435−3.日本史の特徴



                          辻本武
 日本史の最大の特徴は何か。それは国家史、民族史、地域史という
三つの歴史が、千数百年の長きにわたってほぼ重なるということで
ある。「ほぼ」と言ったのは、沖縄と北海道では近代より以前に
おいて重ならない部分があるためで、他は全く重なると言ってよい。

 このような歴史を歩んだところは世界でも珍しい。ある地域を取
り出して歴史を叙述しようとしても、そこにはいろんな民族が次々
と移動して来たり、出て行ったり、また独自の国家が作られたかと
思うと、強大国の一部となったり‥‥という歴史になってしまう。

 具体例で言うと、今深刻な紛争がおきているバルカン半島のセル
ビア共和国内のコソボという地域の歴史の略述を引用すると、

もともとコソボは12世紀末にセルビア人がセルビア王国を建国した
土地だった。しかし、1389年にオスマン・トルコに攻め入られ、ト
ルコ領となる。キリスト教徒のセルビア人には人頭税がかけられ、
彼らは17〜18世紀になるとオスマン帝国の圧政から逃れるため、
ハンガリー南部やウクライナ地方(現クロアチア領)へと移住して
いく。その後、人口の減ったコソボにトルコはアルバニア人を移住
させたのである。

 つまりコソボの地域史は、この800年の間にセルビア・トルコ・
アルバニアという三つの民族と国家が複雑に入り組んでいるのであ
る。それ以前の歴史が不明であるが、おそらく東ローマ帝国、ギリ
シア、マケドニアなどの諸国家や諸民族が入り乱れていたことであ
ろう。地域史と民族史と国家史とが全くのバラバラなのである。

 そして全世界においては、このように歴史がバラバラであるのが
ほとんどであるのであって、日本のように三つの歴史が千数百年も
の間、ずうっと重なるというのは非常に珍しい例なのである。アジ
アにおいては日本以外では、お隣の朝鮮ぐらいであろうか。

 日本史において民族や国家を論じるにあたっては、国家史と民族
史と地域史という三つの歴史が重なるという特殊性に留意しなけれ
ばならない。そうでなければ、世界に通用しない民族論、国家論に
なってしまうだろう。

「歴史と国家」雑考HPより転載
http://www.asahi-net.or.jp/~FV2T-TJMT/


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