙っても、企業進出が始まると現地では
急に人件費が高くなる。しかも貧困な現地人に低賃金を強いれば恨
まれるだけ。 原料売りの高利潤稼ぎはすぐバレる。膨大な資本を
投入しても、順調なときは拡大投資が待っているし、不順調ならば
追加救済投入が要る。従って元本資本の日本への償還チャンスは先
ずない。日本での経費ベースでは、海外からの配当収入など雀の涙
に過ぎぬ。条件は唯一つ、製品を日本へ送り、日本で売って稼ぐつ
もりなら行きなさい。日本企業にとって、他にいいことは何もない」。
 
そのころ海外進出の珍しい成功例として、つねに挙げられるは「力
王地下足袋」と、「フジテック・エレベータ」だった。「力王」は
製品全量を持ち帰り、自社の国内販路で売ったそうで、エレベータ
の方はシンガポール法人からの配当送金で本社の経費が賄えるほど
超成功したとの話だった。それ以外の海外進出は殆ど赤字と噂され
ていた。
 
もっとも、海外進出でいい目をする人たちも居る、社員諸君だ。
現地従業員100人に一人くらいの割合で、管理職、技術者が日本
から行くが、その人たちは王侯貴族の生活が可能かも知れない。先
ず快適な住宅を借り、車を買い、運転手を雇い、お手伝いさんも要
る。無聊を慰めるにはゴルフに行くだろうし、連絡と称してたまに
は日本との往復もし、そのたびにみやげ物も買い、衣装も調える。
留守宅の手当や社会保険継続のために給料も少々は上がる。いいこ
とずくめだが、それでも2年か3年に経てば本社へ還してくれと
駄々をこねて経営者を困らせる。
(大企業は人材のプールがあり転勤もさせ易いが、中小企業ではそ
うもいかず、宥めすかして、派遣社員の贅沢にも目を瞑ることが多
い。)
ボクの経験では、一人の駐在日本人の給料諸経費合計が現地労働者
給与の150人分以上にも相当した。F氏お説の通り、「日本人は
豊かですね、海外に出ても・・」である。
 
経営者も楽しい。たまには監督に行き、ささやかな大尽風も吹かせ
る。尻馬に乗って経理部長や本社工場長クラスも出かけ、往復旅費
や遊興費はみな会社持ちだ。日本本社の経営が順調な限り、「うち
も海外で事業をしている」との宣伝効果もあり、いいことずくめで
ある。ひところ紡績や百貨店が海外進出したのはみなこうした理由
による。
まさにF氏仰せの「国際戦略としてみた拡大日本・・」である。
ボクも、「行かなければもし人件費高騰で日本で続けられなくなっ
たとき、わが企業もアウトではないか。拡大日本という戦略のため
に・・」と思って進出した。
 
その日本における本業が左前になったとき、海外は重荷の足手まと
いになり、撤退するしか他はない。紡績も百貨店も、ボクも結局は
そうなった。 
もっとも撤退以外にも方法がないわけではない。経営者が日本を捨
てて彼の地に移住し、陳さん金さんモハメドさんになって海外にお
ける出先企業を専一に守る、という方法だ。しかしこれは難しい。
先ず、異国の人になり切る決心がつかぬのと、日系銀行が親企業な
きあとの現地法人への融資を渋るという難問で、これに対抗する名
案はない。
 
いかに「拡大日本」が理想とはいえ、事実として日本自身が空洞化
し雇用機会の減少が際立ってくれば、そうも言っておれず、この
観点からすればKazuo氏ら経済学者のおっしゃる「アジアで生産され
た商品の総額は日本のGDPには含まれません。つまり日本人の所
得にはなりません」というのは、学問的にみて正鵠を得ている。
 
しかし片や、F氏お説の「国内での製造費ではかなわない事実があり
ます。戦略構築は事実を基盤とするしかないのではないですか??
希望を優先すると、第二次大戦前夜の日本の状況と同じになります
。現時点の日本の評論家と同じです。日本の今後の行くべきリーズ
ナブルな姿を提示できていない。提示している今後の姿にはどこか
にムリがある。ばら色過ぎたり、悲観過ぎであったりします。この
ような現状があるため、日本の問題点の指摘しかしないような雰囲
気が評論家の間にできています」、というのも事実に即した説得力
が充分あると思える。
 
つまりはGDPの減少によって、「日本という国の国力が低下する」
と、経済学者ないしは評論家の先生方はおっしゃるが、さてどうす
ればいいかの処方箋が経済学にまだ出来てないようだ。
経済学をする目的は奈辺にあるのか?佐和隆光先生が「経済学とは
何か」の新書で述懐したように、経済学そのものが無力・無意味な
のか? あるいはGDPなる指標が将来のわが国経済の起死回生に威力
を発揮してくれるのか?

その辺りの擦り合せが、いまの日本の「国際戦略」に求められてい
るのではなかろうか。
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(Fのコメント)
Kenさん、ありがとうございます。Kenさんの経験から出たご意見は
非常に素晴らしい、説得性のある意見であると思います。
日本は毎年工場が中国やアジアに流出して、そこで作った商品が、
日本に逆戻りしているのですが、日本で新しい製品が開発されて、
その需要があれば、日本もアジア・中国も大変いい状態になるので
す。この新需要の創造を日本は行うしかないのです。研究と開発で
す。それができないと、日本の職はなくなるでしょうね。また、
中国からの商品により、日本はデフレになって、企業は一層苦しく
なるのでしょうね。キーは、どう市場規模のある新需要を掘り起こ
すかでしょう。そうすると、エネルギー系が一番新市場、新需要を
起こすのに最適だと感じるのですが???チョッとしたアイデアで
さえ、2000億円以上の市場になるのです。この新市場構築の基
礎は、規制緩和ですよ。NTTが民営化して、新規の通信市場がで
きたような感じになると思うのですが。

評論家は知恵の時代とかと言っているだけで、具体的提案がないこ
とです。ITで日本が新市場、新需要を構築できるとは思わないの
です。市場規模の計算すると分かる。市場規模200億円はなかな
かない。すでに米国にもうこの分野は、押さえられているのです。

IT新市場を米国は創造して、10年の好景気になったのです。
その間、旧産業は米国から発展途上諸国に工場を移転したのです。
しかし、米国は好景気でした。そこには、新需要があったからです。

この状況と同じ状況を日本も作る必要があるのです。どうか、そこ
の所を分かってほしいですね。


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