421−1.虚妄に踊り狂った二十世紀という時代



虚妄に踊り狂った二十世紀という時代    白鳥宙

二十世紀とはどういう時代だったのだろうか。世紀末という言葉が
もてはやされ、ノストラダムスブームを始めとして、様々な終末論
が論じられた。ローマクラブの報告では科学的な見地から地球の危
機が警告されたのにも拘らず、人類の終末的な状況に対してこれを
見ないふりを決め込んでここまで我々は環境を破壊してしまった。

かの報告書では、池にある一枚の蓮の葉が一日経つごとに倍倍に増
えていき、いま正に池の半分を覆ってしまった状況になっている。
翌日は池の前面を蓮の葉が覆ってしまいその中にいる魚や蛙は酸欠
状態で死んでしまうことのなる。今地球という池の中にいる人類と
いう生き物もこの魚たちのようになってしまうだろうとの警告をも
う三十年も前に発していた。であるにも拘らず、それ以降も人類は
炭酸ガスやフロンガスを放出することを止めなかった。いま地球の
生命体を太陽の紫外線から守ってくれている薄いオゾンの幕がフロ
ンガスによって破られ赤道地区では皮膚がんに侵される人々が増え
ているが、フロンがオゾン層に届くまで十五年の歳月がかかるとす
るならば、それ以降の十五年間の害はまだ現れてはいないというこ
とだ。21世紀という時代に本当に我々の子供や孫たちは生き残っ
ていくことが出来るのだろうか。親たちが残した借金はその子供た
ちが支払わなければならない。

ルネッサンス以降人間は万物の霊長だとの思い上がりから、自然を
破壊し太古からの智慧を迷信として葬り去ってきた。理性というも
のに余りにも重きを置き過ぎた結果、人間は旧皮質の遺産である直
観力に乏しくなり全てのことを合理性という尺度のみで考えようと
してきた。その結果人間は孤独へと陥ってしまった。人間は自然や
本能を離れては生きられず、土着の心を失っては決して幸せにはな
れないのだということを多くの人は忘れてしまっている。ここに
二十世紀という時代の不幸がある。物質というものやその象徴であ
る金銭というものを全ての価値観の尺度としてしまい、余りにも欲
深く傲慢になった結果が地獄のような社会を作り出してしまったの
だ。

今特に都市部では多くの人々の顔が生彩を欠いてしまっている。
人間が都市を求めるのは物質的な価値観が根底にあるからだ。肉体
の快楽を余りに求めすぎることは享楽へと陥っていくことに現代人
は気付かないといけない。そして享楽は人間性を台無しにし、人間
を廃人にしてしまう。享楽主義の行き着く先はニヒリズムであり精
神の死である。そういう者が集まってできた社会というものはもは
や社会というに値しない。多くの文明がこれによって滅び去ってき
たのだ。

今こそ人間は自然に帰らないといけない。多くの文明が森を破壊し
文明を造ってきたがやがてはその文明は滅び去り都市のあった地域
は砂漠となった。幸い日本という国はまだ多くの山々が残っている。
緑の日本は今でも健在だ。だがその豊かな自然の中に住む現代日本
人の心は物質文明を築き上げた民族の意のままに操られてしまおう
としている。しかしきっと日本は再生を果たすだろう。何故なら全
ての日本人の心の根底にはかつての縄文人の心が生きており万葉の
時代の心も生きているはずだから。日本人は「和」というものを古
来から尊んできた。日本民族は落人たちが作った国だ。

争いを嫌って逃げてきた者同士は争い事を好まない。元々日本人は
争い事が嫌いなのだ。なのに今は多くの日本人が争いあっている。
物質文明に犯された結果だ。

今こそ我々は日本古来の伝統的な価値観に立ち返らないといけない。
自然を尊び、万物に礼拝する心を取り戻さないといけない。日本人
は世界中で最も謙虚で素直な国民なのだ。だからこそ世界中から色
々な文化を取り入れながら独自の文化を創り上げてくることが出来
たのだ。いま世界の人々は日本人のライフスタイルに憧れを抱き
日本に来たがっている。特にアジアの人にとっては日本は憧れの国
だ。なのに今の日本人はあまり幸せを感じてはいない。

物質があまり余るほどあって足ることを忘れてしまったからだ。
清貧を尊ぶ心を皆が持つようになるのは大事なことだ。自分自身は
清貧を保ちつつ、社会に対しては豊かさを与えようと努力する態度
に皆がなれば環境を破壊しないまま今の文明の利便性を維持しつつ
心豊かに幸せを感じることのできるようになるだろうし、世界の貧
富の格差もなくなるだろう。南北問題解決の鍵も結局は日本人が持
っているのではなかろうか。今こそ日本人は巨額の個人資産を世界
の貧しい人々のために放出しないといけない。かってイエスは「金
持ちが天国に入るのはラクダが針の穴を通るよりも難しい」といっ
た。日本人の持っている個人資産の10パーセントを世界のために
放出したならば、環境問題も食糧問題も解決するだろう。

いま日本人に求められているのは真の意味でのボランティア精神な
のだ。昔から日本人は「情けは人のためならず」と言って困った人
に等しく惻隠の情をかけてきた。外国人に対しても極めて寛容な態
度を示してきたのが我々の先祖たちなのだ。マルコポーロは日本の
ことを黄金の国だといって西洋に紹介した。黄金の国というのは黄
金のような心を持った国だという意味も含めて彼が紹介したに違い
ないと手前味噌ながら私は解釈している。


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